凡人二刀流
緋糸 椎
⚔
平凡なサラリーマンである
もっとも、徹平はそのことで愚痴を
「……最近良く見るわね、この人」
千賀子がさして興味なさそうに言う。
「知らないのか? 大リーガーの○○選手じゃないか。ほら、二刀流で話題になっている……」
「二刀流って、バット二本で打つの?」
徹平は呆れた。
「あのなあ……投手も野手も両方出来るから二刀流って言うんだよ」
「別に大したことじゃないわ。一人二役こなせばいいだけでしょ」
「一人二役なんて簡単に言うけど、二刀流がやれるのは、ほんの一握りの天才なんだぜ。凡人の二刀流なんて怪我のもとさ」
「私だって家事と仕事の二刀流よ」
徹平はふんと鼻で笑った。
「一緒にすんなよ」
と言った瞬間、しまったと思った。
今この瞬間日本全国の主婦と働く女性たちを敵に回した……しかし気がついた時にはすでに遅し。目の前には鬼の形相が迫っていた。
「……よくわかったわ。あなたって仕事と家事を切り盛りしている私のこと、そんな風に思っていたのね!」
「ご、ごめん、今のは言い間違えた。謝るよ」
ところが目の前にA3サイズの紙が差し出された。そこにはハッキリと【離婚届】の文字が。
「……冗談だよな!?」
「いいえ。ずっと前から考えていたことなの。もうあなたとの生活には耐えられないわ」
「ちょ、ちょっと待てよ。少し口がすべって失言しただけじゃないか。それを揚げ足取るみたいに……」
すると千賀子は不気味にフフフと笑いだした。
「な、何がおかしい?」
千賀子がスマホを差し出した。そこに映し出されていたのは、徹平と……不倫相手の若い女性だった。
「ち、違うんだ。これは……」
「別に怒ってないわよ。私もあなたには冷めてたから。丁度いいタイミングで浮気してくれて、助かった。慰謝料タンマリ請求するからよろしくね」
「おい、待てよ、話し合おう!」
「あなた、自分で言ったわよね。『凡人の二刀流は怪我のもと』って。それじゃ、さようなら」
千賀子は既に準備していたトランクを引いて出て行った。徹平はその後ろ姿を呆然と見送った。
凡人二刀流 緋糸 椎 @wrbs
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