【KAC2022】推しのゾンビガール

第1話

俺はゾンビだ。

名前は... 何だっけか？

忘れた。...最近物忘れが激しくてね。

何せ物理的に脳みそが半分しかないんだ。

昔の記憶なんて、その辺にこぼれ落ちてしまったよ。

そんな俺だが、最近は生きる希望に満ち溢れているんだ。

...ゾンビが希望を持つなんておかしい？

そんな事はないさ！

こうして物事を考える事ができる存在には、何にだって希望は必要な事なんだよ。

そんな俺の希望っていうのはさ、推し活だ。

ゾンビの中にも、可愛い子がいたんだよ！

黒い長髪に、スラッとした手足。

片腕がないところなんて最高にキュートだ。

...それはおかしい？

え？ いったい何がだい？

まあそんな事はいいんだよ。

俺はもうさ、この娘の為だったら何でも出来ると思ったね。

だから今も、こうして人間をプレゼントするために、民家を襲っているんだ。

「死ねぇぇぇ！！」

人間が何かを俺に叩きつけてきた。

ちょっとムカッときたから、頭を殴って吹き飛ばす。

ああ！ またやってしまった。

彼女には、綺麗な状態でプレゼントしたかったのに。

まあでも、彼女は優しいからこんな物でも喜んでくれるだろう。

男の体を引きずりながら、俺は彼女の下に向かう。

「おあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ........」

黒髪の彼女が、俺に近づいてきた。

ああ。いつもこの瞬間はドキドキする。

そして、俺の目の前でゴリゴリと人間を食べ始める。

あああああ。何て可愛いんだ。

血塗れで必死に人間を捕食する彼女に、俺はもう目が離せない。

これこそ、本当の推し活だよな？