いつものようにVtuberの推し活してたら、幼馴染が拗ねたんだが?
さばりん
推し活してたら、幼馴染が拗ねたんだが?
『へいー! 皆、元気にしてたかーい?』
「いぇーい!」
『今日は、マリルのお誕生日ライブに来てくれて、ありがとー!』
「huooooーー!!!!」
俺、
「マリルー! 一生ついて行くぞー!!」
まさに気分は絶好調!
なぜなら今から、推しのVtuberである
期待に胸躍る中、後ろから無機質な声が降り注ぐ。
「明樹うるさい。少しは自嘲しなさいよ」
後ろのソファに寝転がり、ジト目でこちらを見つめてくるのは、幼馴染の
お互いの両親が共働きで、夜遅くに帰ってくるため、こうして俺の家にやってきて、夕食を食べていくのが日課になっていた。
まるで実家のようにソファでくつろぐ幼馴染に対し、俺はふっふっふと怪しく笑う。
「悪いな結衣香。俺は今この瞬間を見逃したら人生が終わっちまうんだ」
「あっそ……」
俺の熱弁を呆れた様子で聞き流した結衣香は、すっとスマホへ視線を向けてしまう。
悪いがこの一時間だけは、全力で推しである冬海マリルの誕生日ライブを楽しむと決めていた。
何を言われようとも、俺を止められる奴などこの世に存在ないのだ!
『それじゃあいっくよー! ミュージック……スタート!!』
「YEAR!!!!!!」
こうして俺は、この後一時間ほど、冬海マリルの誕生日ライブに熱狂した。
『最後まで見てくれてありがとー! まったねー!』
エンディングが流れ始め、俺は感動の涙ちょちょ切れで鼻を啜っていた。
「うぅぅぅぅぅっ……マリルちゃん最高だったよぉぉぉぉ……」
ぐっと目頭を押さえていると、リビングの扉が開く。
「終わった? って、何泣いてるの?」
「だっでぇ……マリルぢゃんが尊ずぎでもうヤバいんでずぅぅぅぅ……」
むせび泣く俺の様子を見て、結衣香はドン引きしていた。
「はぁ……それは良かったわね」
「うん……良かった!」
「あっそ」
結衣香はそれだけ言って、ぷいっと顔を背けてリビングを後にしてしまう。
「おい、どこ行くんだー?」
「帰るのよ!!」
「あっ、ちょっと待てって」
結衣香は俺の制止の声を完全に無視して、バタンと扉を閉めて隣の自宅に帰ってしまう。
「ったく……待てって言ったのに……」
俺は思わず、頭を掻いてしまう。
「ひとまず、準備だけするか」
テレビの画面を消して、俺はペンライトやライブグッズを仕舞い、次の準備へと取り掛かる。
「これでよしと……」
準備が整い、俺はその足で結衣香の家に向かう。
ピンポーンとインターフォンを押すものの、反応はない。
俺がもう一度インターフォンのボタンを押す。
しばらく待っていると、玄関の扉が直接開き、結衣香が剣幕な表情を浮かべて顔を出した。
「……何?」
「結衣香、ちょっと家に来てくれないか?」
「嫌だ」
「頼むって」
「ふん、いいもん。どうせアンタは、推しのVtuberの事で頭がいっぱいで、何にも覚えてないんでしょ?」
「そんなことないよ」
「じゃあ今日が何の日か言ってみなさいよ」
「結衣香の誕生日……だろ?」
「……」
俺は平然と答えると、結衣香は玄関に合った靴を履いて、ドスドスとこちらへやってきた。
「アンタね! 覚えてるならなんでもっと早く言ってくれなかったのよ!」
「いやぁ、推しのライブが終わってから祝おうと思ってたんだよ。ってか、俺が結衣香の誕生日を忘れるわけがないだろ?」
「もう馬鹿! さっきまで私の事なんて眼中にすらなかったくせに……私とそのVtuber、どっちが大事なのよ⁉」
「そりゃ、結衣香に決まってるだろ」
俺が当然のように答えると、結衣香は驚いた様子で目を見開いた。
「は、はぁ⁉ 冗談はよしてよ!」
「冗談じゃないよ。俺はちゃんと、結衣香の事を一番大切に想ってる」
「んぐっ……ちょ、調子の良い事言って、また私を騙すつもりでしょ?」
「そんなつもりはないんだけどなぁ……」
まあ、マリルちゃんのライブに没頭しちゃってた俺も悪いので、今回に関しては怒られても仕方がない。
「それじゃあ、どうしたら結衣香の方が大切だって分かってくれる?」
「推しのグッズ全部捨てて」
「なっ……そ、それは流石に……」
「ほら、やっぱりVtuberの方が好きなんじゃない。私なんてもうどうでもいいんだ!」
「わ、分かったって、捨てるから! 今からゴミ袋用意するから待ってろ!」
俺は慌てて取り繕い、家へと戻ろうとする。
すると、ガシッと結衣香に手を掴まれた。
「えっ……ちょっと、アンタ本気?」
「だって、結衣香が捨てろって言うから……」
ごめんなマリルちゃん。
俺の推し活はもうここで終わりみたいだ。
「べ、別にそこまでしなくていいわよ……」
「え? でも捨てろって――」
「その代わり!」
俺の言葉を遮るようにして、結衣香はポッと頬を染めながら声を荒げた。
「……私が本当に大切だってこと、行動で示してよ」
そう言って、恥ずかしそうにモジモジと身体を揺らす結衣香。
俺はふぅっと息をついてから、彼女の両肩に手を乗せた。
結衣香の身体がびくっと跳ねる。
「なっ……何よ?」
「いいから、目瞑れ」
俺が促すと、結衣香は言われた通りスッと目を閉じて顔を少し上げた。
そして、俺はゆっくりと顔を近づけていき……結衣香の唇に軽く口づけを交わす。
「んっ……」
唇を離すと、結衣香から甘い吐息が漏れる。
全く、こういう所が可愛くて、俺の彼女はやっぱり最高だ。
「ごめんな、せっかくの誕生日なのに、推しにかまけて、ちゃんと結衣香の事だけを見てあげられなくて」
「……ほんとよ。こんなこと許してくれるの、私だけだよ?」
「うん、そうだね」
結衣香は、はぁっと一つ大きなため息を吐いた。
「全く、明樹のVtuber好きも、ここまで来ると病気ね」
「ぐっ……言い返せないのが辛い」
「まあでも、付き合いが長いアンタだから、今回は特別に許してあげる」
両手を腰に当てつつ、結衣香が俺を許してくれる。
「ありがとう結衣香。大事な彼女の誕生日に推しのVtuberを優先するクズだけど……結衣香が良ければ、これからもよろしく頼む」
俺が反省したように頭を下げる。
「んっ……でも今回だけだから。来年はちゃんと、私の事だけ見てくれなきゃ許さないから」
「うん、約束する」
「言ったね? もしこれで約束破ったら、針千本本当に飲み込ませるからね」
「分かってる」
「んじゃ、今回は特別に許してあげる。ったく、こんなに心が広い彼女、私ぐらいしかいないんだからね?」
「ごもっともです。やっぱり、俺の彼女は結衣香じゃなきゃダメだ」
「こら、そうやってすぐに調子づくな!」
そう言って、結衣香は俺の脳天にチョップを入れてくる。
「イテテテテッ……」
俺が頭を抱えて悶えていると、結衣香はくすっと笑みを浮かべた。
「全くもう……ほら、私のお祝いしてくれるんでしょ? 早く戻るわよ」
そう言う彼女の口元は、ニタニタと緩んでいた。
「あっ、そう言えば今日って、明樹のご両親って家に帰ってこないんだっけ?」
「えっ? あぁ、うん。出張だから明日の夜まで帰ってこないよ」
「それじゃあ今日は、朝まで寝かせないから、覚悟しておいてね」
そう悪戯っぽくウインクして見せる彼女の表情は、凄く楽しそうだ。
こんな可愛いらしくて俺がVtuberを推していても許してくれる寛容な彼女を、俺は一番の推しにしようと、この時、心に誓うのであった。
いつものようにVtuberの推し活してたら、幼馴染が拗ねたんだが? さばりん @c_sabarin
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