追放のそのあとで、僕は新名物を考える

闇谷 紅

過去のことは過去のこと


「異世界より流れ着いたと聞き期待しておったというのに――」


 その日、ゴミか何かを見るような目でその男は僕を城から追い出した。


「塞翁が馬、だっけ?」


 思わずそんなことわざを思い出す。異世界に迷い込んでたまたまたどり着いた村で安価な労働力として使われていた日々は僕が異世界から迷い込んだ異邦人であると知れると一変、村で見る荷馬車とはまるで比べモノにならないきちんと人を乗せることを前提とした馬車に乗せられ、城へ連れてこられたわけだが。


「『異世界人は稀有な特殊能力を持つことが多い』ね……」


 それを期待した国王は僕に期待したような特殊能力がないと知るや追放を命じた訳だ。勝手に期待して連れてきたくせに身勝手なとは思うが、悪態をつけば僕を城の外まで連れてきた兵士が暴力をふるうのは目に見えていた。


「さてと、どこに行こうかな……」


 それに不満はあるがお城で僕が得たものもある。国王が僕に特殊能力がないか確認することを命じたため、僕はこの世界に来て初めて自身に特殊能力があることを知ることが出来たのだ。


◇◆◇


「懐かしいな……もうあれから結構たつんだったっけ」


 追放から数年後。行く当てもなく王都を彷徨う、などということもなく新たな居場所を僕が獲得できたのは、幸運と国王が期待外れと見た特殊能力のおかげだった。


「おにーさん、ソレ見せてくれない?」


 読み物だったらご都合主義が過ぎるようなと思うような幸運はお供を連れた若い女の子という姿をしていた。海に面したこの王都へ船でやって来た隣国商人の跡取り娘だそうで、目を付けたのは僕が特殊能力によって召喚した芽の生えたジャガイモだった。


『生ごみ召喚』


 もう聞いただけでアレな特殊能力ではあるが、この能力の真価は跡取り娘が目を付けたジャガイモの様に植えたりして作物として栽培可能なモノも召喚できるという点が一つ。二つ目は召喚できるものに食べられるモノも存在するという点。二つ目は誰かが生ごみと見なしたというところに目を瞑ればだが。


「へー、『高く売ろうと思って持ってたら芽が出ちゃった』んだ」


 もちろんこの特殊能力を件の女の子へすぐに打ち明けたりはしなかった。ジャガイモの荒れ地でも育つとか作物として有用であることを売り込み、あわよくば次の居場所になればと考えた結果。


「まさかこの世界を大飢饉が襲うとかな」


 無事だったのは僕の救いの主である女の子の住む国のみ。売り込み通りの作物か確認してから代金は払うとそれまで面倒を見てあげると言われて女の子に連れられ隣国に渡った僕は居場所を確保するため必死にジャガイモの栽培を行った。


「村で労働力としてこき使われてたのが役に立つなんて本当に人生何が役に立つかわからないものだよなぁ」


 学校の授業で行ったジャガイモ栽培の記憶を引っ張り出しながらの栽培はうまくいき、取れた芋に召喚した芽の出た芋で種芋をかさまししてどんどん収穫量を増やしたジャガイモは飢饉から国のひとたちを救ったこともあって、気づけば国を代表するような作物になっていたのだ。


「まぁ、一つの作物に頼るのは危険だし」


 僕は新たにいくつかの作物を齎すことを決めていた。ジャガイモが出回ったことで僕の特殊能力が有用なことが僕を追放した王の居る国にバレてしまい、その流れで特殊能力もちであることは女の子にもバレてしまったからだ。

 ちなみに僕の特殊能力が有益と判明した結果、基金も相まって噴出した不満によって反乱がおき、僕を追い出した国王は反乱軍に討たれて死んだのだとか。


「それはそれとして、今あるジャガイモもなぁ」


 僕は今、ジャガイモを使った名物料理を考えてくれと拾ってくれた女の子にせっつかれているのだ。


「シンプルにフライドポテトとかでもいいけど、シンプルなのは簡単にマネできるし……他の名産とも組み合わせた方がこの国の特色出るよな……」


 唸りつつちらり見た先は、女の子に連れられて渡ってきた海。穏やかな海面に日差しが反射し、どこかからはカモメの声が聞こえる。


「海産物……シーフードコロッケとかかな?」


 シンプルでないジャガイモ料理として最初に思いついたのはコロッケだが、あいにくこの国は畜産は盛んでなく、肉より魚を好んで食べるような国でもあるのだ。


「シーチキンとか肉っぽい食感の魚肉もあったし、アレを使えば――」


 とりあえずどんな料理にするかは定まった。


「と、いう訳で料理人を貸してほしいんだけど。後は材料を購入するためのお金とか」

「仕方ないわね。まぁ、あなたの思いつくモノってアタリが多いし……」


 何より最初のジャガイモが大当たりだったからだろう、女の子には相応に信用されていて。それが信用だけではなくなったのはいつごろからだったか。


「ありがと、それじゃ早速始めるよ」


 手渡された革袋の中身は数枚の金貨。試作品の材料費にはあまりある。資金と人員を得た僕は今は妻でもある女の子に礼を言うと市場に出かける準備をいそいそと始めるのだった。



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追放のそのあとで、僕は新名物を考える 闇谷 紅 @yamitanikou

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