エセ二刀流剣士は語る ~ALL YOU NEED IS LOVE~

米占ゆう

ALL YOU NEED IS LOVE

 世の中には右手左手を同時に使える族と同時には使えない族の二種類の人間がいて、有名なピアニストだとか、高名なギタリストだとか、高ランクの音ゲープレイヤーなんかは明らかに前者に入るわけなんだけれども、前者がいれば後者もいるというのは物事において常に正しい真実であるわけで、あたしなんかは紛うことなく後者に分類される人物であるわけ。とは言っても別に困ることなんてリコーダーがうまく吹けないとかそんなもんだし、そもそも仮に聖徳太子のように一度に十人の話を聞ける人間がいたとして、十人の話を一度に聞けない人かわいそう~なんてならないように、あたしはあたしでぶきっちょながらぶきっちょなりに悠々自適に日々を過ごしているわけで、それはまあそれでいいんだけれども、でもちょっとは前者の人たちに憧れちゃうところがあるってわけ。

 だもんで、ある日唸り来るエミヤの痛車に激突されてあたしが異世界転生したときに、神様から「好きな武器を選んでもいいわよ☆」なんて言われた折、伝説の双剣を選んだのは、まあせっかく生まれなおせるんだから、どうせならささやかな憧れを新天地で叶えちゃおっかな~なんて思ったからなんだけれども、しかし諸君。神様ってのはそうやすやすと人間の欲望を叶えてくれるもんじゃないねぇ! 中身の人格をそのまま、ちょっとばかしのチューンアップも施さず、ぼーんと異世界に爆誕させたもんだから、あたし新天地でもなおぶきっちょのままで、右手を動かすと左手が疎かになり、左手を動かすと右手が疎かになり、どうする!? 宝の持ち腐れとはこのことだねぇ!? なんて思いながら一人うら悲しく草原に横になっていたところ、

「ごめんごめ~ん! スキル忘れてたね☆」

って神様がやってくるわけだから、まったく~神様、おっちょこちょいなんだから~変だと思ったよも~ってな感じでほっとしてたら、神様はなにか聖なるピンクい光線をあたしに当てて、

「はい、スキル『押し倒し』! これであなたも好きなハーレムが作れるよ☆」

 とかなんとか言ってパッと消えちゃうわけで、は????? ヴァカなのか???? ってあたしは黒きオーラを纏いし者になっちゃったわけ。一瞬だけ。

 とは言え、神様を恨んでいてもしょうがないし、なんにせよあたしはこの世界で生きていかないといけないわけで、しょうがない。あたしの特性に合ってないっちゃ合ってないけれども、与えられたところで咲くというかさ、今の自分にできる精一杯のことはやっていかないといけないよねって思って、とにかく片手だったら剣、振れるわけじゃん? ならこのもらった双剣、片手だけ使わしてもらったらいいんじゃないかしらってことで、右手にだけ装備して、片手剣っぽく運用してたわけなんだけれども、どうもこれ、見る人が見ると違和感バリバリらしくて、街中とかダンジョンなんかでかわいそ~みたいな感じの目で見られながら、

「双剣は両手に持って使う武器なんですよ……?」

 なんて言われることが増えたもんだから、あーもう、しゃらくせぇ! わかりましたよ、双剣使いっぽく見えればいいんでしょ! 見えれば!! ってことで、基本は右手で剣を振りつつ、左手の剣はなんか常にそれっぽい感じでくねくね振るみたいな感じで戦ってたら、物言いがつくこともなくなって、このエセ二刀流スタイルがあたしの基本みたいになっちゃったわけなんだけれども、でもすごいね。人間って、やっぱし石の上にも三年なんだよ。この意味わからんエセ二刀流スタイルでもさ、冒険者ランクAまで上り詰めることができたわけで、これで晴れてあたしもいっぱしの一流冒険者。しかも二刀流剣士ってやっぱ珍しいらしく、酒場でも

「よう、お前が噂の二刀流のAランカーか!」

「なんか動きキモいけど、逆にかっけーな!」

 みたいな感じで声をかけられるようになり、ま、とは言えスキル欄は片手剣スキルばっかりだし、ステータス画面でも職業は片手剣士なんだけど、二刀流剣士って名乗っちゃってもいいよねぇ!? ってな感じで世間一般には二刀流剣士で完璧に通っていたわけだから、冒険者用神殿の巫女さんに「あなた、二刀流剣士ではないですね……?」と一瞬で看破されたときは、息の根が止まるかと思ったわけ。

「職業詐称は重罪ですよ……? ギルドからの追放、冒険者資格の剥奪。当然、ご存知ですよね?」

「え、いや、まぁ……でもさ、あたし実際双剣使ってるし……実質二刀流剣士じゃない……?」

「違います! 冒険者の持つスキルは、国家にとって毒にも薬にもなる危険な代物! だから厳密な管理が義務付けられているんです。いいですか? あなたがやっていることは、国に対する背任なんですよ!?」

「えー、でもさ、あたし今まで冒険者のお仕事ちゃんとしてきたよ? それをそんな風に言われるのは心外っていうか……」

「ともかく! 私は今からあなたのことを告発しますから!」

 ってことで巫女さん、テレパス魔法でもってガチで通報しようとしていて、え、これやばいってとにかくどうにかして彼女を止めないとでもそんなスキルあったっけ流石にデスソードとかギロチンスラッシュとかはまずいよなあちくしょお神様のヤローめまともに双剣の才能をあたしにくれてればこんなことにはならなかったのに――って、神様……? そうだ! その手があったか! いや、でもそれは……えぇい、考えてる暇はねぇや!!!


 スキル『押し倒し』!!!


 にゃーん


 ってなわけであたしの二刀流剣士道は続いていくわけなんだけれども、どうやら最近魔王軍の活動が活発になってきたらしく、異世界勇者様が王家によって召喚されたそうで、そんな彼がこの街にもやってきたみたいなのね。でもって、街としても勇者様を全面バックアップしますよってわけで、街の有力冒険者総出で勇者様を歓迎することになったわけなんだけれども、は~。あたしも異世界転生者なんだけどな。。運命の歯車がちょっと違うだけで、向こうは歓迎される側、あたしは歓迎する側か、なんかふくざつ~なんて思いながらもみんなに混じって頑張ってくれよ! だの応援してるぜ! だの適当に勇者に激を飛ばしつつ、なるほどなるほど、異世界転生者だけあって、やっぱちょいアジアの入ったイケメンだなあ、こっちじゃ見ない顔だなんて思ってたら彼はなんとこっちに向かって一直線にやってくると、

「おい、お前。あとでつらかせ」

 とか小声で囁いてくるわけで、え、なにそれ、怖えぇ~。。でも行かないわけにはいかんよなぁ~、あとが怖いし……はぁ。と観念して、誰もが寝静まった夜の更け、約束場所にそろりそろりと向かってみるとそこにはやっぱり勇者様が佇んでいて、何言われるのかな~やだな~と思ってたら、開口一番に勇者様は、

「王都法第115条違反によりお前を逮捕する」

「はい……?」

「俺は王からこの国の治安維持も一任されている。お前のやっていることは犯罪行為だ。もちろん、なんのことを言っているかはわかるな?」

「いや、正直なんのことか……」

「とぼけても無駄だ。お前、職業詐称しているだろう。ギルドのおっさんが最近入った有望な二刀流剣士としてお前の名前を出してたぜ。でもお前は二刀流剣士じゃない、片手剣士だ。これが示す意味。俺じゃなくったって一目瞭然だ」

「……えと」

「まあ一般人にはステータス開示魔法はないからな。バレなかったとしても無理はない。だが俺の目は誤魔化せねえよ。ま、一体職業を詐称して、どんな悪事を働こうとしてたかは知らねえが……あ? なんだ、なにをするつもりだ? お、おい、まてやめ――」


 スキル『押し倒し』!!!


 にゃーん


 ってなわけであたしの二刀流剣士道は続いていくわけなんだけれども、勇者御一行になったあたしと巫女ちゃんはいよいよもって魔王城に辿り着くわけで、中にはそれはそれはこわ~い魔王がいるのだろう、嫌だなぁ、怖いなぁなんてあたしの中の稲川淳二が顔をちらちら覗かせたりなんかしてたわけなんだけれども、しかしそこは流石は勇者様。ビビることなく一直線で魔王城に突っ込んでいくわけで、えーん。どうして勇者様御一行になんかなっちゃったんだろ~(泣)と思いつつあたしもしぶしぶそのあとを追いかけていったところ、辿り着きたるは玉座の間。そこには鉄仮面を被り、ギョロついた目玉が表面に浮かぶ暗黒色の鎧と極大漆黒オーラにその身を包んだ紛うことなき大魔王が待ち構えていたわけで、その無尽蔵が如き威圧感にあたしは気圧され、心がポキっと折れてしまいそうになる。わけなんだけれども、怖いもんナシな勇者様はそんな魔王に毫も臆さず、一直線で魔王の前まで歩いていくと、

「討伐しに来たぞ、魔王!」

 とか叫ぶわけで、ひ~ん、はじまっちゃったよぉ~って内心思いながらあたしもいよいよ堂に入ってきたエセ二刀流の構えを取るわけで、すると魔王はググッとくぐもった声で笑い声を上げたわけなんだけれども、曰く。

「おいおい、こりゃどうしたことだ。勇者一行の中に犯罪者がいるとはな……! ググッ……そうだろうさ……! 貴様ら人間は意志薄弱なる生物。傲慢にして怠惰なる存在。究極悪を捨て去ることなぞできない……!」

「違う! 彼女はお前と違って、邪悪な存在ではない!」

「……ググッ。果たしてそうかな。私には見えるぞ、彼女の周囲に漂う黒きオーラが……そもそもだ。勇者も巫女も、貴様らはなぜ彼女を捕らえようとしないのだ? なぜ彼女に誑かされている? それはな、この世の理を曲げたものが……なんだお前、待て、近寄るんじゃない――」


 スキル『押し倒し』!!!


 にゃーん


 ってなわけであたしの二刀流剣士道は一角のエンディングにたどり着いた。私はこの旅で二刀流の奥義について触れることができたような気がしてならない。

 しかし残念ながらもう、それを記すだけの余白はここにはないようだ。

 故に後続のため、一言だけここに記すわけで。


 愛。これぞ二刀流の真髄である。

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