夢見草。遠い遠い惑星にて。

 無事、彼女は元の星に戻り、青い星で見つけた幻想的な淡いピンク色の木の花を再現させる活動が本格的に始まった。最初にやったことは、師匠の手を借りて、頭の固い上層部を説得することだ。食べられる物ではなく、間接的に役に立つわけではないため、納得させる理由を考えるだけで苦戦ものだったが、どうにかクリアが出来た。


 難関を突破し、あとは楽なのかというと違う。遺伝子操作。環境調整。やるべきことはまだまだあった。


 そうこうしている内に、十数年の時が経った。寒い日が多い彼女の故郷の惑星、公共の地に硝子で作られた庭園の空間に、ある植物が立派に花を咲かせていた。太い根っこが大地に根付き、幹が太く、淡いピンク色の花が所狭しとある。ハートに近い花びらがゆらりゆらりと舞っていく。


「師匠! こっちです!」


 木の下にいる彼女は手を大きく振っている。大人になっているが、活動的で活発という根本なところは変わらないのかもしれない。


「急かすでない! 歳を取っても変わらんな!」


 師匠は乗っている紅色の板を操作させ、ゆっくりと移動していく。


「それにまだ時間じゃないだろ。ユメミグサはそう簡単に逃げやしないのを知っとるだろ!」


 知的生命体がまだ青い惑星にいた頃、淡いピンクの儚い花の木は「桜」、「cherry blossom」、などと呼ばれ、大きい大陸の東にある……彼女が最初に到着した島国の別名ではこう呼ばれていた。


「夢見草」


 夢のように美しく咲き、儚く散ることから名づけられた。そして遠い遠い知的生命体がいるこの惑星でも実際の発音は異なるものの、似たような意味合いで名付けられていた。


 夢のような儚くて美しい花を遠い星に咲かす。その夢物語のような宣言を、彼女は成し遂げて見せていた。自分の見た夢を友人や師匠など親しい人に見させるために。

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夢見草。青い惑星から。 いちのさつき @satuki1

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