殺して生かす!シリアルキリングレザレクションズ

プラナリア

一家の危機

「「「「「死バババババムゴゴゲゲーーッ!!!!」」」」」


 地下巨大シェルターに集められた数百もの人々の頭に、禍々しい投げナイフが次々と命中!脳漿噴射死せしめられる!そしてシェルター中央にはナイフを投げる仮面男と、彼を誇らしげに見やる中年男の姿があった。


「うほぉ~!最近になってまた上達してきたな!二代目!」

「オ、オデ……二代目……ヘヘ……」


 照れるそぶりの仮面男。然り、彼らは親子、そして彼らは世界でも屈指のシリアルキラーランカーである『秩父デスナイフ組合』その人なのだ!今、2人が行っているのは毎朝のルーティンであるデスゲームだ。毎日朝5時に起きると、その辺の秩父市民を攫っては、恐怖のデスゲームを開催し、その後朝食をとって昼のシリアルキルに向け英気を養うのである。


 ……そんな時だった、デスナイフ父の端末に連絡が入ったのは。


「もしもし?デスナイフ慎之助です。要件を言うか死ぬか決める権利をくれてやる」

『あっお世話になっております。国際シリアルキラー連盟職員のオリバーです。ええと、たった今大変な騒ぎがおきまして、それに関連してお伝えしなければならない事が』

「んだぁ?勿体ぶらず言ってくれや」


 連盟職員は明らかに焦りを隠せない声色で、電話の向こうの緊迫がこちらまで伝わってくる。不吉な予感。連盟職員のオリバーは一息置いて言葉を続けた。


『大変申し訳ないのですが……一旦全ての殺人行為を停止して頂けませんか』

「なんだと!?」



 ……去る2250年9月13日、全世界の殺人鬼に激震走る。当時深刻であった少子高齢化の要因として、シリアルキラーらによる殺人行為が否定できないとする驚愕の研究報告がなされ、この日を境に社会の殺人鬼に対するイメージは急激に悪化するのであった。このままではシリアルキラーの保護・支援の道が絶たれる!危機感を覚えた国際シリアルキラー連盟は社会との対話を目論む。その為殺人鬼活動を一旦は沈静化させ、国際社会の心証を回復しようと奔走していたのである。


「……そういう訳だから一旦シリアルキル活動を中断しろと!?国際社会に目配せしろと!?」


 デスナイフ父が声を荒げた。「俺達に死ねと申すか!」


『そ、そのような事では!ただ今だけはご殺人をお止めにならないと、デスナイフ様ご自身の肩身も益々狭くなって……』

「知るか!日課のデスゲームを邪魔してまでやった話がこれとは!万死に値するわーーーっ!」


 デスナイフ父は怒りのままコンバットナイフを端末に突き刺す!


『刺殺ァ―ーーッ!?!?』


 同時に、連盟職員のオリバーの端末からナイフの刃先が遠隔出現!頭を貫かれ死亡してしまった……なんと手練れた殺人術であろうか。


「貴様では話にならん!上司を呼べ!」

『はい、オリバーの上司、マルコ部長だ。部下の無礼を許してほしい』


 これに連盟側は懲りる様子もなく応対を継続。残り10人まで参加者を殺し絶好調な息子と対象に、苛立ちを隠せない親父。


「さっきのボンクラと同じ事を言ってみろ、そいつと仲良く添い寝させてやる」

『1つだけ、殺人を続ける手段がある。それを今から提案させて欲しい』


 部長を名乗る男は大量殺人鬼の脅しにもまるで動じず、きっぱりと答えた。


『殺人を行う代わりに、死者蘇生リザレクションも並行してやって頂きたい』

「蘇生?この俺が?」


 殺戮を生業とする俺に蘇生しろと?デスナイフ父はあまりに意外な答えに思わず脱力する。


『ええ、3名殺したうち1名、あるいは5名中1名とかでもいい。問題なのは殺人による人口減なのだから、これを抑制する姿勢を見せれば人々も認めてくれるだろう』

「だが未経験の作業を強いられるのも、そもそも俺は他人共に気を遣うのも……!」

『であれば従う必要はない、腹いせに私を殺すもよい。しかしそれではあなた方の未来も閉ざされてしまうだろう』

「ええい!もうよいわっ!」


 電話を切る、深い溜息。一方デスナイフ息子は無事ほとんどの参加者を殺害し終え、残すはあと2名であった。片や身長2m超えの筋肉男で、片や見るからに頭脳明晰な眼鏡。生き延びることができるのは、どちらか1名のみ……!


「オレは世界を練り歩き、500回もデスゲームに参加し生き残ったんだぜ!そんなオレが死ぬわけネーだろッ!!」


 筋肉男が吼える!


「クックック!私の計算によれば貴方が私への投げナイフを外す確率は99.999……以下小数点を省略……%にもなります。つまり生き残るのは私の方です!」


 眼鏡男もほくそ笑んだ!


「オデ……オデ……?」


 だがデスナイフ息子は戸惑っていた。その気になれば両方とも瞬殺できるが故に、どちらを残すべきか迷い、モジモジしていた。そうした末に息子は1つの解決案を思いつく。


「エ、エト……ジャンケン、シテ?」

「おや?つまりジャンケンで負けた方が」

「殺されるって話だな!受けて立つぜッッッ!」

 

 生き残り2名は即座に理解。お互い向き直ってジャンケン体勢に入る!そして壮絶な戦が幕を上げた……!


「いいでしょう!では最初はグ」


「オデ!!!!!!」


 デスナイフ息子は迷いを振り払った!彼は右手のナイフで眼鏡男を一突きし、その勢い余ってもう左手のナイフで筋肉男も貫く!


「「死バムゴゲ!!!!!」」


 2名は断末魔を放ち絶命!抜け殻となった肉体から流れる血はさながら公園の噴水のようで、しかしそれもすぐに止まり、2つの死骸が固い音を立てて倒れる。シェルターに残されたのは死骸と静寂と血の海。この光景が親子の日常なのだった。


「あ~またやっちまった、言ってるだろ?全員死ぬタイプのデスゲームは人気が出ないってよ」

「オデデ……」

「まあ次は気を付けろよ」


 次があるなら、そんな言葉が父の口から出かけた。頑固な彼とて理解していた、このシリアルキル業界が長続きしないこと、今まさに転換期が迫っていることが。だが、頭で分かっていても何になるか。産まれた3秒後に人を殺し、それからずっと殺戮だけの人生だった彼が、今更何ができようか。


「ソセイ、シテホシイ?」


 その言葉に父は耳を疑った。殺しばかり仕込んで来たデスナイフ息子が「蘇生」と口にしたからだ。


「何だと?」

「カタホウ、ソ、ソセイシテ、デスゲームイキノコリ」


 息子は先程の死骸の元に座り込み、その骨肉を掻っ捌き始めた。本来生き残すつもりだった眼鏡男の肉体へ、無事そうな部位を継ぎ接ぎしては体を修繕していく。それは全く迷いのない、まるで熟練手つきのようで……


「い、一体どこで学んだ!?」

「ア……ユーチューブノ、ソセイドウガデ……」

「動画でだと!そんな奴殺人鬼界隈でも数人しか知らんぞ!」


 知られざる息子の能力に父は驚愕。それにどうだ、修繕されゆく眼鏡男の繋ぎ目は全く目立っておらず、極めて自然。プロ蘇生師でも難しいとされる技術の筈だった。こうなっては父も認めざるを得なかった。デスナイフ息子は蘇生の才能があると。


 そして、父が呆気にとられている間に修繕は完了したのか、息子は降霊の呪文を唱える体制に入った。


「オデ、ア、ムゴゴ……」

「し、しかし!アイツに複雑な呪いを唱えろというのは無茶では!」

「ムゴ艱難に巡り潰えし憐れな御霊オデ、地脈霊脈通じ千里万象見渡す神霊の許しをオデていまふたたび現世に再臨せること……」

「喋った!!!!」


 父はガッツポーズした。国語の授業でいつも落第していた息子が、こと蘇生呪文に関しては滞りなく唱えられている事に感動を覚えた。そして息子はあっと言う間に唱え終え、眼鏡男の肉体に聖なる光が……


「ヴォー、メガネ、ヴォー」


 眼鏡男が呻きながら立ち上がる!そのまま地下シェルターを徘徊、彼は生還したのだ!


「や、やりやがった!お前、こんな才能があったなんて!」

「ア……ヤッタ、ケド、マダフカンゼンダケドモ」


 眼鏡男は前方に腕を伸ばし、よだれを垂らしながら壁に激突していた。死前の明晰さは鳴りを潜めているようだ。


「まあ……大丈夫だろ!とにかく息子よ、お前は大した事を成し遂げたのだ」

「アッウン、デモチョット、マダミジュク……」

「メガネヴォー」


 困惑ぎみであったが、息子も嬉しかった。こんな真っすぐに喜んでいる父を彼は今まで見た事がなかった。こんな機会はめったにないから、共に喜ぼうとした息子であった。


「そうだ、言わなければならん事がある。俺達のシリアルキル稼業はいま岐路を迎えている。殺人鬼も世間に気を配る必要に迫られる時代だ」

「オデ」

「俺は遂に決心がついた。今日よりこの秩父デスナイフ一家は殺人と蘇生の二刀流でやっていく、それにはお前の力が必要だが……手伝ってくれるか?」

「オデ!」

「ヴォーメガネ」


 こうしてデスナイフ組合は二足の草鞋を履いた!毎日すごい数の人間を殺してはほどほどに蘇生を行う、前代未聞のシリアルキラーが誕生したのだ!彼らが振りまく死と再生の果てに、一体いかなる運命が待ち受けているのであろうか……!!



                ◆ ◆ ◆



 数日後、某所、暗い会議室。


「ではマルコ殿、次は貴君の報告を聞きたい」


 ぞっとするような冷たい声が響いた。そして名指しされた男……シリアルキラー連盟のマルコは机に肘をついた。


「まず秩父デスナイフ組合が応じたようです。皆さま、既にシリアルキル世界の改革は始まっていますよ」


-終-

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