第二六〇話 行動開始
6月30日 13時15分 硫黄島
「各員、行動開始」
俺の一声で、『暁』第一方面作戦『栗林』の最終段階、硫黄島奪還が始まる。
敵艦隊を撃破した俺は、帰還する艦隊から離れ、硫黄島へと上陸した。そのまま攻撃計画を練り、輸送船の到着を待った。
補給物資でアンテナを建て直し、他方面の状態を聞くと、各方面で順調とのことだった。
第二方面の沖縄では、指揮官の更迭と援軍の航空機が移動完了、予想通りその二つで指揮は盛り返し、空の防衛をきっちり果たしている。西方艦隊も本日の午後には合流し、機動艦隊撃滅へ向かうとのこと。
第三方面の中国大陸では、上海部隊は少々手こずったものの、日本に駐留していたアメリカ海兵隊の手助けもあり、朝鮮、上海、台湾に上陸を成功させた。そのまま、全軍進撃を続け、順調に占領を進めている。どうやら、上海上陸には、いつぞや俺がスカウトした舞立紫雨が参加していたようだ。横須賀高校に行った時に出会ったあの不良が、一人前の兵士として、戦場に降り立った。どうか死なないでくれと祈るばかりだ。
「こちら第一戦車隊、敵部隊と接敵した」
「了解、そのまま前進を続け、浜まで進んでくれ」
「第三歩兵中隊、航空基地の制圧を開始する」
「火力支援が必要な場合は直接砲兵中隊へ連絡を、それでも難しそうなら第二戦車隊を呼べ」
天山防衛指揮所から、俺は適宜そう指示を送る。
浜まで戦車隊を進出させている間に飛行場を奪取。飛行場を奪取出来たら、歩兵を二分し摺鉢山と浜に振り分ける。先に進めた戦車隊との合流を目指す部隊と、摺鉢山を奪還する部隊だ。
同時刻 扇浜 先遣戦車隊
「十一時方向、弾種炸裂」
「ファイヤ!」
俺の指示に合わせて、隣に座る砲手が引き金を引く。すると、120ミリHRC砲が鋭い砲口を上げる。
飛翔する砲弾は目標手前で炸裂し、周囲に熱された破片と火花を散らす。
「各車輛、無理せず自衛を徹底しろ! 俺たちの目標は敵戦力の分散なんだからな!」
左手でハンドルを握りながら、モニター先に映る歩兵を狙い、右手で機銃の発射スイッチを押す。ブローニング12,7ミリで敵機械歩兵を破壊しながら、ゆっくりとアクセルを踏む。
「いやー弾薬が揃ってるのはなんてすばらしいことか!」
「ええ、本当、最高の気分ですねウルフ1」
俺の魂の叫びに、砲手であるウルフ2が反応する。
「どれだけこいつの性能が良くても、弾がなくちゃ働けないからな」
『四五式主力戦車』日本が『90式』の後継として、開発製造した第四世代主力戦車。乗員は二名で、砲塔に人は乗っていない。右側に戦車の操縦、正面機銃の操作を行う運転手が座り、左側に主砲、同軸機銃の操作を行う砲手が座る。二人の間には、どちらも使うことができる衛星電話が取り付けられている。
「多少の無茶でも、弾さえあればやってやろうじゃないの」
有馬指揮官の命で、こうして戦車隊8輌のみで敵中突破を行ったが、弾の無制限使用許可が出ているおかげで、すんなり突破していく。敵に重装甲の敵が少ないこともあって、順調だ。
「無茶の仕方も指揮官次第、だな」
無能がする無茶は、手がないから行う限界状態での無茶。だが有能な有馬指揮官がする無茶は、他にも手はあるが余裕があるからより大きな成功と結果を求めての無茶。この二つは同じ無茶でもまったく違う。後者はアブなければ退くこともできるという特徴もある。そして、その引き際を有馬指揮官が見間違えることは無い。
つまり、我々一般兵は安心して無茶な作戦を成功させることだけを考えられる。
同時刻 飛行場
「どらどらどらぁ!」
私は本土から持ってきたPKM機関銃を、飛行場にいる歩兵へとぶっ放す。
「憂さ晴らしだぁぁぁあ!」
PKM機関銃は、私がロシア時代に一度使ったことのある機関銃だ。何やらWAS工作組織のボタンの一基地を制圧した時に押収したらしい。弾の補給も利かないので、どう処分しようか自衛隊が悩んでいたものを、こうして持ってきた。
「ほら、貴方たちWASが持ってきた銃と鉛球だよ、お返しするねええええ!」
捨てるのは環境に良くないので、こうして持ち主に返している。約秒速800mで。
「うわぁ、班長お怒りだぁ」
その隣で、89式を構える石塚、前橋、伊藤。皆顔がひきつっている。
「そりゃそうだろ、あんだけ抑圧されてたんだからな」
「だとしても、この人に機関銃持たせるのはおっかないな」
「ほら、皆も行くよ!」
粗方この位置から狙える歩兵を制圧した私は、三人を連れてポジションを移動する。
「いやー今日の夜はぐっすり眠れそうだな」
石塚のぼやきが聞こえた気がしたが、それを無視するようにPKMの引き金を引き、心地よい銃声をかき鳴らす。
だだっ広い飛行場は制圧するのには少し時間がかかったが、砲兵隊の支援を上手く使いなんとか完了。当初の予定通り、歩兵を二分した。
「私たちは摺鉢山へ向かうよ」
「了解、俺らのハンモック、取返しに行きましょうか」
前橋がマガジンを交換して、そう意気込む。
私たち4人と、歩兵200人を連れて摺鉢山奪取へ向かう。他は扇浜を始め、それ以外の場所の制圧だ。
「日が落ちる前に終わらせるよ!」
私たち200人が向かう間に、空母から発艦した航空機たちが、摺鉢山の砲撃陣地を沈黙させてくれている。そのため、摺鉢山へ接近するまでの間に、攻撃を受けることは無かった。
元はこちらが作った要塞なのだから、どこに何があるのかを理解している。侵入も難しくはなかった。だが……。
「敵、対戦車砲を構えてます!」
「死傷者多数、階段上れません!」
このクソ狭い洞窟内で、対戦車砲をぶっ放すとか頭いかれてんじゃないの!?
「どうします?」
「どうするって言われてもなぁ」
現在摺鉢山の一、二層と地下を制圧し、三層へ進もうとしているのだが、敵が持ち込んだ対戦車砲が配置されており、下手に上に上がると榴弾で吹き飛ばされる。直線的な道にあるのと、この狭さで対戦車砲を避けるのはほぼ不可能だ。
「有馬に支援を頼んだけど、歩兵の数を増やして強引に突破する以外難しそうなんだよなぁ」
現在時刻17時02分。摺鉢山以外はほとんど奪還した。だが、この対戦車砲をなんとかしないと、摺鉢山は奪還できない。
「空、聞こえるか?」
「ん? 何かいい作戦思いついた?」
「いや、さっぱりだ。敵の砲弾が尽きるまで待つ。それぐらいしか―――」
「何を思いついたの、言って」
今の言葉に、一瞬迷いがあった。きっと、何か思いつきはしたのだろう。そしておそらく、それは私を使った作戦。大勢の犠牲こみの作戦は、有馬はしない。したとしても、それは最後の突撃の号令が基本。一度思いついて引っ込めるのは、大体私を使った無茶な指示だ。
「お前は本当に俺の心を読むのが上手いな」
「まあ、有馬の彼女だから」
「……摺鉢山の側面は、ほぼ崖だ。だからこそ、敵も側面を上ってくることは警戒していない。これは偵察機からの情報も含めた決断だ」
「なるほど、私がそこを昇って、一人で上から制圧して行けってことね」
無線機越しの有馬は黙ってしまう。
「本当は空挺を呼びたいんだが、流石に摺鉢山山頂に空挺降下は、地面が固すぎて危険だ」
「……大丈夫、任せといて」
「すまない、いつもお前に無茶させて」
「それが私の仕事だから、気にしてないよ」
石塚に今のやり取りを話し、私は摺鉢山の外へと出た。幸い、二層には砲撃用の穴があったので、そこから外に出る。
「摺鉢山の山頂まで、こっからだと90mぐらいかな?」
幸い、今日は機関銃をぶっ放していた為指が出るタイプのグローブはしている。これでかなり手の痛みは和らぐはずだ。
「さーて、行きますか」
ヘルメットを外し、足に付けていた防具も外し、気まぐれで機械歩兵の頭を弾け飛ばしたデザートイーグルもその場に置いて、kar一丁とナイフ一本だけの装備に変え、岩へと手を伸ばした。
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