二刀流部隊のおちこぼれ
黒いたち
二刀流部隊のおちこぼれ
背後から敵を
カイルは飛びずさって後退し、大岩の影に身をひそめる。
利き手の
これではもう戦えない。
かくれた大岩から、ちらりと草原をのぞく。
「……
かたいウロコを持つかれらは、防御力が高く、痛みを感じにくい。
そのため、致命傷をあたえない限り、なんどでも襲ってくる。
手持ちの武器は、折れた
カイルはため息をつき、指で左耳を二回タップする。
イヤホン型の
「――討伐失敗。帰還する」
聞こえてくる罵詈雑言に眉根を寄せて、カイルは右つま先で、地面を二回タップする。
靴に内蔵された
この星は呼吸する。
地表からじわじわと聖気を吸収し、
そうして極端に魔力濃度が高くなった場所は、動物を
魔物は凶暴であったが、大多数は人間を恐れ、
ところがいまから五十年前。
世界中で魔力大放出があり、四本足だった魔物は、二本足歩行の
知能を得た亜人は人間を食料とみなし、積極的に襲って喰らうようになった。
しかし進化したのは人間も同様だった。
いろいろな能力が向上し――魔力が発達した「
守護種は魔力テクノロジーを用いて、街に
攻撃種は
「――なぜおまえが『一刀流のカイル』と揶揄されているか、わかるか」
真四角の部屋のなか、
カイルはそっぽを向いて、舌打ちする。
「
「規定どおり二本持てば、一本折れたところで撤退などという情けない選択をすることはなかろうに」
「重いんだよ!」
主要武器である
筋力が発達した
「攻撃は最大の防御」との先人の教えをかかげ、両手に
「それは努力でどうにもならんことか?」
「うっせ、ロリババア」
「レア部隊長様と呼びな! 童顔のクソガキが!」
「童顔なのはてめぇの孫だからだ!」
レアは
孫のカイルは、その血が1/4ほど入っているために、二十五を過ぎてもいまだ未成年に間違えられる。ゆえに身分証は携帯必須だ。
「――外まで聞こえてますよ」
のんびりした声音で、お茶を運んできたのは、頭からうさぎ耳を垂らした女性だ。
動物の特徴を併せもつ
「カイルさん、おしごとおつかれさま。怪我が無いようで、なによりです」
おっとりとほほえみながら、テーブルにお茶をならべる。
レアは眉をつりあげた。
「ロップ、甘やかすんじゃない。攻撃種のくせに
あら、とロップは手を口に当てた。
「では守護種のくせに魔力が低すぎて、
軽い口調の、内容は重い。
レアは苦い顔をした。
「ロップは事務員として優秀じゃ。気が利いて雑務も丁寧にやるから重宝しておる」
「カイルさんも、文句ひとつ言わずに毎日働きづめじゃないですか。お孫さんかわいさの照れ隠しは充分ですので、たまにはカイルさんにも優しくしてあげてください」
レアがため息をつく。
「下がれ、カイル。――今日はもういい」
「よかったですね、カイルさん。私もちょうど仕事が終わったので、よるごはんにつきあってください」
「あ、ああ」
「ではレア様、お先に失礼いたします。いきましょ、カイルさん!」
カイルの腕を引き、ロップが退室する。
残されたレアは、残された湯飲みを見やり、あきれたようにため息をついた。
夕方の街は、活気にあふれている。
雑多な人の群れの、表情はあかるい。
店先から料理の香ばしいにおいが
「カイルさん、なにが食べたいですか?」
となりのロップが、あかるい笑顔をみせる。
「どんな店でも、ジャンプして見つけますよ。
おどけるように言ったロップは、ズボンの
「ロップは
「はい。だから
ロップはまぶしげに空をあおぎ、カイルに笑いかける。
魔物と人間が進化するなか、人外と呼ばれる妖精や獣人に、めだった変化はおとずれなかった。
そのため混血児の進化率は、人間の割合と比例する。
見た目にも表れるらしく、ロップの場合は耳と足としっぽが兎人のそれだった。
「カイルさんの見た目は人間なので、私よりかは進化率が高いはずです。……だから、自信をもってください」
カイルは苦笑する。
「
「そんなことは……ねえ、カイルさん。私たち、すこし似てると思いません? ハーフとクオーターは共通の悩みもありますし、その、都合がいい、といいますか、お似合い……といいますか」
めずらしく言いよどむロップに、カイルは首をかしげる。
聞き返そうとしたとき、背後から悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
人の波が押し寄せてくる。
ロップがカイルを抱きしめたかと思うと、おおきく
「カイルさん、あれ!!」
ロップが指さす先、亜人らしきものが、人を襲っていた。
カイルとロップは屋根づたいに走る。
ちかづくにつれ、その亜人が一匹の
「あいつは……」
カイルが倒し損ねた
放っておけば被害は広まる一方だ。
そしてこれはカイルの失態が招いたこと――なんとかしなければならない。すぐに二刀流部隊が到着するだろうから、せめて足止めだけでも――。
「カイルさん……」
心配そうなロップの声に、彼女を見やり――その兎の足が目につく。
「ロップ。おまえの足を借りる」
ロップが聞き返す前に、カイルは顔を近づける。
息をのんだロップの額に、自分の額をくっつけた。
「――“
ロップの体に、電撃が走った。
ふらつき、あわてて屋根を踏みしめたとき、かかと全体がつく感触に、ロップはおもわず足を見る。
「――人間の足!?」
「おまえはここにいろ!!」
カイルは屋根から飛び出す。
その跳躍は人間の域を超え――まるで兎人のように飛び跳ねる。
カイルは
背中の刃が深く押し込まれて、
駆けつけてくる二刀流部隊を、カイルは遠目に確認する。
すぐさまロップがいる屋根に飛びのり、彼女を抱えて地上におりた。
「行こうロップ。時間外労働はきらいだ」
事態がのみこめていないロップの手を引き、カイルは人混みを避けて進む。
すでに戻った自分の足で歩き、街のはし――のどかな牧場のまえで、カイルはロップの手を離した。
「カイルさん、さきほどのは……」
「妖精族の能力だ」
「そんなすごい能力をお持ちだなんて……やっぱりカイルさんは、おちこぼれなんかじゃないです!」
「――そうともいえない」
「え?」
「俺は妖精族のクオーター。借りられる能力は、体の1/4まで。しかも持続時間も短い――実戦で使えるレベルではない」
ロップは首をかたむける。
「でもいま、実戦で通用しましたよね?」
「それは、たまたま――」
「たまたまでもなんでも、勝てば正義です! 一刀流だからなんです! 妖精族の能力をあわせれば、唯一無二の立派な二刀流じゃないですか!!」
「……それはいささか、強引じゃないか? 1/2に1/4を足したところで、1には足りない」
「――私がいます」
「え?」
「一緒に考えましょう。どうしたらその1/4を補えるかを。カイルさんなら、きっとできます! それに……私の足でよければ、またいつでも貸してあげますよ?」
ロップが笑う。
その優しいほほえみから、カイルは目を離せなかった。
ロップが首をかしげた。
「とりあえず私の足に慣れるまで、毎日使ってみたらどうですか?」
「前から思っていたが……ロップはけっこう強引だな」
「強引なのは嫌いですか?」
「いや、たすかる」
目を見合わせて笑いあう。
「……カイルさんにだけですよ」
「ん? なにか言ったか?」
「いいえ。それじゃ、早く帰って練習しましょう!」
「おいおい。今日はもう無理だ」
「無理っていうのは、やってみてから言ってくださいね」
「……まいったな」
街を歩くふたりの背中を、夕陽が照らす。
長く伸びた影は寄り添いながら、前だけを向いて歩いていく。
そうして優しいロップと
一刀流を貫き、
いつしか『一刀流のカイル』はこどもたちのあこがれとなり、彼を模した絵本が出版された。
その
二刀流部隊のおちこぼれ 黒いたち @kuro_itati
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます