わるい魔法使いとつまらない村娘

佐藤いふみ

わるい魔法使いとつまらない村娘

 あるところに、わるい魔法使いがいた。魔界から持ち帰った炎の鞭と、霊界から持ち帰った水の衣で無敵だった。


 わるい魔法使いは恋をした。相手は村の娘・ゾフィ。わるい魔法使いはひどい奴だったが、魔法の才能と女性を見る目だけは確かだった。


 わるい魔法使いはゾフィにあらゆる贈り物をしたが、ゾフィは悲しむだけだった。




 ある日、ゾフィがさらわれた。さらったのは、せいぎの騎士。せいぎの騎士は、ゾフィを使って、わるい魔法使いを神の座に誘い出した。せいぎの騎士は、わるい魔法使いを退治しに来たのだ。


 神の座で2人はぶつかった。せいぎの騎士は天界から持ち帰った光の盾を持っていたが、わるい魔法使いのふたつの魔具が、せいぎの騎士を圧倒した。


 わるい魔法使いが、せいぎの騎士にとどめをさそうとした、その時、ゾフィが悲鳴をあげた。神の座を割って、ほのおの魔人が現れたのだ。ほのおの魔人は、かつて、わるい魔法使いに奪われた炎の鞭を取り返すためにやってきた。巨大な右腕に炎の剣、左腕にゾフィの胴を掴んでいる。ゾフィの全身が燃えていた。


 ゾフィを助けに向かう、わるい魔法使いの無防備な背中を見て、せいぎの騎士は好機と思ったが、刃を向けずに共闘した。


 炎の鞭が魔人の腕を縛り上げ、ゾフィが落ちる。ゾフィを受け止めた、せいぎの騎士に、わるい魔法使いは水の衣を投げた。水の衣は炎を防ぎ、怪我を治す。


 そのとき、神の座から、みずの霊獣が現れた。みずの霊獣は、水の衣を取り返しに来たのだ。


 ゾフィから水の衣を剥ぎ取ろうとする、みずの霊獣の前に、わるい魔法使いが立ちはだかる。


 次の瞬間、ほのおの魔人の炎の剣が、わるい魔法使いの腹を貫いた。


 それでも、魔力を振り絞って魔人と霊獣を追い返そうとする、わるい魔法使い。せいぎの騎士はゾフィを横たえると、光の盾を持って、わるい魔法使いと魔人と霊獣の間に割って入った。


 聖なる光が眩しすぎて、ほのおの魔人は魔界へ、みずの霊獣は霊界へと逃げ帰った。


 こうして、炎の鞭と水の衣と光の盾に加えて、炎の剣が現界に残された。


 魔界の炎が燃え広がり、魂ごと喰われていく、わるい魔法使い。そこへ、傷の癒えたゾフィが駆けつける。もう、水の衣も間に合わない。


「俺に名前をつけてくれ」と、わるい魔法使いが言った。


「私の名を――ゾフィを、あなたに上げるわ」と、その瞬間、ゾフィではなくなった、つまらない村娘が言った。


 わるい魔法使いではなくなったゾフィは、満足そうに微笑んで、魔界の炎に喰われて消えた。


 つまらない村娘は、せいぎの騎士と恋に落ちた。




   了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わるい魔法使いとつまらない村娘 佐藤いふみ @satoifumi123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ