二刀流。這い上がれ小次郎ちゃん!!

友坂 悠

這い上がれ小次郎ちゃん!!

 


 二刀流といえばオレの宿敵。

 あの二刀流の宮本武蔵のことだろうと思うよね?

 そもそも今流行りの野球選手が二刀流っていうふうに二つのことをすることを刀で例えているのだって、元々はオレ佐々木小次郎と宮本武蔵との巌流島での決闘があったからにほかならない。

 物心がついてからというものいろんな歴史書いろんな本を読み漁って自分の過去を探してみたけれど、まさかあんな脚色をされて小説に書かれているとは思わなかった。

 まあオレと武蔵が巌流島で戦ったのは事実だしオレが負けたのも事実。

 まさかあんなふうにオレが踏み込んだところで左手の棍棒が上から降ってくるとはまさかまさか思ってもいなかったけれど。


 そう。

 なんでこいつ右手一本で刀を持ってるんだろう?

 その時はそう油断してしまったんだった。

 左手は怪我でもしたのかな? と。

 妙に左手を後ろに隠してやがると思っていたんだけれど、まさか、だったのだ。


 剣の流儀としては、我流だとは聞いていた。

 戦場いくさばでは確かに刀だけではなく手も足も使うのはまあ有り得た。

 しかし、そんな生身の手足を鋭い剣に向けてくるとは思ってもいなかったし、そして剣には剣でないと対処できない、そんなある意味自分の世界の常識に凝り固まっていたのかもしれないけれど。


 そんなオレが編み出した剣技。

 後世では燕返しと名付けられているらしいそんな技。

 まず踏み込み相手の刀めがけて打ち下ろし、鋭く手首を返しそのまま下から切り上げる剣筋。

 オレの長刀、三尺はある太刀ならではの力技だ。


 あらゆる武具は上からの防御には長けているけれど下からであればあっさりと突き抜ける。

 相手もまさか刀がそのまま下から突き上がってくるとは思わないし、それもこの長さの太刀がまるで物干し竿のようにはじけて突き上がってくるとは想像できないらしく。

 いわゆる初見殺しの技ではあるけれど。

 一撃必殺のこの技、それまで敗れたことなどなかったのだ。


 それが本当にまさか、だった。


 オレが踏み込み自分の間合いに入ったところで武蔵の刀に向けて上段から打ち下ろす。

 その段階ではまだ武蔵の方の間合いには入っていない。オレのリーチの勝ちだ、と。

 そう勝利を確信しもう一歩踏み込んだその時だった。


 オレも、武蔵も、目線は刀に向いていると、その時はそう思っていたその瞬間。


 オレの頭上から船の櫂を削ったようなでかい棍棒が振り下ろされていたのだった。


 あとはもう、物語の通りだ。

 オレは負け、命を落とした。


 そして。





 だからってなんで!

 目の前のお前が武蔵ばりの二刀流なんだよ!


 目の前にいる魔王。

 真っ赤に燃える髪にヤギのようなツノを生やした悪魔のようなその姿。


 完全に理性が飛んでしまっているその魔王の両手には、大きな剣とそして大きな棍棒が握られていた。

 その二刀流? 厳密にいえば片方が棍棒だから二刀じゃないよね?

 まあそういうのはおいておいて。

 その魂の炎はあの時の武蔵とおんなじ匂いがして。





 色々あってなんの因果か日本の女子高生に転生していたオレ。

 でもってクラスごとこんな異世界に転移してしまうというおまけ付きで。


 まあ色々あったんだけれどこうして魔王の城まで辿り着いたオレたちを待ち受けていたのはまさかの二刀流の魔王だったのだ。


「怖気付いたか!? ナオ!」


「バカ言うんじゃないよ! 誰が怖気付いてるって? そういうお前こそ震えてるんじゃないの?武士タケシ!」


「ふっ。これは武者震いって云うんだよ! まあいい、俺がまず突っ込んで隙を作るから、お前は作戦通り必殺のあの技で行け!」


「ああ、頼む!」


 幼馴染で相棒の宮本武士みやもとたけし

 オレの名前は佐々木奈緒ささきなお

 え? おんなみたいな名前だって? しかたがないだろ? 親父やお袋だってまさか産まれた一人娘の中身がこんなヤローだなんだなんて思いもしなかったんだろうからさ。


 武士タケシが手にした剣に魔法を付与する。

 右手に炎、左手に氷。

 ああそういえばこいつも二刀流だった。

 それも両手剣に魔法、剣士と魔道士のダブル二刀流だ。

 まあこいつもその名前のごとく当然のように宮本武蔵を崇拝してやがったし。

 その行き着く先がこの異世界流二刀流ってわけだ。


 武士がスキル駿動を発動し魔王に迫る。

 一瞬で四方八方から繰り出す魔法剣に翻弄され魔王がこちらに背中を向けた。


 いまだ!


 オレは全速力をもって踏み切り、手に持つ大太刀を上段に振り翳した。


「vの字切り!!」


 魔王の肩口から斬り下ろした大太刀。

 中程まできたところで手首を返しそのまま反対の肩口目指して斬りあげた!!


 ぎゃあ

 と、断末魔をあげ霧散する魔王。


 そう、これはオレの前世佐々木小次郎だった時の剣技、燕返しの欠点を補うために編み出した新技だ。

 だいたい剣だけ払って下から攻めるとかそれって一手損してる。

 当時はその一手を使ってでも相手の虚をつくにはいい手段だと思ってたし正面突破だと防がれたりするからその為にもこういう剣技を編み出したわけだけど、それじゃダメだって言ってくれたのがタケシだった。

 この異世界に飛ばされてからと言うもの本当に色々あったけど、こいつと一緒で本当に良かった。

 こうして苦難を乗り越えてこれたのもタケシのおかげもある。本当にいい相棒だ。


「やったか!」

「やった?」


 斬った感触は間違いなくあった。でも。


「ドロップは、無しか。にげられたかもな」


 うん。その可能性は高い。

 こんな簡単に倒せるとは元々思って居なかったし、しょうがない。


 魔族を倒すと大抵の場合そこには魔石が残される。いわばその魔族の魂の塊、本体の残滓だ。

 魔王ともなれば相当大きな石、それこそ魔王石とでもいうようなそんな魔石がドロップするものだと想定してたのだけど。

 それが無いっていうことはまあ間違いなく奴は逃げおおせたのだろう。


「まあでも、やったなナオ」


 満面の笑顔でこちらをみるタケシ。


 ドキ!


 破顔したそんなタケシにオレの心臓が跳ね上がる。


 いや、違う、こんなの何かの間違いだ!


 そりゃあタケシはいい奴だ。

 こんな異世界に飛ばされ他のクラスメイトが皆なんらかのスキルや魔法に目覚める中、オレだけ何にもそう言う能力が無かった時。

 落ち込んだオレに色々アドバイスをくれたのはこのタケシだった。

 そのおかげ? もあって。

 オレはここまでやれた。強くなれた。それは感謝してるんだほんとに。


 だけど。

 だからといってこれは違う! オレがこいつの事を好きだなんて、この二刀流好きの朴念仁に恋をしただなんて、そんなの絶対違うから!


「どうしたナオ、顔が真っ赤だぞ。興奮しすぎで熱でもでたか?」


 ああ、違うんだ、こんなの。

 きっとそうだ、この魂を焦がすような匂いのせいだ。

 まだ漂っている宮本武蔵のあの魂の。

 その所為で興奮しちゃってオレの心が勘違いを起こしてるに違いない!


 あの決闘の場で感じた、最高潮に魂が燃え上がったあの時の、あの匂いが。






 って、あれ?

 おかしくないか?


 てっきり魔王から感じていると思った武蔵の匂い。

 なんでまだ感じるんだ?


 これだけは転生前からオレに備わっていた物。

 相手の魂の匂いを感じる能力。

 オレ自身の魂が佐々木小次郎だったというあかし

 だから、間違える筈はないのに。


 ああもちろん、魂の匂いなんて普段から感じる訳じゃ無い。

 アドレナリンが湧き出したような、その魂が最高潮に達した時に溢れ出るって言ったらいいのか。

 まあ要するに人って最大限に興奮した時に匂いを出す訳だ。オレに感じるのはそんな匂い。

 だ、か、ら。




 頭の中が一気に醒める。

 目の前のタケシ、宮本武士の顔をじっと見つめるオレ。

 ああ。

 なんで今まで気が付かなかったんだろう。

 この匂いを発しているのは魔王じゃ無かった。

 こいつだ。

 この武士タケシだ。


 って言うことはなにか?

 オレは前世のかたきに助けられてきたってことか?

 そんな。





 黙り込んだオレを心配そうな顔をして覗き込むタケシ。

 そんな彼の顔を見ていたら、なんだか。


 ああ。バカだなオレ。

 こいつはタケシだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 オレの幼馴染で親友で。

 オレをいつも助けてくれるいい奴で。

 前世がどうとか、関係ない。

 こいつがオレが好きな、

(ああもちろん友達として。うん、絶対それ以上じゃ無い。そういう事に今はしておいてくれ)

 宮本武士には違いが無いんだから。


「ありがとな。タケシ。お前のおかげだよ」

「なんだよいきなり」

「ふふ。いいんだよ。今はそういう気分なんだから」


 今度は逆に。真っ赤になったタケシの顔がなんだかおかしくて。


 オレは彼の肩に手をかけて。

 笑った。


 ああ、今はこういう関係でいさせてくれ。

 なあ。親友。



         end

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