推し活

赤城ハル

第1話

「鈴森さんってJカイザー5の推し活しているんでしょ?」

「……うん。してるけど」

 昼休み、正社員組の松田さんからお昼一緒にどうと誘われた。

 私と松田さんはコンビニでおにぎりとお茶を買い、近くの公園のベンチに座る。

 松田さんは正社員の中でも総合職側でキャリアウーマン。対して私は契約社員。そんな私にどうして声をかけたのかと思ったら、なるほどこれが聞きたかったからか。

 まあ、彼女達パンピーからしたらオタ女子なんて珍しいのだろう。

「Jカイザー5の誰推し?」

「濱中山晃」

 濱中山晃は冷酷王子様系で、その上からかつ冷たい目線で数多くの女性が心を撃ち抜かれた。

「アッキーなんだ。私は心斎橋光也」

 心斎橋光也。通称ミッチー。

 中性的な顔立ちで、笑顔が可愛い弟ポジション。ハグしたい女性が多いため抱き枕カバーが作られた。だが、あまりの人気で高額にも関わらず速攻で売り切れになった。ネットでは『持ってない喪女おる?』なんて煽りが現れ、レスバならぬ大炎上会という催しがあった。

「ん!? もしかして松田さんも推し活しているの?」

「ええ」

 松田さんは凛々しく、サムズアップした。


「分かるわー。本当、キモ豚のせいでうちらもCD百枚買ってるみたいに思われてさー」

 松田さんは両腕を組み、強く頷く。

 昼食を取りつつ、私達は推しについて熱く語り合った。そして今は推し活についての世間の目について愚痴。

「うんうん。そんなにCD買わないってのにね(ただし推しのブロマイドが出るまで買う)」

 そしてフリマアプリ・オシウリでCDを売ったり、他アイドルのブロマイドを高値で売る。

「オタ芸なんてないっつうのにね」

 と松田さんは呆れたように言う。

「合いの手もないしね(推しが出たらコール)」

「コラボ商品も買い占めとかしないし(推し関係は大量に買う)」

「本当に変なイメージがついて大変よね」


「推しが違ってよかったわ」

 と松田さんは右手を差し伸べる。

 私はその手を握り返す。

「よろしくね。松田さん(そっちに推しのブロマイドが出たら寄越してね)」

「これからもよろしくね(推しの限定グッズが販売されたら手伝ってね)」

 私達は推しのために強く握りあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推し活 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説