第二六一話 摺鉢山を登る
さすがに命綱なしで登るのは胆が冷えたが、有馬の信頼に答えるべく、私は崖を登り続けた。
時折、換気用に作った空気穴から中の様子を窺い、逐一有馬へと連絡を入れた。
「あと……もう少し」
少しずつ頂上が見えて来たその時。
「あ……」
山頂を周回警備していたのであろう機械歩兵と目があってしまった。
私の姿を見つけるなり、機械歩兵は手に持っていたSMGの弾をばら撒く。
「っく!」
紙一重で私は、全身の筋肉を使って少し隣の突起へと飛び移り、射線を躱す。
敵の視線がこちらに移る前に、急いで私は崖上へと昇る。
「うりゃ!」
崖上へとジャンプしながら飛び乗った私は、急いで背中に担いでいたkarを構え、機械歩兵の頭をぶち抜く。
「さて……」
銃声によって集まって来たのか、山頂には数体の機械歩兵の姿が見える。
「まずはこいつらを相手にしないとね」
「敵対戦車砲沈黙!」
「よし、各員前進!」
現地からの電報を受けて、俺は移動しながら前進の指示を出す。空が山頂で暴れたおかげで、摺鉢山内部の歩兵が移動し、対戦車砲周りの兵が減った。そのおかげで、なんとか三層へと兵が進められた。
より的確に指示を出すために俺は指揮所から飛び出し、バイクで移動していた。
「空が山頂で粘ってくれている間に、どれだけ登れる……」
俺は無線を山頂で戦う空へと繋ごうとするが、直前で思いとどまる。
「邪魔しちゃ悪いか……信じよう」
山頂で今頃戦っているであろう空。その邪魔をするのは申し訳ない。彼女を信じよう。
そうして無線機を置いた矢先、山頂で盛大な爆発が起こる。
「本当に大丈夫なんだろうな……」
ため息をつきながら、バイクの速度を上げる。
「第三層、制圧終了。第四層に上がります!」
「了解、気を付けていけ!」
摺鉢山へ行く途中、海岸付近では戦車隊が奮戦し、敵はほぼ壊滅している。本当に後は摺鉢山だけとなった。
「戦車隊、敵兵を片付け次第中央に終結。被害状況を確認しつつ待機」
「了解。指揮官、衛星電話で報告が来た、中国大陸の侵攻は順調、西方艦隊も敵機動艦隊を撃破したそうだ」
その報告を受けて、俺はバイクを止める。
「本当か! それはよかった、ならここさえ取り返せば「暁」作戦は完遂だ!」
89式小銃を構え、摺鉢山へと入ろうとした時、ウルフ1から追加の報告が来た。
「ただ、西方艦隊は『紀伊』と接敵、壊滅した」
「な!?」
思わず足を止める。
「被害状況は!?」
「詳しいことは伝わっていないが、少なくともイージス戦艦『こがらし』は沈んだみたいだ」
……これで、生き残っているイージス戦艦は『やまと』を除いて2隻か。だいぶやられたな。
この大戦を生き抜くために日本が計画設計した新時代のイージス艦、それがイージス戦艦だった。しかし、その新たな日本海上自衛隊の象徴となる艦たちは、ことごとく海へと沈められていく。
「やはり『紀伊』は台湾沖に居たのか……」
フィリピンが陥落した後、恐らく『紀伊』を含めた艦隊は母港をフィリピンに置いたのだろう。パプア国際軍港を襲った敵艦隊もおそらくはそこに……。
「ウルフ1、また何か報告があれば、俺に伝えてくれ」
「了解」
交信を終え、俺は改めて摺鉢山内部へと入って行く。
「こちら指揮官、今摺鉢山に到着した。戦況は?」
「現在第四層攻略中、もうじき、五層へと進出します」
急いで階段を上り、四層の最前線へと到達する。
「指揮官! いいんですか、こんな最前線まで来て?」
空直下の班の兵である石塚一等兵が小銃を撃ちながら聞いて来る。
「そりゃあ、一様元戦線長官だからね、最前線で戦況を見なくちゃ、戦線管理なんてできないよ」
石塚の問に答えつつ、敵の方へグレネードを投げつける。
数秒待つと爆発、敵の攻撃が沈黙する。
「行け! 突っ込め!」
俺の号令に合わせて、第四層最後の防衛線を踏み越えて、第五層へと続く階段を駆け上がって行く。
第五層は155ミリ砲が並べられていた為、そこから山頂に登ることもできる。
「数名は俺に付いてこい、他の兵は五層全体を制圧!」
「了解!」
そう指示を出した後、俺は小銃を背中に担いで、砲台の穴から外壁へと出る。少し上ると、すぐに山頂で戦う空の姿が見えた。
「空!」
しかし、その姿はボロボロで、肩も荒々しく上下している。
慌てて俺は崖を上り、側へと駆け寄った。
「有馬!? ダメ、すぐにここから離れて!」
「どうしたんだ?」
「一人、いや一体ヤバいのがいる!」
そんな空の叫びをかき消すように、辺りへとまるで電動ノコギリを振り回すかのような音が響く。
「うお!」
岩陰に隠れていたおかげで被弾を避けたが、命中した岩からぽろぽろと欠片が落ちる音が、被弾してしまった兵が体の半ばから切断されている姿が、俺の脳へ警鐘を鳴らした。
「何なんだ!?」
「欧州出兵時にも見た、右手がMG42のバレルになってる機械歩兵。あいつの機銃掃射で第四部隊は壊滅、空を飛んでいた『一式陸攻』と『零戦』もかなりの損害を受けた」
空はkarに弾薬を詰めながら、そう説明してくれる。
「航空機をも撃ち落とせる正確な射撃ができる機関銃、か。そりゃ厄介だな!」
思い切って岩から顔を出し、小銃を発射するが、即座に相手は反応して銃口をこちらに向ける。あまりにも反応が早い。
「それに、この反射神経に硬さ。近づいて撃たないと7.92ミリでもダメージは与えにくい、けど近づこうとすれば気づかれ、あっという間にミンチになっちゃう」
空は真剣な眼差しで、相手の様子を窺いながらそう呟く。
「その眼をしてるなら、何か勝機はあるんだな?」
「……まあね、一つだけあるにはある」
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