おしあい へしあい
桐山じゃろ
終
推し活をしている人の中には、推しに自分の存在を知ってもらいたいという欲求を抱く人もいると思う。
それが私だ。
イケメン俳優である推しに近づくため、私は推しが所属している芸能事務所に就職し、ありとあらゆる努力やアプローチを積み重ね、ついに推しのマネージャーの地位を獲得した。
ここまでくるのに金も時間も湯水のように使い、時には人に言えないこともしてきた。
今、推しは次の収録までの合間を使って仮眠をとっている。
私の目の前で、推しが無防備な姿を晒している。
推しが私に心を開くことはなかった。
なにせ人気俳優だ。恋愛がご法度なのは当然。
本人も、今は恋より仕事に精を出している。
私はそんな彼の姿に惚れて、推し始めたのだった。
しかし今、健康の維持や撮影に万全を期すため、というプロ根性から、心を許さない相手である私の前で呆気なく眠りに落ちた。
嬉しい。
この瞬間を、永遠にしたい。
私は、推しの首にそっと手をかけた。
*****
去年事務所に入ったばかりの新人が、今月から俺のマネージャーになるという。
普通じゃ考えられない、異例の抜擢の影には、彼女が人に言えないような手段をとったとも噂されている。
なんということだ。
僕は彼女に一目惚れしていた。
彼女が僕のマネージャーになりたいのだと知っていたら、僕が直接手を回したのに。
彼女にそんな手段を取らせてしまったことに、憤りを感じる。
立場上、恋愛はご法度だ。
こんなに近くにいるのに、彼女との会話は仕事上必要なことだけ。
寂しい。
すぐ近くにいるのに、手に入らないなんて。
彼女の前で仮眠をとってみた。
昨晩はちゃんとした睡眠をとれたから、実のところ眠たくはない。
だけど、彼女の前で無防備な姿になってみたかった。
彼女に何もかも許したかった。
願いが通じたのだろうか。
彼女が眠る僕の近くに、息を潜めて近寄ってくる気配がした。
何をするのかと思えば、僕の首に、その細い指で触れた。
心臓の音が聞こえないように、願うしかできなかった。
ああ。
彼女の手にかかるなら、本望だ。
おしあい へしあい 桐山じゃろ @kiriyama_jyaro
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