3.目覚め
「なあ、あいつって不気味だよな……」
「そぉ~そぉ~!! いつも表情を変えずにさ、気味が悪い……」
「しかも、それでいてそっけない態度!生意気だよな?」
「後で、
──まただ…… また、聞こえる。
「──いて、次のニュースです。 昨日、都内の○○高校で、女子生徒が首つり自殺をしているのを、出勤していた教師に発見されました。 警察によると、自殺した女子生徒は――」
──自殺?? いや違う。 あれは……
「お前のせいで、俺たちの娘は自殺したんだ!! かわり貴様が死ねばよかったんだ、この人殺しめ!! 娘を返せ!! お前が代わりに死ねばよかったんだぁあああ!!」
女子高生の父親は隼の胸倉をつかみ、涙を流しながら隼を殴り続ける。
──そうだ、俺のせいだ……
──俺のせいで……
「ギャハハハハハハ!! 何の用だ、黒須ぅ《豚ぁ》?? あいつのことで聞きに来たのか?? まったくバカな女だぜ!? お前みたいな嫌われ者を庇って《かばって》よ~~!!」
「なあに?? あんた、あの女に惚れてたの?? キャハハハハハ!! チョ~~マジウケるんですけど~~!!??」
「俺たちに逆らった罰さ♪ お前を庇ったせい、つまりぜ~~んぶお前が悪い!! 悲しむ必要はないさ!! ただ、負け犬が一匹死んだだけ…… それだけだろ♪ ──でもまあ、肉便器としては最高の女だったけどなぁ!! ギャハハハハハ!!」
5、6人の男女が隼に対してニヤニヤしていて最後は爆笑していた。
──黙れ
その言葉を聞いて隼の中で何かが壊れた──
「もっ…… もヴ、ゆるじでええ…… 俺だぢが、あいづをごろじまっだんだあ…… ただのあぞびのづもりだったんだぁよぉお…… ごろずづもりじゃ…… ぐぴぇあ!!!??」
隼は拳でそいつの顔面に何度も殴りつける。
「いたい…… いたいよう…… ままぁ……」
「しぬぅ…… 死んじまうよぉ……」
取り巻きの女子は足にガラスが刺さり痛がり、子分は頭から血を流していた。
命乞いしても、隼は何度もそいつら《いじめっ子》の顔を骨を股を、身体中を何度も痛めつけた。
血で染まったその拳で。
時にはその場にある鈍器で。
ガラスの破片で肌を切りつけ。
取り巻きが持っていたナイフを奪い、何度も死なない程度に刺して。
生きていることを後悔させるほどの苦痛をそいつらに味合わせていた。
──死ね
──死ね
──死ね
──死ね
──死ね
──死ね
──苦しめ
──あいつが受けた分まで苦しんで死にやがれ!!
「黒須!? やめるんだ!!
そいつら《いじめっ子》を痛めつけていた隼は、駆け付けた教師に羽交い締め《はがいじめ》された。
すると隼は無意識に、羽交い締めしてきた教師の顔面に拳をめり込ませる。
それを見た野次馬たちから悲鳴があがり、他の教師を呼ぶ声が響いた。
──邪魔をするな
何発殴っただろう??
冷静さを取り戻した隼は、血まみれになった教室に1人茫然と立ちすくしていた。
隼の足元には泡をふいて、血まみれになり倒れている男子生徒。
顔の原型をとどめていない女子生徒。
顔面を殴られ吹っ飛ばされた教師が倒れてのびていて。
中には腹部にナイフを刺された生徒もいる。
遥か遠くから、サイレンの音が鳴り響いてきた。
隼はふと冷静さを取り戻し、自分の両手を見た……
──赤い……
──真っ赤だ……
──汚い、あのクズどもの血で……
『――今週のニュースです。 先週に○○高校で自殺したと思われた女子高生は、実は殺害されていたという事実が解りました。 警察の調べによりますと――』
「──君はその事実を知り、彼らいじめっ子を完膚なきまで殴りつけた…… それでいいんだね?」
「……はい」
「
「……残念ながら、少年院行き ──にはならずに済みそうですね。 自殺に追い込んだ一部の加害者の家族達が事情を知り、
「よっ、よかったぁ~~ 黒須、許されてよかったな??」
鼻にギプスを付けた担任の男性教師は、隼の髪をくしゃくしゃにした。
──赦される《ゆるされる》?? 赦される《ゆるされる》はずがない。
──オレの手は血で染まった……
──オレは死ぬべきなんだ。
──でも……
「死ぬのが怖い。 ──でしょう?」
「ッ!?」
隼は耳元の突然の声に驚いて後ろを振り向いた瞬間、後ろに押し倒される。
──その瞬間、胸に激痛が走る。 激痛が起きている胸元を見ると、ナイフが深く突き刺されていた。
ナイフを指したのはその死んだ女子生徒だった。
その首にはロープで吊るされた後が痛々しく跡が残っている。
「グッ…… ゴフッ!?」
口の中が血の味で満たされ、口から大量のそれがとめどなくあふれ始める。
「──大丈夫…… 怖がらないで?」
殺害された女子生徒は馬乗りになり、光が無い瞳で
「すぐに、気持ちよく眠れるから……」
徐々に黒須と女子生徒の顔が近づいていく。
薄れる意識の中、隼が感じたものは、女子生徒に口づけされた感覚……
口の中に広がる血の味と、彼女の冷たい舌から感じる、死の味だった──
◆□◆
「──ッ!!??」
隼は大きな木によりかかるように眠っていたが、悪夢から飛び起き、夢の中で刺された自分自身の胸元に手で感触を感じ、勢いよく辺りを見回した。
周りは屋久島の縄文杉──
……いや違う、ここはさっきいた場所屋久島の縄文杉ではない全く別の場所。
どうやら丘の上のようだが、見たことのない風景だった。
「……これは、夢の続き??」
しかしすぐに現実に呼び戻す光景が飛び込む。
廻りには縄文杉で死んでいった仲間の自衛官数名の死体と、怪物たちの死体が横たわっていた。
隼は左腕で頭をヘルメット越しに抱えながら深いため息をつく。
────??!!
「左腕が、──ある!?」
確かにあの時、左腕は切断されたはず……
いや、いつも見慣れていた自分の腕ではなかった。
本来の自分の腕とは変わらないが、いつもと違うのはその左前腕部には【X】のような模様をしたトライバル《民族のタトゥー》が彫られていた。
「どういうことだ?? それにこのタトゥーはいったい……??」
──ギャオオオオオオオオオオオ……
突然のなにかの叫び声にその場から飛び起きる隼。空を見ると鳥が……
──いや違う、トカゲ…… いや、なんだあれ!?
映画で見たような生物が群れで空を飛んでいた。
「もしやあれは、ドッ……!? ドラゴン!? オレはまだ夢を見ているのか……??」
その場から歩きだして風景を見渡す。 隼がいる丘の上から見るその光景は、まさに異質だった。
空には前に映画で見たようなドラゴン、空中にはクリスタルが浮遊し、大地には見たことのない石碑が立っていて、緑の草原が広大に広がっていた。
その光景を見て1つ言えること…… それはここは少なくてもさっきまでいた、屋久島の縄文杉ではないということだ。
「なんなんだ?? なんなんだここは?? どこなんだ、ここは??」
隼はその風景と自分自身の今の状況に思わず
それもそうだ……
切断されたはずの左腕は再生していて、空にはドラゴンは飛んでいて、それよりもここはさっきまでいた場所屋久島の縄文杉ではない。
色々とこの現状にツッコミを入れたい現状に、隼は軽く混乱していた。
──すると突然、隼の肩は後ろに思いっきり引っ張られ、隼は後ろの木に背中から強く叩きつけられた。
「ブヒイアアアアアアアアア!!!」
どうやら先程屋久島での戦闘時にいた、豚の頭の怪物の生き残りのようだ。
そいつは傷は負ってはいるものの、強い殺意を隼に向けて襲い掛かってくる。
すかさず隼は、落ちていた
しかし弾倉マガジン内の全弾9発を撃ち込んでも、怪物はひるみもしない。
手負いの獣とはこのことだろうか??
明らかに急所に着弾しているはずなのになりふり構わず、隼に向けて斧を振り下ろしてきた。
横に転がりかろうじて隼はその斬撃を避け、空になった
しかし横なぎに斧を振られ、構えていた拳銃は遠くへと飛ばされ、側転をして怪物の追撃を辛うじて《かろうじて》回避する。
「このっ――?!」
野郎がぁ!! と叫びながら自身が被っていたヘルメットを脱ぎ捨て、怪物に思いっきり投げつける。
怪物の顔面にヘルメットがぶつかるが、それは気にせずに隼との距離を更に詰めながら怪物は斧を振り回し続ける。
隼はかろうじてそれも避けながら地べたに落ちている太めの木の棒を取り、怪物に思いっきり殴りつけた。
──無常、まさにその言葉が合うだろう……
殴りつけた棒は骨が折れたような鈍い音を立て折れてしまった。
すかさず隼は怪物の顔面に右腕の拳で追撃した。
ニタァアアア……
隼の拳がめり込んだ状態で怪物はいやらしい笑みを浮かべ、彼の胸倉むらぐらを片手で掴み派手に投げ飛ばした。
「グハッ?!」
また背中に激痛が走る。
骨が折れたかもしれないような痛みが、意識が
──何かないか!?
隼は周りを見まわす。
すると自分自身の後方に気の枝に仲間の死体が、
幸いさいわいにも引っかかっている場所は低い位置だ!!
しかし、そんなことはお構いなしに怪物は勢いよく隼に向かってきた!!
隼は仰向き《あおむき》の状態で後ろへと下がり、死体が持っていた
怪物はそれに気づいたのか、さらに走る速度を上げ距離を詰め始めてきた!!
──あともう少し!!
必死に
徐々に怪物が近づくたびに隼は、焦り始める。
そいつが目の前に近づいた瞬間、なんとか引き落とし、左腕でハンドガードを持ち、右腕でコッキングレバー《槓悍》を引き、グリップを強く握った!!
目の前は、斧を振り下ろす瞬間の怪物。
それが見えた瞬間──!!
「うおおおおおおおおおああああああああああぁぁぁ!!」
怪物に向かってトリガーを引いたまま銃口を怪物に向け弾丸を浴びせた。
辺りには、撃ち終わった地面に落ちる薬莢の音と、
怪物は何十発ものの銃弾を受け、
動かなくなった怪物を見て隼は弾を撃ち尽くし、カチカチと金属の音が鳴り響く
ひどい匂いだ……
自衛隊の上着には、怪物の唾液と返り血がべっとりで悪臭を放っている。
「はあっ、はあっ。 いてぇから…… 夢では、ないか……」
この痛みといい、鼻を劈くつんざくクソみたいな匂いといい、悪夢にしては
──と、隼は今の状況を冷静に今の状況を分析した。
「そうだ!! 無線!!」
隼は胸元にセットしてある無線機を取り、連絡を取ろうとするが……
「クソ!! ……投げ飛ばされた時に壊れたか」
舌打ちをしながら隼は、血で汚れた上着を脱ぎ、黒緑の速乾のTシャツ姿になる。
運よくズボンの方は返り血は浴びず、少しの泥の汚れだけで済んでいた。
「ふぅ。(とにかく、ここから離れないと……何か使えるものは?)」
隼は辺りに使えるものはないか、探してみた。
──数分後──
黒須はその場を動く準備ができたようだ。
武器を2つ、そして死んだ仲間が使用していたであろうサバイバル用具と水筒を持つ。
「……(武器は9㎜
9㎜
俗に言うPDW《パーソナルディフェンスウェポン》、一般的にはSMG《サブマシンガン》とも言われている。
本来は主に、室内などの狭い場所での近~中距離戦闘で使用される武器で、遠距離による射撃は
もう一つの38
38
装填弾数は5発、予備の弾は無し。自衛隊が使用する
この2つの銃器を装備し、隼は下りられそうな坂を見つけ、そこから見える情景を目に焼き付ける。
その情景はさっきの怪物がいたなんて思えないほど綺麗に映る。
隼は深呼吸をし、目を見開いた。
とにかく人が住んでいる村や町があるか調べよう……
オレが今いる場所は、見たところ人の手が入っている場所だし、近くに誰か住んでいるはずだ。
隼はそう思いながら再びその場で大きく息を吸いゆっくり吐く。
「――さて、行くか!!」
隼は丘を下りだす……
これが、この世界と現実世界を巻き込んだ壮大な戦いの始まりだとは、
この時の隼は思いもしなかった……
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
黒須 隼
・階級 陸上士長
・Age 21
・現在地 不明
◇現在装備中の武器
メインアーム主力兵装
9㎜短機関拳銃 【M9(エムナイン)】
全弾数 25発×(マガジン3分)
サイドアーム副兵装
38口径警察拳銃 【ニューナンブM60】
全弾数 5発
◇所持している道具
・水筒
・オイルライター
◆現在の目的◆
・人を探す
・現在地を把握する
──作戦実行中……
緑の災厄と呼ばれて G.Balto【GENO=BALTO】 @Balto0513
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。緑の災厄と呼ばれての最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます