浮気男に天誅を!

平 遊

浮気男に天誅を!

「ん?あ、うん。今はちょっと・・・・それなら。あ、また後で」


シャワーを浴び終えて部屋から出ると、彼はコソコソとスマホをベッドサイドに置いた。

画面を、下にして。


「誰と話してたの?仕事?」

「あ~、うん」


絶対それ、嘘だよね。


そう思いながらも、あたしはバスローブ姿のままドレッサーに向かった。


「大変だねぇ、こんな時にまで。お疲れさま。シャワー、浴びてくれば?」

「うん、ありがと」


あたしが何にも気付いていないと思ったのか。

彼はニッコリと笑うと、そのままシャワールームへと入っていった。


シャワーの音が聞こえてきたのを確認し、素早く彼のスマホを手に取る。

指紋認証では解除できないけど、彼の暗証番号、あたし知ってるんだ。

いけないとは思いつつも、暗証番号を入力してロックを解除し、通話履歴を見てみると、直前の通話記録は。


 『あーにゃん』


あたしの知らない、セクシー系な女の人だった。


やっぱり、ね。


脱ぎ散らかした下着を身に付け、さっさと身支度を整えると、あたしは彼のスマホを手に持ったまま、ソファに腰かけて彼がシャワーを浴び終えて出て来るのを待ち構えた。


「あれっ?もう服着ちゃったの?!なんだよ・・・・俺まだ触り足りないのに」


あたしの姿に、彼は残念そうな顔をした。

多分これ、本心。

でも。

浮気をしているのも、事実。


「触り足りないから、『あーにゃん』と浮気してるんだ?」

「えっ」


面白いくらいに瞬時に顔色を変えた彼がまず目を向けたのは、ついさっき自分がスマホを置いた場所。

でも、もちろんそこにはスマホは無い。


「ごめんね、見ちゃった。随分よろしくやっているみたいねぇ、『あーにゃん』と」


ロボットかっ!

とツッコミたくなるくらいにぎこちなくこちらを振り向く彼の目の前に、あたしは通話履歴が表示された彼のスマホを突きつけてやった。


と。


「・・・・バレちゃったか」


テヘペロ。


みたいな感じで、彼は上目遣いであたしを見る。


「だって俺、顔いいじゃん?それに、アッチも、すごいじゃん?二刀流じゃん?だから、さ。女も二刀流でいいかなーって。本命彼女と、遊びの女。もちろん、お前が本命だよ?お前だって、モテない男より、モテる男の方がいいだろ?」


どうしよ。

こいつ、悪気ゼロだ。

最初こそ、申し訳無さそうな顔をしていたけれども、言い訳している内に最後にはドヤ顔になってるし。


そんなドヤ顔の彼に、あたしも思わずつられて満面の笑みを浮かべ。


「そうだね、二刀流だもんね」


と言いながら、拳を握りしめ。


まずは、ご自慢の顔面に一発。


「ぐぁっ!」


思わぬクリティカルヒットを食らった顔面を手で押さえながら、彼はその場に倒れ込んだ。

すかさず、もう一つのご自慢のアレに、振り上げた足で渾身の一撃を見舞う。


「ぐぅぅぅっ!!」


顔よりも衝撃が強かったのか。

両手で股間を押さえ、彼は声も無く悶絶していた。


「ごめ~ん、つい力が入り過ぎちゃって♪ご自慢の武器、それふたつとも当分使い物にならないねぇ?残念だね☆」


一応そう声をかけてはみたけど、彼の耳に届いているかどうか。

あたしはそのまま彼を放置して部屋を出た。



多分、しばらくしたらきっと、彼から連絡があるはず。

実は彼の浮気は、これが初めてじゃないんだ。

まったく、懲りない奴だよね。

でも、懲りない奴は、あたしも同じ。

だって、さ。

彼の言う通り、彼の顔もアッチの方も、モロにあたしの好みだし。

・・・・彼が本当にあたしの事を好きな事も、わかってるから。

だから、ね。

彼が反省して泣きながらあたしに許しを請うてきたら、あたしはまた、許してあげるの。

優しく優しく、抱きしめて。


ヤキを入れる時は、ガッツリ入れてやるけど。

許すときは、とことん甘く。


だって、あたし。

悪魔と天使の二刀流だから、さ。



【終】

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