推しに顔と名前を憶えてもらうのです

高岩 沙由

顔と名前を憶えてもらうために頑張るのです。

 都内の企業でヘルプデスク要員として働いている菜摘の休日は箱推し(グループ)している、K-POPアイドル、Xのコンカ(所属事務所が運営している公式ファンカフェ。ファンが写真を投稿したり、アイドル本人が書き込む掲示板がある)を見ることから始まる。


 韓国語がわからなくても、翻訳サイトを使えば読むことも書き込むこともできる。

 コンカのチェックが終われば、日本の公式SNS各種とメンバーの公式SNSをチェックする。


 一通りのチェックが終わり、朝食をしている時に、1通のメールが届く。


 メールには、Xが3か月後にライブを開催するという、いる活(日本活動)の内容で、確認が終わると、自分が作ったXのファンダム(私的なファンクラブ)会員向けに、サポート(この場合ライブ開催時に贈るプレゼント)する人を募る。

 10分もしないうちに20人が集まったので、SNSで部屋を作り、参加者を招待して、サポートの内容を決める。


 今回は半年ぶりのいる活ということもあり、みな気合が入っているが、サポート内容は、定番のフラスタ(フラワースタンド/ライブ会場入り口に飾る花)と食事の2本立てになった。


 ここまで決まったら、1度、日本の所属事務所にメールを送り、サポートの有無と受けてもらえる場合、当日、会場にいるスタッフの数とを確認する。

 早ければ、メールを送った日に帰ってくるが、1週間経っても返答がない場合、再度メールをするか、直接、事務所に連絡することもある。


 メールの返信を待ちつつ、準備できるところは事前にやっておく。


 まずは、フラスタに使うボード(フラスタの真ん中に刺さっている、メンバーの写真やライブのタイトル、日時、参加したファンダムメンバーの名前を書く)を、得意なスタッフにお願いする。

 ボードの写真は公式サイトから使ったり、Xのマークを使って作ったりする。

 出来上がれば、直接花屋さんにメールで送り、いい感じに仕上げてフラスタに飾ってくれる。

 フラスタはいつもお願いしている花屋さんにスケジュールとどういったフラスタにしたいかイメージと予算を伝える。


 食事に関しては、Xのメンバーの好みと嫌いな食べ物を除外した結果、和食屋さんの弁当3種類を適当な数で分配し人数分頼むことにした。


 そうしているうちに、日本の所属会社から返答があり、サポートを受けてもらえるとのことで、食事サポートの受け取り時間と担当者の名前を確認し、お礼の返事と共に食事の内容と飲料水の差し入れをすることを伝える。


 すぐに、ファンダムのメンバーにサポートOKの連絡をし、花屋さんに金額を伝え正式依頼を出し、飲食店に弁当を発注する。

 この段階で支払いを済ませてしまうので菜摘が一旦立替え、領収書をもらい、サポート参加者の参加費で後から清算する。


 サポートに参加する人の参加費は1か月以内に銀行振り込みでお願いし、期限までに入金がない場合は催促する。


 サポートの準備に追われている時に、チケットのファンクラ先行が始まるので、エントリーをする。


 ここまで終わると、やっと一段落した、と思える。

 突発的なことがない限り、花屋さんからも、飲食店からも、日本の事務所からも連絡はない。

 あとは、ライブの開催を待つのみ。


 だが、ライブの入場開始前に菜摘はサポートの責任者として会場に早くに乗り込む。

 花屋さんから届いたフラスタを入口に設置してもらい、ライブ終了後にファンダムのSNSでアップするための写真を撮る。


 お昼に間に合うように弁当を手配しているので、会場の入口で弁当と飲料水を受け取ると、こちらもライブ終了後にファンダムのSNSでアップするための写真を撮る。

 撮影が終わると、担当者の方を呼んでもらい、弁当と飲料水を渡してサポートは一旦終了となる。


 夕方からライブスタートとなる場合、4時間以上時間が空くので、早めにきたペン(ファン)同士でご飯を食べたり、お茶をしたりして、グッズ販売の時間まで、Xの韓国活動の話しをして、ひさしぶりにXのメンバーに会える嬉しい気持ちが高まっていく。

 

 ライブが始まってしまえばあとは、ペンラを思いっきり振ってはっちゃけるだけ!

 推しのTからペンサ(ファンサービスだが、ステージ上にいるメンバーから指さししてもらえたとか、ウインクをしてもらったとか)がもらえた~!といった話しで盛り上がるのは、ライブ終了後の打ち上げの楽しみだ。


 ほろ酔い気分で家に戻ってきても菜摘にはファンダムのSNSにフラスタや弁当差し入れのサポートをした写真をアップし、公式SNSに@マークをつけて発信する。


 それが終われば、日本の所属事務所に改めてお礼メールを送り、今回のサポートに使った経費を計算し、参加メンバーに領収書を写メして報告してすべてのサポート活動が終了する。


 サポートは大変ではあるが、推しメンに顔と名前を憶えてもらいために力が入る。

とはいえ、Xの公式SNSに菜摘達が送った弁当の写真をのせ、片言の日本語で、ありがとうございます!、と書いてあるだけで嬉しいのだ。

 その弁当にも小さくだが、サポートに参加したファンダムメンバーの名前をいれてある。


 接触イベント(握手会とか2ショット写メ会とか)に行った時に、推しメンにサポートした時の名前を伝え、地道にサポートに参加していき、推しメンに名前を呼んでもらった時ほど嬉しい瞬間はない。


 菜摘は箱推しだが、メンバー3人とも大好きなので、接触イベントに行けば、必ずアピールしておく。と共に、ちらっと食事の好みが変わっていないか確認する。


 そうして次回のサポートも力を入れて頑張るのだ。

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推しに顔と名前を憶えてもらうのです 高岩 沙由 @umitonya

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