第13話 ただ、世界が好きなだけ
「つーわけでだ、お前さんら。正義も悪も関係ねえ。男が気に入った男のため、俺も混ぜてもらうぜ! なぁ、カウラミ……」
「き、さまぁ……」
突如僕の目の前に現れた男の人。
十人の勇者戦団という、A級の力を持った僕をも追い詰めた彼らが、一瞬で後ずさりしている。
ただそこにいるだけで、一瞬で空気が変わった。
さらに……
「確かに、良いファイトだったよ、坊や」
「勇者に憧れる若者を失望させる者どもは、自分たちに任せてもらおう」
まだ二人! いつの間に僕の左右に……。
「あ、あなたたちは……」
この二人も強い! 分かる! 気配すら察知させずに僕の左右に立ち、その身に纏う雰囲気や空気からも、僕よりも……ひょっとしたら、ジェノサリアにも匹敵するのでは?
「ふ、ふふふふ……まさかお前たちとは……ノコノコと……ノコノコ現れて僕たちの邪魔をし、さらには魔族のゴミまで助けようとするなど、それが貴様らの正義というやつか? つくづく貴様はやはり失格の悪童勇者だなぁ!」
「カカカカカ、勇者だの正義だの、グチグチとうるせーな。何べんも言わせんな。俺ぁ別に勇者とも名乗ってねえし、こだわりもしねえ。正義なんかも知ったことじゃねえ」
「なにぃ!?」
「ただ、ぶっとばしてえ奴を自由にぶっとばす! ダチになりてぇ奴と自由にダチになる! そして自由に世界を楽しんで生きる! それが俺の望み!」
「黙れ! 斬る……この場で貴様らを―――!」
勇者!? この男も勇者なのか? しかし、悪童勇者? いずれにせよ、目の前のカウラミとはまるで雰囲気も、そして人間的にもまるで違う。
自分勝手な自分のことだけしか考えていないことを叫んでいるだけなのに……何故だ……この男の言葉一つ一つに僕の胸が高まる!
「リーダー、自分がやろう。十分だ」
「お? おいおい、待てよ。先に助太刀に入ったのは俺。つまりここは俺の――――」
「やれやれ……では、ここは間を取って私がやるということで」
って、何か三人で揉めだした?!
「ちょ、あなたたち! 敵が目前まで――――」
「「「ちょっと、邪魔ぁ!!!!!」」」
「―――――――ッ!?」
な、なにが……あった……
「ご、が、がはっ!?」
わ、分からない。いや、目の前で起こったことは分かった。
三人の男たちが襲い掛かってくるカウラミたちをちょっと払うようにしただけで、あの十人が一瞬で……
「リーダーはこの間も勝手に暴れただろう。あんな凶暴な戦い方では勇者に憧れる少年の夢を壊すであろう。ここは自分がスマートに」
「いやいや、だから俺が先に手ぇ出したんだから、俺がやるのが筋ってもんだろうが!」
「やれやれ、またもめ事……本当にストレスが溜まるものだね。だからここは争いを避けるべく私が――――」
い、いや、まだ揉めてますけど……
「ちょ、ま、待ってください! もう敵はノビてますよ!?」
「「「……あ…………」」」
「いや、「あっ」って何ですか! 「あっ」って!」
し、信じられない。アレほどの敵を倒したことすらも気に留めない。ただのワンパンチ……な、なんだ……何なんだこの3人は!
「つ、あ、悪童どもめ……」
と、そのとき、他のノビている連中と違い、一人だけ何とか意識を保っている男がいた。カウラミだ。
「おお、なんだ、お前さん無事だったか。よし、かかってこい! 勝負だ!」
「いや、ここは自分が……」
「間を取って私が―――」
「いや、もう決着ついてますから、何なんですか、あなたたちは!」
分からない。何なんだ、この野蛮な人たちは。しかもメチャクチャで……何よりも強い。
「なぜ……だ……なぜ、それほどの強さを持ちながら……」
「あん?」
「かつての大戦で……僕たちを率いてくれなかった……一緒に、勇者の仲間として……」
そんな男たちに対して、カウラミはまた泣き言のように呟いた。
かつての大戦? 勇者の仲間として?
すると、男は頭を掻きむしりながら……
「だーかーら、俺、勇者じゃねえっての。いや、俺の仲間はどうか分からんが、少なくとも俺ぁ違う。お前らのように正義だの大義だののために戦ってねぇ。ただ、この世界で楽しく自由に生きるために、そして男として引くに引けずに戦わなくちゃいけねえ奴がいた。それがたまたまテメエらの敵だったオートンだっただけだ」
「き、さま……」
「和睦ってのも、別に人類と魔界がどうののつもりはねえ。ただ復讐だの恨みだのを無くして、まぁ、気が合う奴らは一緒にこれから楽しくしようぜってなっただけだ」
父さんの……じゃあ、この人は! この人は! この人は!?
「ふざけるな! そんな勝手なことをした所為で……だいたい、魔族のクズどもがそれで大人しくなったと思っているのか! 奴らはきっと虎視眈々と再び地上を制圧する準備を進めているはず……それなのに、貴様が勝手をした所為で連合国のバカ王たちは軍を解体し、僕たちまで……」
カウラミの言っていること……それは本当だ。母さんもジェノサリアもまだ「終わっていない」と口にしているからだ。
だからこそ、その点に関してはカウラミは間違っていない。
だけど……
「んなもん、俺が知ったことかよ。国や世界同士で仲悪くて喧嘩したい奴らは勝手に喧嘩してりゃいい。俺は個人で勝手に仲良くするからよ。な? 兄ちゃんよぉ~」
「ふぇ、あ、えっと……あ……あなたは……まさかまさか……勇者フ―――」
「よせやい、勇者なんて。俺たちぁだだ世界を遊んで生きている、大人になれないガキのような……ただのバッドボーイズだ♪」
勝手に僕の肩に腕を回してきて、そんなことをカウラミに対して告げる、あまりにも身勝手で暴論な弁。
勇者とは程遠い、周りの迷惑も何も考えていない。
なのに、言葉に熱を感じるのはどうしてだ!?
この男は一体……
「その御方からその汚い手を離せ……クズが」
「「「ッ!?」」」
「へ、あ、わっ!?」
て、また僕も気づかないうちに、って、これは更にまずい!?
どうして彼がここに!?
「ジェ、ジェノサリア!?」
「……は? ジェノサリア……おおお、それって魔王軍、つか魔界最強の剣士とか言われているあのジェノサリアか!? おいおい、つか、何でそんなのがここに居るんだ!?」
ジェノサリアの登場には流石の彼も驚き……って、僕も驚く。
そうか、母さんに言われてジェノサリアも……
「まったく、貴様は……余計なことをしてくれたな……」
「え……」
「せっかく私が……王子がピンチになった瞬間に颯爽と現れてその危機を救い、王子が私に憧れてお兄ちゃんと呼んでくださる計画を実行しようとした矢先に……よくも抜け駆けしてくれたなッ!!」
「……は?」
あ、ジェノサリアは今現れたわけじゃなく、もっと前から……
「魔界最強剣士ジェノサリア……会うのは初めてだが、なるほどな……いや、待て。それよりもこの男、今この少年を何と呼んだ?」
「……ええ……いま……『王子』……と。とすると、少年。君はひょっとして……」
それはさておき、元々僕自身も名乗っていなかったこともあったし、彼らも僕の素上に関して想定外だったのか、流石に誰もが驚いている様子だ。
僕が魔王オートンの―――
「カカカ、そいつは驚いたな。顔は全然似てねえが、そっか……カカカカ! 確かに、その気合入ったところは似てるかもしれねえが、ま、関係ねえよ! 誰の子だろうと、俺が気に入っちまったんだからよ!」
「え……」
「まっ、お前さんが俺に対して恨みがあるってなら、それはそれで間違っちゃいねえけどな……」
だけど、彼は確かに驚いた様子を見せるが、驚き方が僕の予想とは違う。
なんというか、僕を魔王の息子や魔界の王子としてではなく、あくまで僕は僕として見てくれているような気にさせてくれる。
「ええい、何をゴチャゴチャと! それに、そこで転がっている貴様らも……せっかく私が颯爽と現れて王子を救って好感度アップ作戦が……アッサリ敗れおって! 貴様らにも責任があるぞ!」
「な、え、なにを……何を身勝手な……っ、み、みがって……」
と、それどころではない。というか、デジャブ?
意味の分からない怒りをぶちまけるジェノサリアだったが、その怒っている理由がどうやらブーメランのように突き刺さっているのか、ジェノサリアの身勝手な怒りにカウラミたちも言い返せないでいるようだ。
ただ、それでもやはり……
「だが、一番は……全て貴様だ! 悪童勇者フリード! 王子の教育に悪い貴様は、一秒でも早く切り捨てるッ!!」
「させねえぇよっ!!」
次の瞬間、ジェノサリアの魔界最強の剣に対して、拳一つで迎え撃つ勇者フリード。
両者の尋常ならざる世界最強の力と力のぶつかり合いが、激しい衝撃波を生み出して、僕たちを――――――
ああ、間違いない。あのジェノサリアを相手に生身で、しかも一人で迎え撃つことができる人間など、この世に一人しかいない。
この人が、父さんのライバルだった、勇者なんだ。
ちょっと想像とは違った。
実際、彼はカウラミのように他の人間たちから勇者として称えられているというわけではなさそうだし、本人も勇者と名乗っているわけではない。
身勝手。荒々しい。メチャクチャ。己の欲望に忠実で、周りがどうとか、正義だとか世界の平和や人類や魔族の未来について考えているわけではない。
だけど……
――僕をあなたたちの仲間に入れてください!
衝撃波がやみ、目を覚ました時にはジェノサリアはいなかった。気を失っていた僕を介抱してくれた勇者フリードとその仲間である人たちに、僕は考えたわけではなく、ただの本能でそう叫んでいた。
――カカカカ、仲間に入りてーか。そんなもん、入りたきゃいくらでも入りゃーいいぜ♪ こんなもん世界を渡って喧嘩して、気づいたら仲良くなったハミ出し者たちでつるんでいるだけの集まりだからよ!
そう、それ以来僕は……
「おっほー、まだジェノサリアは追いかけてくらぁ~。よっぽど俺が憎いんだろうなぁ~」
「ふっ、イカれている。あんな男がシィーリアスの兄になろうとするなど……可哀想に。シィーリアスよ。落ち込むことは無い。自分が代わりに兄になってやる」
「おやおや、どこまでも追いかけてきそうだけど、困ったねぇ。あれクラスと喧嘩すると、流石に人類も魔族も黙っていないからねえ」
「けっ、関係ねえよ! 黙ってねえなら両方ぶちのめす……と言いたいが、ジェノサリアは拳の会話が通じねえ相手だから、なるべく相手にしたくねえから逃げるぞ!」
「いざとなれば、私が出よう。兄としてな」
「……君も微妙に危ないところがあるね。シィーリアスくん、気を付けるんだよ。間を取って、僕を兄と慕っても―――っと、怖い怖い」
それ以来、僕は先生とセンパイたちと世界を渡っている。
勇者を学ぶために先生のことを先生と呼ぶたびに、先生は困った顔をされるが、それでも呼ぶ。
とはいえ、確かに先生は絵本に出てくるような勇者とは違う。
僕が想像して憧れていた勇者像には当てはまらないかもしれない。
でも、僕はこれだけは分かっている。
「カカカカ、ま、行けるとこまで行こうぜ! 楽しみながらよ! なぁ、シィーリアス!」
「はい、先生!」
この人たちは、理想の勇者ではないかもしれない。
だけどこの人たちは、この世界のことが大好きなんだ。
――あとがき――
終わります。短い間でしたがありがとうございました。本作は「2万字程度~男たちだけでヒロイン無し※母ちゃんはノーカン」という縛りで書きました。
これも経験として活かしていきたいと思います。
また、本作はカクヨムの『戦うイケメン』というコンテストに登録しておりますので、読み終わりましたら下記の『★』でご評価いただけたら嬉しいです。よろしくお願い致します。
瘋癲のバッドヒーローズ~魔界拳王子と悪童勇者たち アニッキーブラッザー @dk19860827
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