それも一種の第六感

寺音

それも一種の第六感

 僕の幼馴染み、三木純治みきじゅんじは超能力がある、と言われている。超能力というか、第六感とでも言うべきだろうか。

 一体どういうものなのか、例をいくつか挙げてみよう。



 一ヶ月程前の事だ。僕らが通っている高校で授業終わりのチャイムが鳴り響く。次は待ちに待った昼休み。

 後ろの席の三木が不意に目を大きく見開いた。


「――はっ!? 今ならあの売り切れ必須の限定桜餅あんパンが買える気がする!?」


 そう言って、学校の購買へと急ぐ三木。

 この桜餅あんパン、今の季節だけの限定商品で、需要に対して供給が異常に少ない。あっという間に売り切れてしまうのだ。

 他のクラスメイト達はそんな馬鹿なと三木を笑っていた。しかしなんと彼は予感の通り、ラスト一個という滑り込みでそれを買うことができたのである。



 さらに一週間前の朝のこと。

 その日の天気予報は快晴で雲一つない青空が広がっていた。

 三木と僕の家はご近所で、毎朝三木が僕の家に寄ってから二人で登校するのが日課になっている。今朝もいつもと同じ時間にインターフォンが鳴り響いた。

 そして僕が玄関の扉を開けるなり、三木が突然こう言ったのである。


「ん!? もうすぐ雨が降る予感……おい、傘持ってった方が良いぞ」


 僕は素直に傘を持って行くことにした。

 すると学校へとたどり着く前に、どしゃ降りの雨が降り出した。



 今日もそうだった。

 放課後、部活もなく他の予定もなく教室でダラダラしていた僕ら。それを変えたのは、三木のあの一言だった。


「おい!? 今さっき、五丁目の山崎さん家で子犬が五匹生まれた!」

「——見せてもらいに行こう!!」


 本当に五匹の子犬が生まれていた。ちなみにどれもフニャフニャで可愛かった。可愛かった。



 一つ一つは些細なことだが、そのようなことがここひと月の間に何度も起こっているのだ。

 僕の周囲では三木純治は何か不思議な能力がある、とすっかり有名になってしまったのである。




「本当にすごいよな! 俺って!」

「そうだな」

 子犬を見学した帰り道、すっかり調子に乗った三木が弾んだ声で話しかけてくる。

「自分でも何故かは分からないんだけどさー。ある時、こう、ピンと閃くものが降りてくるんだよな」

 僕は相槌を打ちながら、三木の頭上を見上げる。僕の視線など気にも止めず、彼は話を続けた。


「でもイマイチ有名になれないのは何でだろうな。もっと話題になっても良いはずなのに」

「それはお前の閃きが、すごく小さな出来事に限定されてるからじゃないかな? 恩恵を受けるのも主に自分だけだし」

 そうなんだよなぁ、と三木は呟く。


「これで未来予知ができれば、完璧なのにな」

「うん。未来のことは、流石に分からないんじゃないかな?」

 僕の視線は未だに上を向いたままだ。三木はまだその違和感に気がつかない。


「何でだよ、そんなの分からないだろ!? 見てろよ、俺はいつか未来予知すらも会得して、人類史に名を残す!!」

 そう言って勢い良く振り上げた三木の拳から、逃げるように空中でサッと身をよじった人影があった。


 これは恐らく、僕だけが気づいている。

 三木の頭上にいるその人のことを。


 

 虎柄のTシャツとゼブラ柄のスパッツ、そして髪を紫色に染めパーマをかけたが宙に浮いているのだ。うん、恐らく幽霊ですね。

 まるで漫画の登場人物のようなおばさまは、いつも三木の頭上で周囲を忙しなく見回している。

 そしてことあるごとに、彼に向かって一方的に話しかけているのだ。



『ちょっとアンタ!! 今ならアンタが食べたがってた桜餅あんパン、買えるわよ!』

『雨雲よ! 全く最近の天気予報も案外頼りにならないわねぇ。傘持ってっときなさい!』

『まぁー可愛らしい! 五丁目の山崎さん家、無事に子犬が生まれたわよぉー』



 ちなみにそのおばさまと三木とは似ても似つかない。最近身内が亡くなったという話も聞かないので、恐らく赤の他人だ。

 赤の他人のオカン系幽霊にここまで世話を焼かれるというか、懐かれるのも一種の才能か。


「なぁ、三木。頭が痛いとか肩が重いとか、そう言う身体の不調は感じないのか?」

「は? 俺は見ての通りピンピンしてるけど?」

 本当は全部見えて聞こえているのではないかと思ったが、そんなこともないらしい。これは本当に無自覚なのだろう。


 超能力とか勘が良すぎるとかそういう話ではない。


 


 これこそが三木の第六感と言えるのだろう。

 まぁ、僕にとってはどちらでも良いけれど。



 霊感持ちの僕の日常は、そんな感じで過ぎていくのだ。

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