中編
目が開けば自宅にいた。鏡輪廻の自室だ。
手探りでポケットからスマホを取り出す。
「...本当じゃん」
12月24日、スマホのディスプレイに表示された数字は今日の日付だが。am5:30とスマホに書かれている。冬らしい外の青色から察するに時刻は正常だ。先の時間はpm8:00くらいだろうか、だとすれば半日近い時間が巻き戻っている。
僕は家のテーブルに置いてある。テレビのリモコンを掴む。テレビを点けてみれば、今は朝のニュース番組が放送してみた。
時間が逆戻りしてるのは間違いない。目の前にいる彼は時間を逆さまに進ませてみせたんだ。それは彼の力を間近にしたから、分かるような気がした。
しかしこの事象を起こしたとして、この僕と同じ顔の人間は一体誰なんだ。
「君は未来人?」
「冗談よしてくれよ」
彼は僕を尻目に流して、ドシドシと廊下を歩き始める。
「ガサ入れすんなよ」
「ここに花束を置いてたのか」
そう言って台所に置いてあるラッピングされた花束を見た。
「...もう二度と踏むな」
「......。」
黙ったまま彼は喋らなくなった。
それから少しして、不意に彼が声を上げた。
「おい輪廻」
僕のことを、...おそらくだが『未来の僕』が見た。
「心当たりはあるのか?」
「え?」不意に豆鉄砲を喰らう。
「だから青木って子に振られた理由」
彼の最初の追求がごく普通すぎてまた少し驚いてしまう。本当に協力してくれるとは思わなかったし、
やっぱり何か得が裏にあって動いてるのかもしれないことも考慮しなきゃ。
「あー。それは...」
分からない。自分で思うのもアレだけど、振られる要素はないと考えて告白まで踏み切ったんだ。百パーセントとは言えなくても確実にと思えるくらいの勝算はあったように思える。
「全くと言っていいほど、分からない」
「そうか。俺も遠回しに見てれば、一部始終は違和感ないくらいに思えて、分からなかったな、フツーに仲良さそーだったし」
「どっから見てたんだよ」
「平日デートの時から」
......。
「いやだったら、なんで花束踏み付けるなんて意味分からん事したんだ」
「その方が俺っぽいから?」
「...似てないよ。僕達」
「なんだそれ。ムカつく奴だな」
開き直るように笑って両手を広げた。やっぱり顔は瓜二つだったが、笑い方が邪悪に見えて僕は嫌な顔をしてしまった。
「俺とお前が似てないのは百も承知さ。お前の向いてないことは俺がしてやるよ」
「それこそ『なんだそれ』だろ。お前のこと信用していいのか、まだ踏み切れてない」
タイムスリップだなんて唐突にしてくれても判断材料が乏しくて反応に困る。
太古の何もない平原。そこに一億年前にトラベルするくらいじゃなきゃ、視覚には顕著に影響が現れることはないと思う。
何が言いたいかっていうのは、もしれこれがタイムスリップじゃなかったとして、これが何かの催眠術効果的な何かだったり、詐欺だったら困ること。仮に変な呪い《まじない》を彼は取り扱えたとして、その催眠術効果で幻覚が見えて詐欺被害に遭うのは、あまりよろしくない。
......まあ、さすがにないよな。
今こうやって自分自身でイエスかノーの判断してるし、催眠の罠の中ってことはなさそうだけど。
「......取り敢えずそのSF信じてみる」
ただ、今は用心することよりも、僕は未来について変えたくてと不完全燃焼だ。
昨日?今日?いや幾分か前の、明日に存在した後悔を無かったことにしたくて仕方がない。
「それとさ。なんで手助けしてくれるんだ?」
「...それが自分のためだから」
自分のため、そう言ったもう一人の鏡輪廻は優しいのか怖いのかが全然分からなかった。ただその一言は出会ってから、どんな時よりも、真剣で冷静に思えた。
「だからお前も早く望みを叶えてくれ」
顔は双子であるかのように瓜二つであるが、人格に対してと、言ってることとあまりに性悪で、その正体、心の底が読めない。
少しジッとして観察すれば、鏡輪廻の顔をした男はニヤニヤと笑っていた。それは僕に対する嘲笑なのか期待なのか分からない。けれど僕はコイツの手を借りてでも、死にたいと思った自分の未来を変えたいって思っていた。
「輪廻おはよ」
「うん」
それは記憶通りの待ち合わせだ。好きな人と一緒に居たから印象に残ってる、それも楽しかったという好印象だ。けれどもこの後の惨事を知っていれば、頭痛を堪えながらの任務遂行になるのがキツイ。
「...青木さんおはよう」
僕のほうが先に来ていたけれど、それは手を加えなくて良い事実だろう。
耳障りな声の感触がする。
「おはよう鏡輪廻」
...これは、僕からだ。おそらく青木さんには聞こえてない。
「色々とできるんだよ。未来の俺は」
「最悪だ」
「輪廻?顔色悪いね」
「え?気にしないでいいよ。本当に」
「いや気にするよ!」
そんなこんな昨日話したような、話してないような会話が続いて夜に至った。このまま彼女と二人で自宅に向かって花束を取りに行くという、前世の記憶と予定通りに続いた。
「案外。嫌われてないっぽいな」
ノイズのように聴こえる声。
それは僕自身そう思っていた。きっと嫌われてないし、むしろスリップする前の振られていた記憶が夢みたいだった。
「いっそ、告白するのはやめるってのはどうだ?」
「告白して失敗したんだろ?」
今日これからする告白を辞める。先の行動の軌道を修正する......。
「...それで誰かに先越されたらどうする?」
「確かに今日のところは安心できるかもしれないけど、次の日や明後日、何十年後として、どうだよ」
「青木さんが別の男に逢引きされるのは、嫌なんだ」
「別に勝手だが何度も同じ面倒見るのはダルい」
...そうだよな。失敗したらもう二度とない幸運である筈なのに、勝手に突っ走ろうとするのは賢明じゃないな。
「何回でも僕の望みに付き合ってくれ。そしたら君の望みも叶うんでしょ?」
でもきっと、この夜がいくら来ようとも僕は頭悪いくらいに、衝動的に動いてしまうのかもしれない。
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