おしかつ!

ひなみ

本文

「今日は推し活について話をするわよ」

「え、どうしたの急に?」

「いいから、ユリナ。あんたにも推しの一人くらいはいるでしょ。そのあたりの話を聞かせなさいよ」


 お昼休みの時間になるとミカは私の席までやってきて、確かにそう言ったのだ。

 彼女は前の席の椅子を私のほうに向けて、お互いが顔を合わせる形でそのまま座った。


「どうしても?」

「どうしてもよ」


 この子は一度言い出したら聞かない。仕方がないなぁ。


「揚げたてを卵でとじた丼ものが好き。お店に毎日でも通いたい」

「それは推しカツ」


「二度漬け厳禁の」

「それは串カツ」


「名古屋と言えば」

「それは味噌カツ。ちょっと、真面目にやりなさいって!」

「結構ノリノリだったくせに」


 顔を紅潮こうちょうさせた彼女は、両手の平をうちわのようにしてあおいでいる。


「うるさっ。次はちゃんとやってよね」

「むずかしいよね、ボタンをすぐに叩けなくて、相手に答えられちゃって……」

「それは押し勝つ」


「次こそはー!」

「おっし、勝つ!」

「「……」」


 妙な間があいた。

 自分の握ったこぶしを見て、我に返った様子の彼女が机をバーンと叩く。


「……じゃないわ、こらー!」

「いや結構楽しそうだったよね?」


「藤原南家なんけ始祖しそである、藤原武智麻呂ふじわらのむちまろの次男」

「それは藤原恵美ふじわらえみの 押勝おしかつ

「正解」

「ふふ、当然よね! ってクイズやってるんじゃないのよ!」


「わかったよ。私の推し活はね」


 ミカを親友としていつまでも見守っている事。

 彼女の側にずっといる事。

 それが私だけの、私にしかできない推し活。


「やっぱり、秘密!」

「え……そこまで言いかけといてそれ!? あーもー、気になるじゃない!」

「見てこれ、推しカツの入ったお弁当! はい、あーん」

「はいはい。ま……食べてあげなくもないけどさ?」


 外からの風でカーテンがひらひらと舞い、差し込んだ日の光は私達を照らす。

 もぐもぐと美味しそうに食べて笑う彼女は輝いているように思えた。

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おしかつ! ひなみ @hinami_yut

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