「摂食障害」私も、後期研修医時代に本当に苦労したことがあります。先生もご存じの通り、「摂食障害は「緩徐」な自殺」という言葉もある通りです。
高度医療を提供する病院の「児童青年精神科」に予約のある方なので、受診までの間、管理してほしい、との紹介を受けたのが始まりでした。17歳の女性でした。intelligenceは低く、発達障害を併存した摂食障害の方でした。
予定の入院期間中、繰り返し本人、家族に「児童青年精神科」の先生に入院、治療についてはすべてお任せし、勝手な自己判断で「退院」とかしてはいけない、とお話しし、転院となったのですが、2週間後に風のうわさで「自己退院」された、と聞きました。ガックリしました。
それから2か月後、患者さんはnearCPAでERに搬送されました。ERの採血では血糖は5mg/dlでした(!)。17~18歳なので、全力で蘇生しICU管理としました。喀痰がひどく、ミニトラック挿入でも痰を十分回収できず、痰詰まり窒息を来たしたので、再挿管、気管切開となりました。その後も私が成り行き上「主治医」となりましたが、名ばかり主治医で、彼女の心の闇を垣間見ることもできませんでした。
近隣の大学病院精神科に「摂食障害」の大家がいる、とのことで、一縷の望みをかけて、紹介状作成、予約を取り、受診してもらいましたが、返信には一言「本人に治療の意思がないので、治療の適応外です」と。
「治療の意思」が出てきたら、身体的には栄養障害なので、内科で当然管理可能です。問題は「食事を拒否する精神的問題」なので精神科に依頼したはずなのですが、この返信は何だろうか、とがっくりすると同時に、この医師が「摂食障害」の大家であることにも得心が行きました。「治るはず」の患者さんだけを診察していれば、治療成績が上がるのは当たり前です。
もともとの児童青年精神科にも再紹介しましたが、おそらくあちらでの経緯があったのでしょう。「受け入れ不可」とのことでした。
彼女は訪問診療にエントリーしましたが、徒労感の強い訪問診療を3年ほど続けました。彼女に「心の闇」はあるものの、一般内科医では、その闇に触れることさえできませんでした。
たまたま、当院の小児科医長が、大学派遣の方でしたが、小児の起立性調節障害など、メンタル的要素の強い疾患を専門とされている方だったので、縋る思いで相談。一度その先生に診ていただきました。先生からは、「家族関係などに大きな問題がありそうです。先生には荷が重いと思います。主治医を代わりましょう。お疲れさまでした」といってくださり、主治医を交代。家族関係などにも先生は介入してくださり、少し食事がとれるようになった、と伺いました。
その小児科の先生がおられなければ、どうなっていたか、と思うと同時に、あの精神科からの返信は今でも忘れられません。あのような返信を書いて、よくもまぁ「摂食障害」の専門家、と名乗れるのか、その神経を疑っています。
作者からの返信
先生、お疲れ様でした。
大学病院精神科の「摂食障害の大家」というのも、本人がそう名乗っているというよりは、周囲が勝手にそういうレッテルを貼っていたのかもしれませんね。
とはいえ、治療の意思の無い人を有るようにするのが精神科医の役割ではないかとは思いますが。
一方、小児科医長はすばらしいです。
遠くからアドバイスをするのではなく自ら主治医を交代する、というのは中々できることではありません。
私には無理ですが、その姿勢は見習いたいです。
小児の起立性調節障害も謎の多い病気のように思います。
成人の起立性調節障害とはまったくメカニズムが違っているのだとか。
もしかすると成長の過程で、一時的に静脈系と動脈系のバランスが崩れているのかと思ったりします。
10代のころ、痩せて綺麗になりたい気持ちがエスカレートしすぎて野菜しか食べない、しまいには食べては吐いてを繰り返すようになったときがあったので、近しい気持ちがわかります。食事一人前が分かるようになるまで数年はかかってそれなりに苦労しました。
でも、その頃書いて頂いた診断書の病名は不安障害だったので、この程度では摂食障害とはいえないのでしょうね。
入院するまでの人の闇はどんなものなんだろう、興味あります。
作者からの返信
コメントありがとうございました。
「痩せて綺麗になりたい」目標がちょっとズレてしまったのですね。
BMIでいえば、18.5より軽ければ低体重、15以下なら重症ということになるらしいです。
なので身長155センチなら、44キロ以下で低体重、36キロ以下で重症低体重になります。
食べては吐くということを繰り返すなら摂食障害の範疇に入るのではないかと私は思います。
最終的には回復することができて良かったですね。