恩着せ

#365日ショートショート 063

「うるさいな。誰のおかげで食えてると思ってるんだ」

　男は怒鳴った。女は、負けじと反論する。

「ひどいわ。その恩着せがましい言い方。いったい何様だと思ってるの」

　すとんっ、と箸が飛んだ。食事中の喧嘩である。

「もう、危ないじゃない。なにをするのよ」

「お前がうるさいのがいけないんだろ。まったく、なにが夫婦円満だよ。それも、言うに事欠いて何様かだって。笑わせる」

　椅子から立ち上がった男は、素早く女の首に手をかけた。ぎぎぎ。力がこもる。「お前がいけないんだからな……」

　やめて、が言葉にならない。次第に女の顔は青白くなり、ひっくり返ったセミのように四肢が空を切る。しかし一向に終わる気配はない。目の前が暗くなっていく。

　……ぷつん、どたん。

　数分後、それはリビングに横たわっていた。男は大きなため息をつく。「しまったなあ、またやってしまった。えっと、連絡先は……」

　スマホの奥からは、事務的な男の声が聞こえた。

「お電話ありがとうございます。夫婦円満アンドロイドサービスです」