第26話 衝撃の一言

 ツバメたちが旅立ち、カラスも毬に一目置くようになって、平穏な秋の日が続いている。徹と毬は、彩の一周忌を終えて自宅に戻って来たところだ。こじんまりとした法要だった。


 毬は法要で使用した彩の写真を取り出して、前に置いた。父が選んだ随分若々しい母の写真だが、故人を偲ぶと言っても法要の場は気を遣ってなかなかそうはいかなかった。毬は、改めて微笑む母に手を合わせる。


『お母さん、何とかやってるよ。ご飯はお父さんが作ってくれて、段々と上手になって来た。お母さんのご飯に似て来たよ。本当はあたしもしなくちゃいけないんだけどさ、ちょっと甘えてる。でもお父さんともよく話をするようになってきた。ナナが来てくれて、共通の話が出来たからかな。あ、ナナってね、セキセイインコなの。半年ほど前にね、虹の麓で、いきなりお父さんの肩に飛び降りて来たんだって。多分、どこからか逃げて来たんだと思うけど、交番に届けもないからウチの子になっちゃった。お母さんの好きな白と空色でさ、良く喋るんだよ。かわいいの。そうそう、お母さんの口癖ってお父さんが言ってたけど『ヤブヤブ』とかも言うんだ。意味、解ってないと思うけど。変なの。


 あたし、高校卒業したら就職しようと思っているの。まだお父さんには言ってないけどさ、警察官もいいなって思っているの。ナナの事で公園の交番のお巡りさんと知り合いになったのよ。ちょっといい感じの人。それでその人のお仕事を見ているうちに、これいいかもって思うようになった。本当はお母さんに相談したかったんだけど。


 それからさ、オルゴール、お父さんから貰ったよ。お父さん、ずっと忘れてたんだって。びっくりだよ。1年間も忘れるかって話よね。お母さんがよく歌ってくれた曲だった。形見だから大切にするよ。じゃね 』


 毬は顔を上げ、父に渡されたオルゴールの蓋を開ける。幼い頃からの思い出の曲『ゆりかごの唄』が流れる。ナナが落ち着きなく止まり木をトトトトと移動する。毬はオルゴールを閉めて振り返った。


「ナナ、ごめんね、一人にして。ちょっと連れて行くわけにいかないし、お線香の匂いとか、ナナ得意じゃないでしょ? あたしもだけど」


 そう言って毬は伸びをする。ケージから出してあげないとな。そう思ってケージの扉に手を掛けた時だった。


『アヤチャン』


 はい? 一瞬、息が止まる。ナナ、今、何て言った? 『あやちゃん』って聞こえたんだけど。


『アヤチャン チッチッチ キュルキュル』


 えーーー? なんでナナ、お母さんの名前知ってるの? 毬は半分凍り付いた。今日の今日だ。もしや…。

少々スピリチュアルになっている毬は、ナナに話しかけた。


「ナナ、念のために聞くけど、ナナはお母さんの生まれ変わり、とか、だったりして?」


ピユピユピユ


 ナナは素知らぬ顔で囀っている。


この無表情、マジかも? それで前に『ヤブ』とか言った? 『アーア』ってお母さんとそっくりに言った?

これ、マジなら大変だ。一周忌無かったことにしなきゃ、ってそれはそれなのかな。とにかく、


「お父さーーん!」


 毬は着替えている父を追いかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る