推し活の起源

菅田山鳩

第1話 推し活の起源

推し活とは、

お気に入りのアイドル、俳優、キャラクターを応援する活動の事。

その起源は、

平安時代までさかのぼると言われている、とかいないとか。


時は平安、10××年。

とある、城下町。

「もっと火をくべよ。太鼓を鳴らすのだ、笛を吹け。」

ドコドコドコ、ブオオォー、ブオオォー。

「まだ小さい。もっとかき鳴らさぬか。何を休んでおる。躍りもやめるでない。」

「平八殿、しばし休息が必要にござりまする。我々は、2日も寝ておりませぬ。」

「たわけっ。桃姫様がこの城下まで下りてこられるのだぞ。寝てなどいられるものか。」

「しかし」

ブオオォー、ブオオォー、ドンドンドン。

3町ほど先、火を囲って、太鼓や法螺貝をかき鳴らす男衆が見える。


「チッ、喜助どもか。皆のもの、負けてならぬぞ。精進せよ。」

ドコドコドコ、ブオオォー、ブオオォー。

男衆は、お気に入りの姫様に気に入られようと日夜活動していた。

これが後の『推し活』である。


「平八殿、桃姫様が1町先まで来ております。」

「そうか、太鼓の用意をせよ。皆のもの準備じゃ。ゆくぞ。ひとつ、ふたつ、みつ。」

ドコドコドコ。

「「「もーもーひーめーさーまー」」」

ドコドコドコ。

「「「うーつーくーしー」」」

ドコドコドコ

「「「もーもーひーめーさーまー」」」

ドコドコドコ

「「「とーうーとーしー」」」


桃姫はゆっくりと歩いてきて、平八たちの前で立ち止まる。

「此度も盛大な出迎え、ご苦労であった。褒めてつかわす。」

「ありがたきお言葉。米と野菜をお持ちいたしました。」

「ほう、見せてみよ。」

「こちらに。」

「ふむ、なかなかの出来だな。芋はあるか?」

「はい、用意してございます。」

「よろしい。次も頼むぞ。では、城まで運んでおけ。」

「承知しました。皆のもの、城まで運ぶぞ。」


「篤姫様はまだか?」

「ただいま、2町先まで来ておられます。」

「よし、我らもゆくぞ。ひとつ、ふたつ、みつ。」

ドンドンドン。

「「「あーつーひーめーさーまー」」」

ドンドンドン

「「「うーるーわーしー」」」

ドンドンドン

「「「あーつーひーめーさーまー」」」

ドンドンドン

「「「おーくーゆーかーしー」」」


篤姫は足早に駆け寄ってきて、立ち止まる。

「皆のもの、出迎え、かたじけない。されど、前にも申した通り、これほどまでに大きな音を立てずともよいのだぞ。恥ずかしゅうて、恥ずかしゅうて。」

「お言葉ですが姫、小さき音では姫に恥をかかせることになってしまいますゆえ。」

「音が小さいからと言って、恥とは思わぬぞ。」

「他のものに笑われてもよいのですか?」

「よい。私は、なにも恥じることはないゆえ、笑われようともよい。」

「承知しました。ご無礼をお許しください。」

「わかればよいのだ。」

「姫様、米と野菜を用意しました。」

「それも前に申したであろう。食事には困っていないゆえ、お主たちで食べよと。」

「ですが」

「受け取れぬものは、受け取れぬのだ。子や嫁にたらふく食べさせてやれ。」

「はっ、ありがたきお言葉。」

「私はもう少し城下を楽しむゆえ、お主たちははやく家へと帰るがよい。」

「承知しました。皆のもの、片付けて帰るぞ。」


「はて、平八、あれは誰じゃ?」

「あれは、篤姫にございます。」

「篤姫?」

「はい、山のほうにある城から城下まで来ているようです。」

「ほう、田舎者がのこのこと。目障りじゃな。」

「いかがいたしましょう?」

「ここ最近は空気も乾燥しておるからのう。山火事には気を付けなければな。そうであろう、平八。」

「左様でございますね。山火事には注意しなければいけませぬ。」


「喜助殿、喜助殿、大変です。」

戸を叩く音ととも、外から声がした。

戸をあけると皆が血相変えて集まっていた。

「どうしたと言うのだ。こんな夜更けに。」

「それが、大変なんです。あの、平八が、山で、あの。」

「落ち着け。平八がなんだって?」

「平八たちが、松明もって、篤姫様の城のほうへ行くのを見たんです。」

「城のほうへ?何の用だ?」

「おら、なんか嫌な予感がして。皆に集まってもらっただ。」

「嫌な予感?」

「城に火、つけるつもりじゃないかと。」

「ばかな、そんなことすれば城のものは皆、死んでしまうぞ。」

「でも、平八ならやりかねない。」

「わいも、嫌な予感さする。」

「俺もだ。」

「わしも。」

「俺も。」

「俺も。」

「わかった。すぐに準備して向かおう。」


山道を走っていくと、先のほうに明かりが見えた。

「あそこだ。急ごう。」


城の前には、松明を掲げた男たち集まっていた。

「平八、何をするつもりじゃ?」

振り返った平八は高らかに笑う。

「はっはっは、喜助か、ちょうどよいところに来たな。お前もよく見ておけ、城とともに篤姫が燃えるところを。」

「何を言っておる。やめるのじゃ。自分が何をしようとしてるのかわかっているのか。」

「喜助殿の言う通りにございます。平八殿、もう辞めましょう。我々も火などつけとうない。」

「そうですよ。もうやめにしましょう。」

「人殺しなんてしたら、嫁やせがれに顔向けできねぇ。」

「お前ら全員、裏切る気か。だが、そうわいかぬぞ。桃姫様を裏切れば、お主らの子も嫁も城下では暮らしていけぬ。城下を追われて生きていけるのか?子や嫁は食うものに困って、飢え死ぬぞ。」

「それは...」

「たしかにそれは困るな。」

「あぁ。」

「篤姫は今まで、贅沢してきたんだ。俺たちはひもじい思いをしてきたのに。」

「そうだ。だから、それの報いを受けるべきだ。」

「言われてみればそうだよな。」

「そうだよ。」

恐怖による支配は、驚くほどに効果的で、あっという間に伝染していった。

「何を言っているんだ、お主たちは。篤姫がお主たちに何をした?そんなことをした手で、子や嫁を抱きしめられるのか?」

「うるさい。お主たちも篤姫と同じだ。」

「そうだ。我々と違って、お主たちはいつもたらふく食べていた。」

「そうだ。」

「不公平だ。」

「報いを受けろ。」

「それは、お主たちの」

「喜助殿、もうなにを言っても無駄にございまする。」

「されど」

「やめましょう。言ってわからぬものたちには、こうするしかないのです。」

「わかった。されど、殺してはいかぬぞ。決して殺してはいかぬ。殺せば我々も同じになってしまう。」

「承知した。」

「承知。」

「承知にござる。」

「承知。」

「承知。」

「では、皆のものゆくぞ。」

「おぉー。」

「わぁー。」

「おりゃー。」

「余裕のあるものは、城のものたちを避難させてくれ。」

「わしが行こう。」

「俺もいくぞ。」

「俺もだ。」

「頼んだぞ。」


戦いは熾烈を極め、喜助たちには多数の怪我人が出た。

それもそのはず、平八たちの武器は桃姫が用意した戦用のものであったのに対し、喜助たちの武器は即席で用意した農作業用の鍬や鎌であった。さらに、平八たちは容赦なく殺しにかかってくるが、喜助たちは殺さずの信念を守りきっていた。


時間とともに喜助たちの怪我人は増え、戦況は悪化していった。

「喜助、もう終わりか。さっきまでの威勢はどうした?」

「まだ気付かぬのか。自分が間違ったことをしているということに。」

「ほざけ。そうやって、いつも、いつも、説教ばかりしやがって。俺は間違ってなどいない。」

「わかった。もうよい。」

「なんだ、まだやる気か?」

「推して参る。」

キンッ。

喜助の放った鎌の一撃は、平八の日本刀を真っ二つに折った。


しかし、暴徒と化したものたちは止まらなかった。

「はっはっは、残念だったな。喜助。おれに勝っただけじゃ、城は守れんぞ。」

「くっ、なぜだ。なぜわからぬのだ。」

「おりゃー。」

「死ねー。」

「おぉー。」

「頼む。もうやめてくれ。頼む。」

「皆さん、大丈夫ですか?」

顔をあげると、篤姫とその家臣たちが立っていた。

「避難してもらおうと行ったら、私たちが助けにいくって聞かなくてよ。」

「当たり前です。皆さん、私たちのために戦っていただき、感謝します。もう大丈夫です。手当てが必要な方は城の中へ。医者に視てもらってください。」

戦況はあっという間に覆り、平八たちは山を下りていった。


「皆さん、本当にかたじけない。」

「無事でなによりじゃ。」

「そうだとも。」

「よかった。」

「俺らは当たり前のことをしただけだ。」

「その通り。いいこと言うのう。」

「本当にかたじけない。」

これが世に言う『推し活夏の陣』


「くそ、次こそは必ず。」

「まだやる気ですか?」

「当たり前だ。このままでは終わらぬぞ。」

「されど、我々にも怪我人が出ております。」

「知るか。死ぬまで戦ってもらうぞ。ん?なんだ、その目は?子と嫁がどうなってもいいのか?」

グサッ。

グサッ。

グサッ。

脇腹に小刀が刺さる。

「お主ら、なにを?」

「もうついていけぬ。」

「もう耐えられませぬ。」

「限界にござる。」

「桃、姫様を、裏切ると、言うのか?」

これが後世まで語り継がれることとなる、

『推し変の乱』

桃姫の横暴に耐えかねたものたちは、

次々に推し変していった。


家臣を失った桃姫は、城を追われ、山奥で、ひっそりと暮らすこととなった。

今まで、家臣たちに頼りきっていた桃姫にとって、山での暮らしは厳しいものになった。

食料の確保もままならず、城での生活で丸々太っていた体は、あっという間に痩せ細っていった。

これが後の『干される』の語源になったと言われている、とかいないとか。

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推し活の起源 菅田山鳩 @yamabato-suda

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