後編
僕は成功した。過去の失敗を取り戻して、ずっと好きだった青木さんと付き合うこともできた。
いくつものタイムリープで
もう一人の僕は喜ぶ僕を見て、呆れたように唖然としてただ一言、「良かったな」とだけ残した。「もう手助けは要らないか?」そう聞かれれば僕は少し迷って首を縦に振った。何も言わずにこちらを向いて、いつの間にかアイツは消えていた。
そうしてもう会わないと思っていたら、彼は後日、姿を現した。
「お前が俺だ」もう一人の僕は突如現れて、そう言った。こちらに歩き出す彼を見て、僕も同時に駆け寄って行った。
「は?なに言ってんだよ」
昔より雰囲気が重くて彼は冗談を言う雰囲気じゃなさそうに思えた。何か悩み事があるなら僕のできる範疇で叶えてあげたいと思った。
「なあ輪廻。質問だ。"偽物"はいつまでたっても"本物"にはなれない」
「...これは本当だろうか」
「お前らしくない」何故か頼り気がなさそうに見えて、僕はそう言った。
「...言ってろ」
チッと舌打ちの音がうるさい。やけに癪に触る音だ。
というか、先のが勘違いだった。僕を見る目付きが怖い。...というか僕とコイツとの間のやり取りで、これ程までに一方的に冷たくあしらわれたことは今まで一度もない。
...ずっと共闘関係で、知らぬ内に戦友にまでなってるんじゃないかと思っていた。だとしたら今このやり取りを見れば、今まで起きたこと全て、何も無かったことなのだろうか?
「そんな言い方ないだろ」
「ならば問いに答えてくれ」
「つまらないクイズだ」
「最後だからな」
「もしかしてお前。消えるのか?」
だとすればコイツの目的は一体なんなんだ?
「安心しろ。今のところは予定通りだよ」
それはイエスなのかノーなのか分からないな。コイツは消える事を予定通り、なんて言わないだろうけど。
『質問に戻る』はたまた『黙ってくれ』という意味合いでか、片手を挙げる。どちらにしろ気に食わない仕草でやっぱり、腹が立つ。そして彼のペースに巻き込まれて行く。得体の知れない不安感が少し不快になった。これは乗って仕舞えばいつものことなんだろうけど。何故だか僕は彼の記述していくペースには乗りたくはなかった。
「それでさ。偽物が本物に勝つにはどうしたらいいと思う?」
「それは永遠に不可能なんじゃないか」
「......」
......。ただ相手を傷つけるだけの戯言だ。だが、これは云うならば仕返し。先の舌打ちも花束を踏み潰したことも忘れてはいない。
「正解だ。けどさ、一つだけ抜け道があるんだ」
抜け道?それは僕にもできることなのだろうか?
憎まれ口を自身で叩いて起きながら僕はそんなふうに思えた。
「本物が偽物に、つまりはミイラ取りがミイラに成ればいいんだ」
「え?それってどうゆうこと...」
簡単に言うよ。僕の息継ぎよりその一言の方が早かった。そして彼の言葉のせいで僕は続ける言葉をそのまま、飲み込んでしまった。
「次はお前の番だよ」
呆然と立ち尽くす。どうしてか、言葉が頭に入ってくるのに、まるで催眠術にかかったかのように、僕の体は金縛りで動かない。
「楽しかったぜ『元俺』。僕の勝ちだ」
そう言われる中で意識が混濁する。
最後の意識の中で偽物がニヤリと確信した。
僕の、僕だった者の視界が歪んで消えてゆく。
ドッペルゲンガー 服部零 @hattoricu_rei
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