第二六四話 超戦艦駆逐用砲艦『大江戸』

 再び茶封筒の中から紙を取り出す。今度は四つ折りになっている大きな紙だ。


「WASの総旗艦であり、松長本人が乗る艦。超戦艦駆逐用砲艦『大江戸』だ」


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 超戦艦駆逐用砲艦『大江戸』


 全長832m 全幅108m 最大船速19ノット

 

 主砲 82センチ46口径連装砲三基六門

 副砲 46センチ52口径単装砲四基四門

 対空 12、7センチ62口径速射連装砲十基二十門 

    10センチ62口径速射連装砲二六基五十二門 単装砲八基八門

    3,7センチ四連装機関砲三十四基百三十六門

    CLWS22ミリバルカン対空砲十基

その他 垂直発射型墳式魚雷三十八基  VLS52セル+24セル速射SAM

    電探23号レーダー ECM/ES併用真田レーダー

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「……何ですか、これ」

「艦、なのか?」

「こんなものが、水の上に浮くのか……?」


 その恐ろしき詳細を見た俺たちは、口々にそんな言葉を零す。


「と言ううより、どうしてここまで正確な敵の情報が分かったんですか?」


 気になったのはそこだ、敵の砲サイズから全長、速力まではっきりしている。まるで一度乗ったことがあると言うほどのデータだ。


「……もともとこの艦は、『紀伊』と並んで、日本の切り札とするはずだった幻兵器の一つなんだ。WASの襲撃時、キューブを持ち出されたため、計画は白紙に戻ったがな」

「この化け物を、日本が?」


 超大和型戦艦『紀伊』は分かる。確かに計画が存在し、その存在はよく架空戦記などで記されていた。しかし『大江戸』、もっと言えば超戦艦駆逐用砲艦なんて艦種、聞いたことがない。


「巨砲建艦競争構想、そんな妄想をしてたやつが、どうやら大日本帝国海軍の技術士官の中にいたみたいで、個人的な手記の中にだけ出て来た艦だ。たとえ『大和』や『紀伊』に対抗して、他国が大鑑巨砲の建艦競争を始めたとしても、絶対に打ち破ることが出来ない、超戦艦を駆逐するための移動砲台、そんな位置づけらしいぞ」


 無茶苦茶もいいとこだ。


「それで、こいつがWASの主力として、打ち破る術はあるのか?」

「現状は存在しない」


 うっそだろおい。

 浅間長官の問に、凌空長官は即答する。


「純粋な砲火力でこいつを沈めるのは不可能だ。航空機のことはあまり考えていないから、航空攻撃は出来るだろうが、それでも、硬すぎる。すべての攻撃を受け止めて東京湾にまで入り込まれてみろ、東京の沿岸部は壊滅するぞ」


 副砲でも『大和』の主砲と同等なのだ、一門でも残っていれば、東京を破壊するぐらい簡単だろう。


「それで、この艦の所在は?」

「現状グアム、もしくはパプアだと考えられている。フィリピン近海では離島や小島が多すぎてこの巨艦は活動できないと見られているからな」


 この化け物が、南太平洋に……。


「有馬君、まずは『紀伊』を、ゆくゆくは『大江戸』を倒さなくてはいけない、何か手を考えてくれ」


 ……無茶言うぜ。


「『紀伊』は、まだ何とかなるかもしれませんが、『大江戸』は……」

「逆に聞くが、『紀伊』の対処法を考えられたのか? あの艦は、ミサイル等の攻撃をシャットアウトしたバリアを持っている。それを破らなければ、攻撃を当てることすらできないぞ?」


 酒井元帥が怪訝そうに聞いて来る。


「ええ、まあ……あのバリアは、恐らく戦艦の砲撃なら無効化できます。いや、言い方が悪いですね、こちらが戦艦で挑めば、向こうはバリアを張ることは無いでしょう」

「……どうゆうことだ?」


 浅井長官は少し考えた後、いつもの煙草を取り出し、聞く体制を作る。


「これは、まだ推測に過ぎませんが、恐らく『紀伊』は、艦隊決戦を望んでいます」


 全ての根拠は、武蔵が戦った時の情報だ。


「『武蔵』は、『紀伊』の前部甲板全体は固いが、機関部上層は装甲が薄い可能性があると言う旨を電報で送ってくれました。これはつまり、『武蔵』の砲弾は『紀伊』に命中していたということです。それから、『紀伊』はわざわざ『大和』を追ってきました」


 あの状況、もし艦隊殲滅を掲げるなら、近場の佐世保へ向かって機動艦隊を襲う方が効率的だ。砲戦火力のない機動艦隊を葬り、日本の一大軍港の一つである佐世保を潰せるのだから。

 しかし『紀伊』はそうしなかった。そればかりか、潜水艦を使って『大和』一隻を狙った。その後は、『武蔵』が前に立つと、無視せず決戦を行った。


 それらの状況から導き出した俺の答えは、こうなる。


「『紀伊』は恐らく、魂のあるWSです。そしてその魂は、『大和型』との艦隊決戦を望んでいるんだと思います」

「『大和型』を狙っている、か……しかしなぜ?」

「それは、分かりません。作戦なのか、純粋な『紀伊』の意思なのか……本人しか、その答えは持たないでしょう」


 その後、俺の推測を基軸に、次の作戦が練られた。



 作戦名「大和」


第一段作戦「天零号作戦」

 砲戦艦隊戦力を結集、沖縄沖に進出し、敵砲戦艦隊を攻撃、『紀伊』以外の護衛艦艇を叩きながら、『紀伊』が出てきたら転進する。その際、沖縄航空隊はこれを全面援護する。


第二段作戦「改天一号作戦」

 沖縄沖より転進してきた艦隊と入れ替わりで『大和改二』が出撃、新装試製51センチ砲を持って、坊ノ岬にて『紀伊』を叩く。

 その道中は、援護艦隊から発進する航空隊によって上空を護る。


 投入戦力

 陽動艦隊

『長門』『陸奥』『扶桑』『ゆきぐも』『あらし』『夕張』『吹雪』『夕立』『綾波』『陽炎』『蒼龍』『やまと』

 主力艦隊

『大和』『矢矧』『雪風』『伊403』

 援護艦隊

『赤城』『加賀』『飛龍』『瑞鶴』『秋月』『古鷹』


「まさか『大和』を修理じゃなくて、改造しているとは聞かされていませんでしたよ」


 作戦を立てている最中、俺は凌空長官から衝撃的な報告を受けた。それは、『大和』はドッグで修復されているのではなく、改造されているとのこと。修復を行おうとしたそうだが、結局代替えのパーツが作れず、試作していた兵装などを搭載して穴埋めしたそうだ。


「ああ、まあ51センチ砲は軍機の一つだからな。公にはできなかった」

「51センチ砲……ほんとうに撃てるんですか?」


 『大和』の船体で、51センチ砲の反動を受け止められる保証がない。だが、51センチ砲の反動を受け止められる可能性があるのが『大和』だけなのも事実。乗せるとしたら『大和』しかいない。


「それはまあ、君の頑張り次第だろう」

「俺の?」


 煙草を吹かしながら浅間長官はニヤリと笑う。


「君に再び『大和』艦長の任を授ける。これは、総合作戦本部からの命令だ」

「いや、しかし俺は……」

「『大和』を沈めかけた責任か? そんなもの取る必要はない。少なくとも、今の日本で『大和』を最大限活用できるのは、君しかいない」


 強い言葉に、意を唱えることは出来なかった。


「……分かりました。有馬勇儀、再び『大和』へと乗艦します」

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