【KAC20221】仇討ち
リュウ
第1話仇討ち
やっと見つけた。
あの男だ。
髪は伸ばしっぱなし、汚れた服。
首から方にかけて、妙に大きい。
それは、長年鍛えられた故の体系なのかわからない。
私は、この男を探していた。
私の仇だからだ。
私の父を殺した憎い奴。
男は、突然、村に現れ人を見つけると切り捲った。
何かに取りつかれたように切り捲った。
止めに入ったのは私の父だった。
この男と父が戦っている時、私が父に駆け寄った時、父が倒れた。
私は、父に抱き付き泣き喚いていた。
この国の最高の剣術士と言われていた父が敗れた。
男は、立ち去った。
それから、私は武者修行をしながら、男を探していた。
私は、男の後をつけて、人里離れた場所まで待って声をかけた。
「お手合わせ願いたい!」
私の声にその男は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
私は、太刀の鞘を外した。
「おお、いい、いいよ、その刀」
男は、太刀を見ると顔を歪めた
「敵討ちか?
俺は何人もやったからな。
俺は、ただ強くなりたかった。
俺には、何にもなかったからな。
強くなれば、何もかも手に入ると思っていた。
強くなったが、長年、ここに引っかかるものがあって、
丁度、死にたいと思っていたところだ」
男は、心臓のあたりを指さした。
男は、腰から太刀を抜き出すと鞘を捨てて構えた。
「これが済んだら、もう辞めな。
俺を倒したら、後はどうする?
悪いことは言わない、静かに家に帰んな。
家族と仲良く幸せに暮らしな。
今の俺がお前に言えることは、こんなもんだ」
そんな言葉も私の耳には届かない。
じりじりと相手との距離を縮める。
最初に私が飛び込む。
刀が弾かれる。
次々と打ち込むが、相手の刃が行く手を阻む。
互角だ。
私は確かに切った手ごたえを感じていたが、男は何一つ表情を変えずに向かってきた。
死人と戦っているようだ。
更に、にらみ合いが続く。
上段に振りかぶり、男の頭を目掛けて力一杯、刀を振るった。
男の目が輝き、刀を合わせる。
両者の刀はほんの一点で接し、その一点に全ての力が注がれる。
均衡した力は、双方の刀の動きを止めた。
力比べだ。
刀のその一点は熱くなる一方だ。
私は、気合を入れなおし、渾身の力を注ぎこもうとした時、みぞおちに激しい痛みを感じた。
私は、自分のみぞおちに目を移した。
みぞおちには鞘付きの短刀で突かれていた。
男の右手が短刀を持っていた。
何っ。
男の刀は、受け止めているはず。
両手で握っているはずなのに。
両手は塞がっているはずなのに。
なぜ、私が刺されているのか?
男の肩には一対の別の腕があった。
その腕が持つ刀を私の刀を止めていた。
その腕の下から短刀を握った手が一直線に私のみぞおちを目掛けて伸びている。
二刀流……。
私は、後ずさりをし、ペタッと尻もちをついた。
唖然としている私に言った。
「これが、私を生き延びさせた策だ」
男は、肩に付けていたもう一つの腕を外して、地面に置いた。
「作りもんじゃ。よくできてるじゃろ。
この作り物の手で、相手の刃を迎え、抑える。
ほんの少しだけ自分の刃を引いてやると、
相手は、勝ったと思い更に力を込める。
その時、スキが生まれる。
そこをこれで刺すのじゃ」
男は、短刀の鞘から抜き、天に向けた。
男は、私の横にしゃがむと、私の肩をポンと叩いた。
「卑怯だと思うか?
生き延びるためなら、何でもやる。仕方ないじゃないか」
「二刀流だなんて!」
私は、負けた悔しさで叫んだ。
男はニヤリと私を見た。
「教える訳がなかろう。教えていたら、私がやられる」
男は、立ち上がり振り向くと歩き始めた。
私は、その男の右手がないのに気付いた。
「片腕?」
男が立ち止まり、少しだけ振り向いた。
「これか、その太刀で切られた」
男は、私の太刀に目を移した。
「あの時は、死んだと思ったよ。
腕を切られて、もう一太刀あびせられようとした時、子どもが飛び込んできてな。
その子どもに気を取られたときに、こいつで刺した」
短刀を見詰めていた。
「その男は、いい腕だった。強かった」
短刀がスルリとその場に落ちた。
「卑怯だと思うか?
……卑怯だよな、俺って。
この話が出来て良かったよ。
これで、冥途の土産ができた。
お前もいい腕だ。命を無駄にするなよ」
男は、フラフラと立ち去っていった。
【KAC20221】仇討ち リュウ @ryu_labo
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