推しのご尊父

るるあ

推しのご尊父



 うん?ああ、この間の迷子のお嬢ちゃんかい!また来てくれたんじゃな。うん、今日はちゃんと護衛同伴じゃな!偉いえらい!

 しかし、あんたがたみたいな立派な身なりの人がこんな辺鄙な雑貨屋まで、何度もご来店とはのぉ…

 まぁワシは商売じゃからの。ありがたいことじゃ。



 やや、聖地巡礼?聖女様の聖堂は、この先を道なりに行ったところじゃが…うちは関係ないぞ?


 うんうん、ワシには確かに、英雄のご兄弟様方のお名前を頂戴したバカ息子が二人おるの。


 …いやいや、ワシはしがない雑貨屋のジジイじゃ、ご尊父などと言われても…そんな風に拝まれてものぉ…

 じゃがのぉ、やつらはその、お嬢ちゃん達が言うところの、ただの脳筋というやつじゃ。それとな、息子らはとうとみ?ひでよし?なんぞではなく、アルとカムじゃよ?人違いかの?



 うむ?脳筋の使い方、合っておるじゃろ!最近、なにやら若者たちがうちで手布やらこまごまと買いに来るんじゃよ。その時に教わったんじゃ!

 そう言えば、この間買ってくれた革紐編み、使ってくれとるんじゃな。おっ、護衛殿とお揃いかの?若いってええのぉ!


 ん?違うんかの?おしなかま?

 何じゃ?お嬢ちゃんも若者の言葉を教えてくれるんかの?死んだばあさんにまた土産話が…は?息子達のいめーじからー?髪と目の色?

 ああ、だから暗い緑やら黄色やらが売れるんじゃな。急に売れるようになったのは、そういうことかい。



 しかし、息子らは王都で何をやらかしたんじゃ?あやつら、ばあさんに似て見た目はいいが、中身はわんぱく坊主のままじゃろうに。身体ばかり大きくなりおってからに。


 ん?たとえば…これかの?

この柱の傷はのぉ、上の剣術バカ息子、カムがやらかしたやつじゃ。ワシが課した修練をさぼりおったから、ちょいと懲らしめて縛り付けておいたんじゃ。


 やつめ、ワシが愛しのばあさんに呼ばれて行った隙に弟のカムを手引して、柱をたたき割って逃げおった!

 しかもばあさんに呼ばれたのはカムの嘘じゃった!!あれじゃ、あぎ?…あざとい?笑顔ってやつでわしを騙しおったんじゃ!ばあさんに似たあやつの可愛い顔で言われたら、ワシ、何を言われても信じてしまうわ…

 あの時は、仕置が過剰だとワシのほうがばあさんに怒られる始末で…ってお嬢ちゃん、その柱を拝んでも何もご利益はないぞ…



 

 うん?ワシ?そうさなぁ。昔は森のシシや、ならず者相手に色々ヤンチャをしたもんだが…まあ、最愛のばあさんに先立たれた今は、この街の片隅でひっそりと店を守っていくのが生き甲斐じゃなぁ。


 家に寄り付かぬ、剣ばかり振り回すバカ息子らめ。店も継がず揃って騎士団なんぞに入りおった。まだまだワシにはひよっこに見えるが、やつらはうまくやれてるんじゃろうか?

 アルは副団長、カムは参謀?とか言うておったが、まったく信じられんのぉ。

 チビの頃はな、幼馴染のニーナちゃんによく泣かされておったし、ここいらでは一番背が小さかったんじゃよ。

 かわいい顔しておるから、近所の女の子たちに無理矢理スカート履かされたり、リボンつけたりのぉ。しまいには男に告白されとったわ!!あっはっは!!

 


 …お嬢ちゃん、大丈夫かの?おーい?こっち見えるかのー?

 いやいや、今日は護衛のあんたが居て助かったわい。以前の来店時は、今みたいに急に遠くを見て、なにやら過剰せっしゅ?だとかぶつぶつ言うて固まっての。いくら話しかけてもちぃーとも反応せんのじゃよ。


 お?意識が戻ったかの?

 んん?そうじゃ。この革紐がいま、一番売れとるんじゃよ。そういえば、お嬢ちゃんがこの間買ってくれた物はよく売れとるの。

 そうそう、この手布が異常に売れとるんじゃが…そういえば、ばあさんが昔あやつらに持たせたことがあったかの?

 確かここを出立する時じゃったとおもったが…まだ持っておるのか?ほぉ。

 


 うむ、今日もたくさんご購入感謝じゃ。

 そうかい、お嬢ちゃんのその、布教活動?とやらでうちに若者が来とるわけじゃな。ありがたいのぉ。

 じゃが…その、できればもう少し、ひっそりとやっていきたいんでのぉ、王都出店などと大袈裟なことは勘弁してほしいんじゃが…

正直、迷惑なんじゃよ。

 ワシ、もう大金も名誉もいらんのじゃ。

 お嬢ちゃん、悪気がないのは解るが、そのグッズ展開?とか言うのはやめておいてもらえると助かるの。


 うーむ、どこの姫様か知らんが、あんまりお転婆なのも考えものじゃな。お付きの者達は苦労しとるの。

 のぉ、そこの殺気だだ漏れの若いの。いっぱしの護衛を気取るなら、しっかり相手側の情報も仕入れておくんじゃよ?そこの監視役に、ここがどういう場所かよーく教えてもらうんじゃな。ほっほっほ!


 うん?大丈夫じゃよ。ワシはただの、辺境の雑貨屋じゃ。今まで通り、お嬢ちゃんとワシはお友達じゃ!気にせずまた遊びにおいで。

 毎度ありがとうのぉ〜。





 …ふぅ。若者相手に疲れを感じるようになってしもうた。寄る年波には勝てんな。

 今度は、ちゃんとお忍びで来てもらえると助かるんだが…。


 あー…久々に" 忠義の隻腕 "とかいうこっぱずかしい名前を呼ばれてしもうた。なにやら、背中が痒くなるから忘れてくれんかのぉ…。

 色々鬱陶しいが、愛するばあさんとこの地ですろーらいふ?ができたのは、この腕のおかげだからまあ、なんとも言えんがの。


 

 しかし、バカ息子どものせいでこんなに売れるとはのぉ…。何じゃったか…オシカツ?はこおし??拝まれるのは勘弁してほしいが、あれだけ統率と礼儀を持って来店されたら、何も言えんしの…


 果たして王都はどうなっとるんじゃろうな?ワシから一本取れないような息子らが台頭するほど、騎士団は腑抜けとるんかの?

 くっそめんどくさいが、仕方ない…あやつに一筆入れるかの…。ワシはもう王族は懲り懲りなんじゃがなぁ…。


 ばあさんや…。もしやこれは、おまえ待望のおとめげー?とかいうやつなんじゃないかの?ふらぐ?とやらは、息子らに遺伝してしもうたんかいな?

 


 

 はぁ…なんとも、短い隠居期間じゃったわい。仕方ない、ばあさんへの愛に免じてもうひと頑張りするかのぉ。


 ああもう、ワシを置いて先に逝くからこういうことになるんじゃぞ!!


 ばあさん、早う迎えに来んかなぁ…もう。












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