柏田と東海林のゲルニカ

白川津 中々

 柏田については、ギャグはウケないが顔だけはいいとの見解で皆一致しており、俳優寄りの芸人(≒色物タレント)として売り出そうという方針が固まっていたのだった。


「そんなん納得できないっすよ」



 相方の東海林が怒気を露わに反対意見を述べる。しかしそれもけんもほろろ。事務所としては売れたもん勝ちの姿勢を崩す気はなく、なんなら売れていない東海林の方を切りたいとさえ思っていた。


 東海林と柏田は”パブロフ”というコンビを組んでいた。名前の由来はピカソのファーストネームからであるが二人に絵の教養はない。ただ漠然と「漫才界のピカソになったる」という意味不明な目標の元、何の指針もなく決められた如何にも売れなさそうなクズネームなのであった。

 それでも多少なりとも熱意だけはあり十五年間売れない期間を過ごしてきたわけだが、そこで突如として沸いたのが柏田の顔面賛美である。きっかけは彼がとあるドラマにゲスト出演した際の事。視聴者から「あの顔のいい男は誰だろう」との疑問がTwitterで拡散され話題となり方々のメディアに展開。キャラクター的に中堅やベテランがイジればそれなりの笑いとなり、また、ギャラも安い事からキー局でも起用が目立ってきたところで現在に至るというわけである。



「お前はどない考えとんねん」



 東海林が柏田に問いかける。「お前はお笑い芸人とちゃうんか」「俳優とちゃうねんで」と、言葉外から聞こえてきそうな、迫力のある声色だった。

 二人は学生時代からの付き合いで、芸人に誘ったのは柏田からだった。東海林はその誘いを受け内定を蹴り、芸能界へと挑戦を決めた。彼は柏田と、共に夢を追い続けるつもりだったのだ。その心意気は依然変わらず燃焼し続けている。この柏田の魂を前に、東海林が下した結論は……


 



「俺考えたんやけど、俳優やりながらお笑い芸人やっていってもええんやないかな?」


 

 その一言に東海林はブチキレ。その日に解散が決定した。


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