第27話 毬の疑問

「なに? お腹すいた?」

「ううん、それどころじゃない。大ニュース! ナナはお母さんだ」

「は? 卵でも温めてるの?」

「そうじゃなくて、ウチのお母さんの生まれ変わり。今度はインコに転生したの!」


 徹は毬の頭を撫で、微笑む。


「よしよし。毬、可哀想にな、お父さんがいるから心配ないよ」

「ちょっと! そうじゃないんだって。マジでお母さんかも」


「なんで?」


「さっきね、『アヤチャン』って言ったの。2回も」

「ふうむ」

「この前『ヤブ』とか言ったでしょ。あれお母さんの口ぐせってお父さんも言ってたじゃない。だから決まりだよ」


 再び徹は毬の頭を撫でる。


「ナナはさ、推定、2歳か3歳なんだ。届けた時に交番の上原さんが言ってただろ。と言うことは2年か3年前に生まれている。その頃、お母さん、居たよね」

「うっ」


 毬は詰まった。そうだ。お母さん、まだ一周忌だった。ナナが2歳でも無理があるか。それじゃあ…、


「て、転生ってか、入れ替わり!」


 徹は笑った。


「そりゃ大変だ。今日のお坊さんに報告しないと。成仏しないでインコになってますって」

「で、でも一応本人に聞いてみる!」


 毬は慌ててナナのケージの前に戻る。ナナは澄ました顔でピュルピュル囀っている。


「ナナ。いや、お母さん。インコに宿ったの? たまたま死んだときに近くを飛んでるインコと入れ替わったとかなの?」


 毬の意気込みにナナも囀りを止めて、毬の顔をきょとんと見つめる。そして言った。


『ナンデヤネン』


 毬はずっこけた。うう、ナナにバカにされてる。あたし、ラノベの読み過ぎか?


 ナナは素知らぬ顔で小松菜をついばんでいる。


 よく考えたらそんな変なこと、実際にある筈ないよね。お母さんは小松菜とかほうれん草が嫌いだったし。でもな、じゃあさっきの『アヤチャン』って誰? もしかして、元の飼主かな。世の中で『あやちゃん』はお母さんだけじゃない。もしそうだったなら… ああ、いやだ。返せっていわれても返さない。毬は疑惑を押しつぶした。


 ナナもそれ以降、面倒になるのを嫌がったのか『アヤチャン』とは言わなかった。

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