第4話 余韻、浸る暇なし
次の日の朝。入学後初めての土日。
土曜日か、と思いきや今日は日曜日。
昨日は溜まった疲れからか丸一日惰眠を貪ってしまった。
やっと得た休日を2日間とも睡眠に費やすのはまだピチピチの高校1年生として
よって今日は激動の1週間を乗り越えたご褒美に、島の綺麗な景色を写真に収めに行くことにした。
この島に来た2月の頃はまだ寒く、引っ越し後の荷物整理や住民手続きに追われていたのもあって、島の観光名所を巡る気力も時間もなかった。
そのため、今になって実行しようと思い立ったのだ。
「じゃあ、行ってきます」
親父の形見の一眼レフ、水分補給のためのスポーツドリンクを持って、今や家族同然となった自転車に跨る。
どうやら幸運はまだ続いているようで、空は雲一つない快晴だ。
「いいものが撮れそうだな。とりあえず高校近くの公園にでも行くか」
「ふぅ、やっと着いた」
登校で慣れているとはいえそこそこの勾配がある坂を自転車で登るため、まあまあ堪える。
ただ、そこから見える景色は教室の窓から見た時と遜色ない美しい景色だった。
「まず一枚。」
左の目で遠くの水平線を見据え、右の目でしっかりとファインダーを覗く。パシャリ。
ちなみに普段は眼鏡で過ごしているが、覗くときに邪魔になるため今日はコンタクトを着けている。
自己紹介の時には写真が趣味だと言ったが、撮っているのをクラスメイトに見られるのはあまり気分が良くない。その点、今日はコンタクトなので同一人物だとは誰もわからないだろう。
1枚目にしてはそこそこのクオリティのものが撮れた。
まだまだ無言で撮り続ける。
「まあ、こんなもんかな」
一通りアルバムを見直した後、結局一番良かったのは最初に撮った一枚だった。
その後も裏路地に
「あー...(やばい、18時過ぎかよ... 飯作るのめんどいな、カップ麺でいいか) 」
と、一人暮らしの学生の味方であるカップ麺に感謝しながらお湯を注ぐ。
ついこの間見た映画で「2分が美味いんだよ」みたいな事を言っていたのを思い出し、きっちり2分測って蓋を取る。
「....うん、美味い」
麺も不思議肉も若干硬め。だがそれがいい。
「ご馳走様でした。」
お腹も膨れた事で、さっさとひとっ風呂浴びて布団に入って寝ようと考えていたところ、湯船に浸かった段階で忘れていた事を思い出した。
「そういえば、みんなは入る部活決まったかなー?月曜日に最終決定だから、決まってない人は土日に考えてきてね〜!」
(とかなんとか
いっそ自分で作ってしまおうかとも思ったが、手続きが面倒だという理由で却下した。
(マジで、義務なのを呪うよ)
風呂から上がって布団に入ってからも部活動決めは頭の中を支配していたが、次第に眠くなってしまい、深い眠りに落ちていった。
写真を見直して余韻に浸る暇などなかったのは言うまでもない。
結局のところ、次の日の最終決定日になっても考えはまとまらず、皆が早々に入部届を書き終えて各部活の集合場所へと向かう中、遂には先生と2人きりになってしまった。
「あれ、
「あー、はい、そうなんですよ。興味の湧く部活がなくて...」
「運動は苦手なの?」
「いえ、苦手というわけではないですけど...あまり好きではないですね」
「そっかー、うちの学校、運動部ばっかりだもんねぇ。文化部代表みたいな吹奏楽も女子ばっかだし...と、そんな君に、先生からいい案を出してあげよう!」
「え、なんですか、まさか自分で作れとか言わないですよね?」
「あー惜しい!近いんだけど、【いつなん部】ってのがメンバー足らないんだよね!君と同じ1年生が作った部活?同好会?いやサークル?みたいな感じでさぁ〜、どうかなっ?」
「え、なんですかそれ...」
心の中では「ネーミングセンスどうなってんだよ語呂悪いな!」とか思ったが、口には出さない。
「どーせ入りたい部活ないんでしょ?
だったらちょーっと人助けすると思って!ね?」
と押し切られてしまい、先生に部活名の欄に【いつなん部】と書かれた紙を渡され、
4階の端、4-S教室に向かうことになった。
教室を出て、周囲に誰もいないことを確認する。
「いや、【いつなん部】ってなんだよ!?」
余談だが、実里先生にはバッチリと聞こえていた。
いろいろっ! 潮騒 @shio-sai
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