両手に鞭を持った場合、二刀流と言うよりも女王様ではないだろうか

泥酔猫

第1話 両手に鞭を持った場合、二刀流と言うよりも女王様ではないだろうか

 そこはダンジョンの中とは思えないほど、地上と似通った場所だった。木々が生い茂り、枯れ葉が積もった森林にしか見えない。ただし、青空はあっても太陽は無い。枯れ葉が積もっているのに木々は青々としており、落ち葉が舞い散る事は無い。どこか作り物めいた世界、それがダンジョンだった。


 森の中を走り寄ってきた狼型の魔物、サーベルスタールトが身を翻して尻尾を振るった。その名の通り、サーベルのように硬質化した尻尾が、俺を切り裂こうと迫る。

 それに対して、俺も左手の尻尾を振るい、攻撃を受け流す。そして、攻撃を終えた隙を狙って、今度は右手の尻尾で斬りかかるが、毛皮を浅く傷付けただけだった。左手の受け流しで態勢が崩れ、右手が満足に振るえなかったせいだ。


 切られた事に怒ったサーベルスタールトが、カウンターとして前脚の爪が振るわれた。慌てて左手の尻尾を硬質化させ、盾代りにしながらバックステップで避ける。甲高い引っ掻き音に辟易しながらも、仕切り直して両手の尻尾剣……テイルソードを構え直した。


 サーベルスタールトを倒した後にドロップする尻尾には、魔力を流すと硬質化してサーベル状になる特性がある。それに木製の柄を付けて、剣として使っている訳だ。いわゆる地産地消だな。


 爪や尻尾の攻撃を受け流し、空いた手で切りつけるがどれも浅い。見様見真似で二刀流では、片方に意識を集中すると、もう片方がお座なりになる。

 もちろん、防御に意識を割いているので俺は無傷だけど、敵のダメージも少ない。戦況が膠着した最中、サーベルスタールトが四肢を踏み締めるように力を溜める。見覚えのある動作……全力の尻尾一閃が来る!


 その時、サーベルスタールトの背後から、音も無く忍び寄った影が尻尾を斬り飛ばした。「キャインッ!」と犬のような鳴き声を上げ、サーベルスタールトが仰け反る。その隙を見逃さず踏み込む。両手を交差させるように剣を振るい、喉を✖︎の字に切り裂いた。



「それで、今度は何を始めたんですか? スキルを使えば、もっと楽に倒せますよね」


 魔物を倒し終わった後、猫耳少女に呆れた顔で見られていた。彼女は一緒にダンジョン攻略をしているパートナー、猫人族のレスミアだ。料理好きな銀髪巨乳美少女メイドで、公私ともにお世話になっている。いや、流石にダンジョン内ではメイド服は着ていないけど。

 


「この間、レスミアが二刀流で敵を両断した事があっただろ。あれが格好良かったから、真似をしてみたけど難しいな」


 二刀流で手数2倍とか、左右どちらでも変幻自在の攻防出来るとか、素人が出来る訳がなかった。むしろ、左手は受け流し用、右手が攻撃用とか絞った方が動きやすい。でも、それって左手は盾でもよくないか? 二刀流の意味が……

 もし使うなら、ちゃんとした型を習いたいところだなぁ。


「あれは無我夢中で、偶々〈不意打ち〉のスキルが上手くいっただけですよ。もう一度、やれって言われても、出来る気がしませんし……」


「それでも、レスミアの方が器用だから、試してみるのも良いんじゃないか? 軽く振るってみなよ」


 俺のテイルソードをレスミアに渡してみる。しかし、両手の尻尾は垂れ下がったまま。目を閉じて集中しているが、一向に硬質化して剣モードにならない。両手をブンブンと振っても、鞭のようにしなるだけ。


 ん? 両手に鞭を持った場合、二刀流と言うよりも女王様ではないだろうか。

 高笑いを上げながら、鞭を振るう猫耳メイドさん? いや、ボンテージの方がそれらしいか?

 普段、笑顔で料理をしているレスミアからは、想像し難いなぁ。エロ衣装だけなら兎も角……


「んーーー! やっぱり駄目です。片手なら兎も角、両手に魔力を流すのは難し過ぎですよ」


 その声で我に返り、妄想を頭の片隅に追いやる。

 魔力の制御に力を入れていたのか、ちょっと顔が赤い。レスミアは魔力を使う機会が少ないからな。練習すれば使えるだろうけど、急ぐ必要も無い。それに、比較的軽いテイルソードが使えないとなると、後はダガーとナイフくらいしかない。リーチと攻撃力的に、無理に進めなくても良いか。

 それに、女王様は似合わないので、テイルソードは返してもらった。


「それじゃ、いつも通りに戻そうか……ん?普段から右手に剣、左手にワンドを使っているから、実質二刀流じゃないか?」


「それ、遠距離から魔法を撃ち込む時だけですよね? なにか違うような?」


 言われてみると、只の持ち替えだ。

 二刀流を練習するにしても、もっと弱い敵で行う事にして、探索に戻った。

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両手に鞭を持った場合、二刀流と言うよりも女王様ではないだろうか 泥酔猫 @dmonokira

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