第11話 なんでやねん

 毬はバスを乗り継いで通学している。JRの駅で乗り継ぐのだが、生憎あいにく乗り場が駅の東口と西口に分かれていて、駅の中を通り抜けてゆく。しかし駅前には大きなショッピングモールがあり買物には便利であった。ナナの餌も毬はモール内のペットショップで買っている。


 その日、毬は『ナチュラルテイスト』と謳ったインコ用の餌を見つけた。いいじゃない、無添加品。ナナは味の違いが判るかなと内心ニヤつきながら歩いていたら、後ろから『まり!』と声がする。振り向くと中学時代からの仲良しである神戸 朱里(かんべ あかり) が立っていた。


「あかり?」

「久し振りー、毬、帰り?」

「うん」

「もし時間あったら付き合ってくれない? 塾の時間待ちなんだー」


 中学時代から才媛で、ミッション系女子高に進学した朱里だ。1年から塾通いも頷ける。二人は近くのカフェに入った。


 オーダーを終えて朱里が毬のエコバックを覗き込む。


「お買い物? もしかして毬がご飯とか作ってるの?」

 

 朱里は毬が母親を亡くしたことを知っている。少し気を遣った言い方だった。


「ううん、ご飯はお父さんが作ってくれる。あたしはたまに手伝う程度。これはインコのご飯なの」

「へーぇ、インコ飼ってるんだ」

「そう。空色と白のセキセイインコ。まだウチのじゃなくて警察からお預かりしているのよ」

「なにそれ」


 毬は朱里に事情を説明した。朱里は感心して聞いている。


「へーぇ、虹の麓に降りて来たの? 凄い。本当にあるんだ」

「え?」

「ってかさ、毬んちって昔インコ飼ってた?」

「ううん、今が初めて」


 朱里は首を傾げた。


「そっか。虹の麓ってさ、亡くなった人や動物が大好きな人を待ってる場所なんでしょ?」

「そうなの?」


 毬にはさっぱり判らない。


「ママに聞いたんだけどね、そんな話があるんだって。それで大好きな人が亡くなったらそこで再会して、一緒に虹の橋を渡るの」

「ふうん、全然知らない。でもウチには今までインコなんていなかったし」

「そうか。じゃあ戻ってくる訳ないね。待ち切れなくて、この世に戻って来たのかと思ったのよ。でも毬の話だとやっぱり偶然ね。お迎えに来られても困るから偶然で良かったよ」


 朱里は微笑んだ。


 しかし聞きながら毬は漠然と考えた。あのお巡りさんがインコ飼ってたって言ってたな。逃げたけどって。ナナが自分のことをもっと喋ってくれたら判るのに。


「それで毬はもう出来たの?カレシ。共学でしょ?」

「そんな簡単に出来る訳ないじゃん。大体それだったらこんなところでインコのご飯買ってないよ」


 二人はしばし、女子トークにふけった。


+++


 30分後、毬は帰宅した。


「ただいまー」


『タダイマ』


 リビングからナナの声が聞こえる。また言ってるよ、頓珍漢。手洗いを済ませて、買ったばかりの鳥の餌を持って、毬はケージに近づいた。


『タダイマ』


 ああもう判ったよ。帰って来たのはあたしなんだからね。


「ご馳走を買って来たんだぞ。ナチュラルなやつ」


 毬は先程の朱里の話を思い浮かべる。ナナがもしお巡りさんのところのインコだったとすると…、


「ねぇナナ。あんた、色変わった? 黄緑色から白と空色に」


 きょとんとしたナナは答えた。


『ナンデヤネン』


 ぷっ。新作だ。


「あんた、関西インコ?」


 ナナは素知らぬ顔をしている。


 あ、もしかして…。今朝、毬が出掛ける時は、そこのドアのところで『タダイマ』って見送ってくれた。行ってらっしゃいのタイミングで『タダイマ』って言うって、これってウケ狙い? 毬も思わず呟いた。


「なんでやねん」


 気のせいか、ナナの顔がしてやったりの表情に見えた。

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