第3話 大勝利編

(貴様らは余のかてとなるために生まれてきた。

 神の供物くもつとなる重要な役目やくめであるぞ。

 なぜ抵抗するのか)


「美味いから」


(えっ)


「俺たち腹減ってたんだよ、ゴメンね」


(…………)


 こまってる。

 神様リアクションにこまってる。


(……ケダモノのたぐいか貴様ら?)


 飯田と神が対話している間にも、生徒たちはガツガツと邪神の身をむさぼり食っている。


「んー?

 なんか邪神とはちがう味が混ざってねーかコレ?」


 邪神を吸収して身長2メートル以上に成長していた男子生徒が、大きな口をモゴモゴ動かして首をひねる。

 

「そう言われてみればたしかに……。

 濃厚のうこう芳醇ほうじゅんな実の中に、苦くて酸っぱくて薄っぺらく、それでいて安っぽい味が混ざっているような……」

「そうか、わかったぞ!

 これは肝川の味だ!

 さっき死んでしまった肝川の味だよ!」

「なるほど、この安っぽい味はまさに肝川だ!」

「キャー、アタシ肝川食っちゃった……」


 一瞬食事の手を止める生徒たちであったが、しかし何事もなかったかのようにまた食べ始める。


「ふむ、しかしまあ肝川も『付け合わせのタクアン』みたいなもんだと思えばそれなりに」

「なるほどなあー。

 ひたすら濃厚な邪神を食いまくって疲れちまった味覚を、あっさりとした肝川の酸味が休ませてくれる。

 なかなか良いコンボだ」


 なんと生徒たちは死んだ肝川の味まで楽しみはじめた。

 邪神の影響なのか結構なサイコパスっぷりだ。


「肝川……テメーのことは忘れねえ。

 俺の中で生きろ(栄養として)」


 カッコつけてそんなセリフを言うやつもいる。

 あんまりカッコ良くはないが。


 皆の意見を聞きまとめ、飯田がうなずいた。


「よし、この食いもんは『邪神のパーティプレート~肝川ソースを添えて~』にしよう」

 

(いい加減にせぬか!)


 料理名までつけられて、邪神は遅ればせながら激怒した。


(ようやく分かったぞ、貴様らもともと人間らしい優しさとか皆無かいむだろう!

 他人を蹴落けおとし自分の利益だけを追及する現代社会の闇そのものだ!)


「いや目玉のはえたゼリーにそんなこと言われても」


 そう言いながら飯田は無数にある邪神の目玉を一つえぐり取って、チュルンと飲み込んだ。

 これがまた美味い。

 マスカットのようであり、ブルーベリーのようでもある。

 巨峰っぽいといわれればそうかも知れない。

 つまりブドウの良いところを一つにまとめたような目玉なのだ。


(余の食レポはもうよいわ!)


 飯田の中で邪神の魔力がふくれ上がった。

 他の生徒たちからも邪悪なオーラが立ち上る。


(そうとなれば話は早い!

 貴様らのような邪念のかたまりを支配するなど造作もないことよ!)

 

「うぐっ、ぐわあああ……!」


 暗黒のオーラに包まれ、胃袋のあたりをおさえて苦しむ飯田。

 邪心にみちた狂気の表情で彼はつぶやく。


「食イタイ……!

 モット食ワセロ……!」


(お前、食欲しか無いんかい!)


 とうとう邪神まで関西弁でツッコむしかなくなった。


「金……金ガ欲シイ……!」

「モット美人ニ、スタイルモ、靴モ、アクセモ!」

「身長ゥゥ! 体重ヲ維持シツツ身長ダケヲ伸バス方法ハァァ!?」 


 みんなそれぞれ有りのままの欲望を口にしだした。


「グーだ、グーを買い占めるんだっ……!」


 変なのも多少混ざっている。


 みな見た目どおりの邪悪な化け物となってしまったかのようだった。

 かなり紆余うよ曲折きょくせつあったものの、ついには全員邪神に取り込まれてしまうのか。

 

 しかし! たった一人だけ人間の姿のまま何かをつぶやいている女生徒がいた!

 出席番号一番、安藤天使さんだ!


「大好き……大好き……」


 彼女はあいかわらず床にへたり込んだまま、アへ顔で邪神の肉体をチュルチュルすすっていた。

 

「邪神様……大好き……(味覚的な意味で)」


 全員が変貌へんぼうしてしまった中で、彼女一人だけが人間のまま邪神をすすっていた(アへ顔だけど)。

 邪神の魂はなぜか彼女のつぶやきを聞くたびに力が弱まっていく。


「大好き……(味覚的な意味で)」


(や、やめよ)


「大好き……(味覚的な意味で)」


(やめろー!!)



 パアアアン!



 クラスメイト達を包んでいた闇のオーラがなぜか消し飛んだ。

 欲望に狂っていた生徒たちは一斉に正気にもどる。


「えっ、アタシら何がどうしたんだっけ?」

「たしか邪神のパワーが急に強くなって……」

「くそっ、パーも買い占めるべきだったっ……!」


 オロオロしている生徒たち。

 みんなの様子を確認し、いつも伊達メガネをかけている多摩川たまがわ虎南こなん君に電流がはしった!


「そうか、わかったぞ!

 邪神の弱点は《愛》だ!

 魔物の神である奴にとって、人間の《愛》は毒になるんだ!」


 虎南君はアへ顔ですすりつづけている安藤さんを指さした。


「ボクたちも食べよう!

 愛だ、愛をこめて美味しくいただくんだ!」

「おお~!!」


 クラスメイト達は一斉に手を合わせ、小学校の時くらいによくやっていた声を合わせた。


『いた~だき~ますっ!』


(や、やめろーっ!!)


 超人軍団というか、怪物軍団というか、とにかく超越的なスーパーパワーを手にいれた生徒たちを止めることは不可能だった。

 くい止めようとするサタン先生たち化け物集団を軽くブチのめし、生徒たちは残りわずかとなった邪神の身体に殺到さっとうする。


 そこから先はただの立食パーティだった。

 人生最高の美味を味わい、笑顔で歓談かんだんする。

食材・・》に対する感謝ももちろん忘れない。

 お世辞ぬきに最高にうまいのだから、愛することも感謝することも簡単なことだ。


(アア、アアアアア……)


 滅びゆく邪神の魂。

 今まさに消え去ろうとするその瞬間。

 安藤さんは邪神にむかって情熱的な瞳をむける。


「邪神様、わたしはあなたに永遠の愛を誓います(食材的な意味で)」


(いらねえええ……)


 それが邪神の最期の言葉となった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「さあ行こうぜみんな!」


 サタンたちをブン殴って情報収集をおこなった生徒たちは、異世界『深世界』とやらに旅立っていく。

 旅の目的は元の世界へ戻ること――ではなく、新たな美味にめぐりあうことだ!


 サタンが言うには『力の強いものほど美味い』というのがこの世界の基本的ルールなのだという。トリ○みたいですね。

 そしてこの深世界はすでに九割までもが魔族の支配地になっているのだとも。

 生贄いけにえとなる人間が少なくなりすぎたので、サタンたちはわざわざ異世界まで行って人間をさらってこなければいけなくなったのだそうな。

 

 となれば話は簡単。

 彼らが美味い魔族を狩って食えば、人間は領地をとり戻せる。

 一石二鳥!


 そんなこんなでいざ冒険の旅へ!


 先頭は出席番号順で、「アへ顔聖女」安藤さんが行く。

 出席番号二番「暴食魔王」飯田がこぶしをかかげ、後ろのみんなに笑顔でさけんだ。


「さあ行こう!

 オレたちの食レポはまだこれからだー!」

『オーッ!!』


 いざ食欲のおもむくまま、若者たちの冒険がはじまった!

 めでたしめでたし。

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イケニエたちの逆襲グルメ!? ~窮鼠猫を噛んだらイッちゃいました~ 卯月 @hirouzu3889

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