公衆電話から
つばきとよたろう
第1話
この頃は公衆電話を見つけるのも苦労する。小さな公園の脇に、無機質な電話ボックスを見つけた。どこか薄暗い明かりは点いていたが、寒々しい思いがする。でもこれから電話することを考えると、気持ちが高揚する。
最初は携帯から掛けていた。が、電話料金が恐ろしく掛かって困った末に、すぐ料金が把握できる公衆電話を使うことにした。これなら小銭が無くなったら、そこでお仕舞い。過剰に浪費することもない。それでも、お金はどんどん無くなる。
指定された番号に掛けると、愛らしい女の子の声でメッセージが流れる。生声を期待したが、流れてくるのは録音された声だ。それでも電話で声が聞けるのは嬉しい。思わず顔が綻ぶ。財布の紐も綻ぶ。一対一で電話できるところを想像すると、鼓動が高鳴って受話器を持つ手が汗ばんでしまう。
お電話、ありがとうございます。夜空の一つ星の輝き、煌めくハートであなたを釘付け。ゆきりんです。私、……
ここからが本番だ。録音された音声が終わると、彼女にメッセージを残すことができる。当然、多くの言葉を残そうとすれば、電話料金がそれだけ増し増しになる。月に十万もつぎ込んでいる人もいるが、ファミレスのアルバイトの僕にはそんな真似はとてもできない。数秒がいいところだ。
ゆきりん、いつも応援しています。頑張ってくださ……。
そんな僕に彼女ができた。隣のクラスの子だ。断ろうと思ったところを強引に押し切られた。彼女は毎晩のように電話してきた。電話でしゃべっていても、あの公衆電話から掛ける緊迫とときめきは無かった。僕は黙って電話を切った。
「なあ、黒木。お前推しメンとかいるの?」
「なーんだ。花より団子の方か」
公衆電話から つばきとよたろう @tubaki10
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