2.不期遭遇戦

 五十嵐を殺害したは、次々と空間に空いた穴から出てきた。

 そのうちの1体は五十嵐の頭を割った斧を乱暴に引き抜いた。


穴から出てきたは一言でいうなら怪物モンスターと言えるような風貌ふうぼうだった。


──豚の頭をした肥満体の怪物

──子供の背と同じくらいの緑の肌の怪物

──そしてこの世界には存在しないような姿をした狼


 どれもこれもこの世の者とは思えぬ者達だった。

 は黒須達を見つけると、じりじりと距離を詰め始めた。



「なっ!? なんなんだこいつら!?」

「うっ…… と、停まれ!! 停まらんと撃t──」



 最後までセリフを言う前に狼の怪物が、勢いよく難波士長の首に飛びついて噛みついて、喉笛のどぶえを引き千切った。



「難波さん!? このクソ狼!? 難波さんを離せ!!」

「?! 根本、避けろ!!」

「はっ……!?」


 狼に銃口を向けた根本に沖田が叫ぶが、もう遅かった……


 豚の頭をした怪物が持っていた剣が、根本の腹部を貫ぬいた。 根本は口から大量の血を吐き出し絶命してしまった。



「ブゥ── ブッヒャヒャヒャヒャヒャ!!」


 怪物は満足そうに下品な声で大笑いをする。



「──さ…… 三佐!? 発砲許可を!?」

「クソッ!! これは危害行為、不期遭遇戦だ!! 全員、目標全てを撃滅げきめつせよ!!」


 沖田が隊員全員に応戦命令をする。


 それを皮切りに沈黙の森に銃声が鳴り響いた──






 隊員全員はその怪物たちに向かって、何発ものの銃弾の雨を浴びせた。

 これにはさすがの怪物達も現代兵器の前では無力なようで、数発撃ち込んだだけで倒れていった。


しかし……



「ブヒィィィィィィイイイイイイ!!!!」


 空間に空いた穴から次々と怪物たちが無尽蔵むじんぞうに出てきて、隊員達は徐々に追い詰められていく。



「うわぁ?! たっ弾がない!? おい、誰か弾をくr ――ひぎゃあああああああ!!?」


 勝俣は多数の緑の肌をした怪物に後ろから押し倒され、そのまま大勢に囲まれめった刺しにされていた。



「勝俣先輩!! ――このクソ野郎どもがあああああああ!!!!!」


 勝俣がめった刺しにされている怪物に向かって、藤宮は装備していた軽機関銃MINIMIを乱射する。


 そこに怒りで我を失った藤宮に向かって、豚の怪物が剣を振り下ろそうとする。



「――どいてろ!! 藤宮!!」

「黒須士長!?」


 隼はすかさず頭に血が上った藤宮を引き倒し、小銃89式小銃で豚の怪物の脳天を撃ち抜いた。



「泰介!! 藤宮一士を頼む!!」

「お、おう!? 任せておけ!! ──おい藤宮!! 冷静になれよ?!」

「すっ…… すみません、瀬戸先輩……」


 泰介は倒れた藤宮を引っ張りながら、安全なところまで移動させる。

 その様子を見てみると、藤宮も冷静さを取り戻したようだった。



「 キリがない!! どれだけ出てくるのよ!?」


 玲美は小銃89式をその場に捨て、やられた自衛官が使っていたP220を拾い、狼たちに鉛弾を撃ち込んだ。



「玲美!! なるべく急所を狙うんだ!! 弾を無駄にするなよ!!」


 弾が切れた玲美に拳銃P220用のマガジンを投げて渡す。

 それを玲美はキャッチし、拳銃に装填する。





「三佐ぁ!? めちゃくちゃ来ますけど!? ここは一度退却するべきじゃあ!?」

「それはできん!! こんな恐ろしい怪物達を放置して撤退したら、被害が拡大してしまう!! 何とかしてここで全て撃滅げきめつするぞ!!」


 泰介の提案に沖田は小銃89式小銃を発砲しながら返答する。



「くそったれが!! 弾が切れやがった!! おい小僧、をよこせ!!」


 短機関拳銃9㎜口径SMGの弾が切れた萩本は、無理やり藤宮の使っていた軽機関銃MINIMIを奪おうとする。


「離せ! なにすんだよ、クソジジイ《萩本曹長》!?」

「うるせえ!! 黙ってとっとと渡しやがれ!!」


 萩本は藤宮の顔面に蹴りをいれ、彼が持っていた軽機関銃MINIMIを奪い怪物たちに乱射する。

 その反動で藤宮は、怪物たちがいる方に倒れこんでしまい断絶魔を上げる前に、怪物達が持っていた武器で八つ裂きにされてしまった。


 萩本曹長の暴挙に援護役の藤宮が死亡し、一気に自衛官達は劣勢になってしまった。



「萩本ぉお!? 貴様ァア!!」


 さらに萩元のその理不尽な暴挙に、沖田の副官が感情的に顔面を殴りつけ、萩本曹長と取っ組み合いになってしまう。



「ちょちょちょちょっま?! 待ってください、あの!? 俺は1人でどうすりゃいいんすかちょっとぉ!? ──ってうわぁああ!!??」


 思わぬ展開に慌てふためく泰介の顔面に向けて、斧が飛んで投げられたが、運よくその場にあった後ろの根っこにつまずき、泰介はタコつぼほどの大きさの穴に落ちて、投げられた斧に当たらずに済んだ。


 戦闘が始まって生き残っているのは、隼、玲美、泰介、沖田、萩本、他数名の自衛官だけ──


 まさに絶対絶命という言葉が合う光景だ。


 背中合わせに隼と玲美は互いを援護しあい、殺された仲間が使っていた武器を拾いながら戦っていた。


 玲美は短機関拳銃9㎜口径SMGを使用し、緑の怪物の集団を相手していて。

 隼は倒れた仲間たちが使っていた小銃89式小銃を拾いながら、怪物の急所を狙い撃って戦っていた。



「アァあっ!? くぅっ……!!」


 だがついに玲美も豚の怪物の斬撃を右腕に喰らってしまう。 かろうじてかすめた程度だが、腕から血が流れている。



「玲美!!」


 隼は倒れそうになる玲美の肩を取り、片手で小銃89式小銃を構え、怪物達に乱射する。



──クソ!? コイツ小銃も弾切れか!?


 とうとう最後の弾も撃ち切ってしまった。 負傷し倒れこんだ玲美を抱えながら、隼は怪物達を睨みつけた。


 怪物たちは勝ち誇ったようにケタケタ鳴き、雄たけびを上げはじめる。





──ああ…… こんなで俺は死ぬのか。

──まだ償い《つぐない》ができていないのに……


隼の頭の中で走馬燈そうまとうが走る。



──でもそうだよな…… 

──怪物に八つ裂きにされて殺されるぐらいじゃなきゃ、赦され《ゆるされ》ないか……

──本当にくだらない人生だった。 オレのせいであいつは……

──オレも今そこに行くよ……

──そしてあの世で気が済むまで、オレを何回も



 玲美を強く抱きしめ、隼は覚悟をしたように笑みをこぼした。



「黒須!? 逃げろぉぉぉぉおおおおおおお!!」


 沖田の叫びが森の中を木霊こだました。



「────ッ??!! (またあの音!?)」


 隼に武器が振り下ろされる瞬間、あの耳ざわりな音が再び鳴り響いた。


 すると、どうしたことだろうか?? 

 その音を聞いた怪物たちは、一斉いっせいに怯え始める。



「──なに?? なんなの??」

「これはいったい?? 奴ら何に怯えてる??」


 玲美と沖田はその状況に唖然あぜんとする。





 その瞬間、空間に空いていたその穴が、ブラックホールのように吸い出した。

 その穴に怪物と隊員たちの死体ごとを吸いこまれていく。



「ぎゃあああああ!!」


 萩本もその穴に吸い込まれていく。



「うおおおおおおおおおお!!??」


 沖田は木にしがみついていたが、枝が折れ吸い込まれそうになる。



 黒須は玲美をすかさず頑丈な根っこにつかまらせ、穴に吸いこまれそうになる沖田の右腕を掴んだ。


「黒須!?」

「沖田!! しっかり捕まってろ!!」


 隼は沖田を引き寄せ、玲美が掴んでいる根っこに掴ませた。

 これで何とか沖田も吸い込まれずに済みそうだ。


──安心し自分もその根っこにつかまろうとした、その時!!


「っ!?」


 なんと吸い込まれそうになる怪物の死体が飛んできて、運悪くそれ怪物の死体にぶつかり、思わず隼はその手を放してしまった。


 何とか隼は穴に吸い込まれないように、必死に何かにつかまろうとする。

 しかし、空中に浮いているため体勢を崩され掴むことができない!


「ハヤトぉおお!!」


 吸い込まれそうになる隼の手を掴んだのは玲美の手だった!!

 玲美は何とか左腕で地面の飛び出た根っこを掴みながら、ケガした右腕で黒須の左腕を掴んでいる。



「うっ!? くっ!!」


 ケガした右腕で玲美は必死に隼を掴んではいるが、右腕に受けた傷の痛みで徐々に握る力がなくなっていく……



「玲美!? 手を放せ!! お前まで穴に吸い込まれるぞ!?」

「嫌よ!! あたしアンタにまだ伝えていないことがあるのよ!! それを伝えずに死なせてたまるかぁあ!!」


 玲美は意地でも隼の腕を放そうとはしない。



 しかし徐々に玲美の両腕の力がなくなっていき、

 隼はついに穴に飲み込まれ始める。


 隼の体を足から腰、腰から肩のあたりまで徐々に飲み込んでいく。



 そしてついには、左腕以外の身体を飲み込まれてしまう隼……





──そして次の瞬間、隼の左腕に激痛が走った。


 音がやみ、穴が閉じる瞬間、左腕の前腕部分がされてしまったのだ。



 隼が気絶する瞬間に見えた光景は、穴が閉じる瞬間に視界に入ったもの──


 普段は絶対に涙を見せない玲美の泣き顔に加え、隼の名前を大声で叫ぶ姿だった……

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