第5話
最下位、玲子――――
「玲子、大丈夫?」
涙ながらに私を囲むメンバー、カメラの前のその涙は本性ではないことも分かっている、皆自分が可愛いんだ、だから私は涙を流さない。
「大丈夫、玲子ならまた戻ってこられるよ」
楓が肩を叩く、その顔の裏は笑っているのか、それとも安堵の表情なのか? まぁそれもどちらでも良くなった。
「どうでもいいよ、うざいし」
「え?」
私がなりたかったアイドルは、私から全てを奪った、こんなものになりたかったなんて、自分が情けない。
無くしてはじめて気がつくとはこのことなのだと痛感してももう遅い。
カメラの前でアイドルが無表情、汚い言葉に。放送事故になりかねないギリギリの所だろうか、気を遣うそれももう終わりだ。私はこの世界から身を引くのだから。
今後はどうしよう……
そんなことは今は考えられない、とりあえず、開いた傷口をゆっくり埋め直そう。
あの時はごめん――――
その一言を言いたくて皆にメールを送る。返事は来なくていい、今さら来るとは思えない。これは自分への罪滅ぼしだと思うようにした。
『なんか、玲子が遠くなっちゃってて、こっちこそごめん』
『あの時みたいに戻ろうよ、玲子』
返信は直ぐに返ってきた。私はこみ上げる気持ちを抑えられず、涙を流した。
「ありがとう」
涙が落ちる画面に着信が入る――――
電話の着信は幸利からだった。
「幸利、私、ごめん」
「お疲れ様、玲子。帰っておいで」
私が本当になりたかったのは――――
「大きくなったら幸利のお嫁さんにして」
幼い頃に言った言葉を思い出していた。
了
私のなりたかったもの OFF=SET @getset
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます