アイドルオタ奮闘記

北京犬(英)

推し活


「あんたのジョブ、何なのよ!」

「気持ち悪りー」

「追放ね」

「ああ、満場一致だな」


 クラス転移に巻き込まれた俺は、訳の分からないジョブ【アイドルオタク】とリアルにアイドルオタだったこともあり、クラスの連中にあっさりと見限られた。


 勇者だなんだと偉そうなジョブを得たのはスクールカースト上位の連中だった。

クラス1の人気者、滝沢愁斗たきざわしゅうとが勇者なのは気に食わんが妥当か。

そして、このクラス1の美女、アイドル活動もしている広瀬沙雪ひろせさゆきが聖女になったのは当然のことだろう。


「追放なんて可哀想だよ。

皆で一緒に元の世界に帰ろうよ」

「まあ、広瀬が言うなら仕方ないな」

「おい、オタク、感謝しろよ!」


 さすが聖女様、いや俺のアイドルは女神だな。

クソたちはどうでも良いが、彼女のために微力を尽くそう。

彼女が同級生であることも奇跡だが、芸能人なことを鼻にかけずに、俺みたいな底辺同級生にも分け隔てなく声をかけてくれる。

こんな良い子、推すしかないよな?


『推し活を開始しました。

対象者広瀬沙雪にステータス値2倍のバフが恒常的にかかります』


 俺の頭の中にシステム音声が響いた。

どうやら俺のジョブである【アイドルオタク】は、推しメンに対してバフをかけることが出来るようだ。

沙雪ちゃん、これからも推し活、期待してくれ。


 ◇


「この役立たず! せめて活動資金でも稼いで来いよ!」


 沙雪ちゃんにバフをかける以外、俺のジョブは何の役にも立たなかった。

他の同級生からすれば、何の能力も持たないように見える俺は、ただのお荷物扱いだ。


 異世界生活は厳しい。

クラス転移をして、王家に囲われてでもいなければ、その活動は生きるためのみに特化する。

そこで魔物を狩れるとか、薬草からポーションが作れるとか、武器防具を修理できるとか、何らかの特技を持つジョブでなければ、生きていくことだけでも厳しくなる。


 素で一般人のステータスしか持たない俺は、完全に勇者チームに養われている状態だった。


「このままではまずい」


 俺は自分が得意な事で勇者チームを支援することにした。


 まず、勇者チームの活躍を宣伝し英雄化のプロパガンダを行なった。

そこらへんは、アイドルを推すノウハウが生きた。

勇者、聖女、賢者、聖騎士、戦士をアイドル化したのだ。

そしてファンクラブを結成、勇者チームを支援するクラウドファンディングを開始した。

これにより、勇者チームの活動は支援する俺たちも含めて資金的に楽になった。


 しかし、それによって不幸な事態が起きてしまった。

王族に見つかり、勇者チームは王家から召喚されることとなったのだ。

巨大スポンサーの獲得は、勇者チームには幸運だった。

だが、その他大勢の同級生たちは不要な存在となってしまったのだ。

王家が欲しいのは勇者チームのみ。

次第に連絡が途絶え、とうとう俺たちは勇者チームから切り離され放追された。

そして、一番不要と見做されたのは、たかがクラファン程度の立ち上げしか出来なかった俺だった。

クラファンの運営は同級生たちに乗っ取られる形になったのだ。


 俺の推し活は資金の払拭により頓挫した。

そして気持ちの上での推し活も、ある事件により絶たれてしまう。


「王子様、おめでとうございます」

「沙雪姫、うらやましい!」

「お似合いの夫婦ですわ」


 そう、王国の王子と俺のアイドル沙雪ちゃんが結婚したのだ。

既に沙雪ちゃんは王子の魔の手にかかっているという。


「中古だ。中古に用はない!」


 俺は、その青天の霹靂ともいえる事態に、アイドルオタクの悪い部分が出てしまっていた。


「推し変だ!」


 俺は賢者の枢木玲奈くるるぎれなに推し変した。


『推し変を確認しました。

推し活の対象者枢木玲奈にステータス値2倍のバフが恒常的にかかります。

なお、対象者から外れた広瀬沙雪にはデバフがかかります』


 俺の2倍のバフ効果が無くなっただけでなく、更にデバフがかかった広瀬沙雪は、その能力を大きく下げ、聖女とは言い難い能力しか発揮出来なくなった。

結婚したアイドルなど、推し活の対象足り得ないのだ。

アイドルは恋愛禁止!

だから推されるというものなのだ。

こうして、俺の【アイドルオタク】のジョブは、裏切り辞めたアイドルには不幸を齎すことになったのだ。


 新アイドルの枢木玲奈はどうかって?

勇者の滝沢愁斗とくっつきやがったよ!

アイドル同士の恋愛なんて禁忌だぞ?

あり得ねーよ!


 俺は同級生からも追放され、彷徨い、スラムで獣人の女の子に助けられた。

自分の食い扶持が乏しいのに、俺に食べ物を分けてくれたんだ。


「天使だ!」


 今からこの子を推していこうと思う。

俺のバフによって、獣人の女の子――ミケは、冒険者として活躍出来るようになった。

ミケは、その野生の勘で、俺がバフをかけていることに気付き、俺を大切に扱ってくれた。

俺はこの子を推し続けることを誓う。

俺の推し活はこれからだ!

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アイドルオタ奮闘記 北京犬(英) @pekipeki0329

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