松村奏の密かな推し活。
白兎
第1話
先日、地球防衛軍特殊部隊日本支部の仲間と共に、都庁に現れた宇宙船を撃破した松村奏は、現在十六歳の高校生。
都庁周辺はまだ瓦礫の撤去中。破壊した奏たちも力を使って労働していた。
「壊すのは簡単だったけど、片づけは苦手よ」
奏が言うと、
「無駄口叩かず、さっさと片付けろ」
特殊部隊日本支部のリーダー、鋼屋鋳次に注意された。
「お前ら学生は、そろそろ帰りなさい」
そう言ったのは、地球防衛軍の指揮官の鮫島。
「はーい」
真っ先に返事をしたのは、もちろん奏だ。
特殊部隊日本支部のメンバーは、リーダーの鋼屋鋳次と、松村奏、桜井千夏、横山嵐の四人と、訓練生の野村依千子だけ。
訓練生の依千子は中学生で、他の四人は高校生。彼らが特殊部隊に所属している理由は、その能力の高さだった。
彼らは先日の活躍でも分かるように、街を丸ごと吹き飛ばして瓦礫にしてしまうほどの破壊力を持っている。
訓練生の依千子はまだ、実戦に出動することはないが、彼女の能力もかなりずば抜けている。
奏が労働から解放されて、向かった先は、母の弟の家だった。
「おじさん」
「やあ、奏ちゃん。この間の活躍すごかったね」
「そうでしょ。私、すごいんです」
「はははっ。奏ちゃんってかわいいね」
「おじさんがそれを言ったら、卑猥です」
この叔父、なんとも頼りなく、情けない人生を送っていて、奏はそんな叔父が気がかりで仕方なかった。
「おじさん、今のお仕事は順調?」
「まあね。ここなら続けられそうだよ」
「しっかり頑張って働いてよ。お母さんも心配してるんだから」
奏も密かに応援している。見た目も悪くはないが覇気がない。どこに勤めても長続きしない。
叔父は大手の外国車販売の会社の正社員として働いていたが、社内不倫の末に解雇となり、嫁に離縁され、その後仕事を転々とし、お付き合いする女性もいて、同居するも、大きなプーさんのぬいぐるみを置いて、出て行かれた。
こんな話まで、親戚中に知れ渡り、可愛そうでならない。
だから、奏は叔父さんを密に推し活しているのだった。
「おじさん、イケメンなんだから、自信もってね」
「どんな自信だよ」
「お仕事頑張っている姿はかっこよく見えるのよ。これから、恋愛だって出来るわよ。いろんなことを諦めちゃだめよ」
「お前だけだよ。そんなことを言うのは」
「いいじゃない。一人でもそう言ってくれる人がいるんだから」
若い頃の叔父さんは、イケメンで、美人の奥さんがいて、可愛い娘が二人いて、とても輝いていた。
不倫さえしなければ、ダンディーな叔父様になっていたに違いないと奏は残念でならない。
「じゃあ、私帰るね」
「ああ。来てくれてありがとう」
叔父さんはいつも、奏が来ると喜んでくれて、ありがとうと言ってくれる。奏にはそれがとても嬉しかった。
「おじさんにはもっと、私のプロデュースが必要ね。どうしたら、ダンディーで素敵なおじさんになるかしら?」
奏は日々、推しのおじさんプロディースに頭を悩ませているのだった。
松村奏の密かな推し活。 白兎 @hakuto-i
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