第二五九話 『やまと』の秘密

 これで、敵艦隊とほぼ水平に並んだ。若干こちらが前に出ているため、前部に主砲がつく『やまと』では『ラハティ』を狙うことは出来なくなった。


 再開した第一射目は量産戦艦に命中、このまま順調に砲戦は進んでいくかと思った矢先の出来事だった。


「『ラハティ』発砲!」

「来るぞ!」


 沈黙を貫いていた『ラハティ』が砲声を上げた。

 迫真の飛翔音を響かせながら迫る41センチ砲弾。CICにもその勢いが伝わって来た。


「これは、くらうな」


 本能的にそう察した直後。艦が大きく揺れた。


「後部に被弾! 機関室に大震動!」


 ついてない。一発目から、直撃しやがった。


「火災は?」

「発生していないようです」


 まだなんとかなったか……。

 そんな風に安堵するのも束の間、第二射で状況は一変する。


「『ラハティ』発砲!」

「取り舵! 避けろ!」


 なんとか着弾をずらそうとするが、流石に初速マッハ1に迫る砲弾を避けるには一歩足りなかった。


「艦後部に再び直撃弾! 機関室へ損害発生!」


 モニターに、艦内の損害状況が映される。そこには、機関室が赤く点滅し、ヘリ甲板も赤く染まっている。


「艦内電力低下! 機関室からの電力供給停止! え、エンジンが活動を緊急停止しました!」

「何!?」


 この艦はエンジンから発生する電力で全ての動力を維持しているが、今の被弾でエンジンが動きを止めたため、電力に限界が見えてしまった。


「な、なんだこれ……」


 機関員が動揺しながら自身のモニターを見つめる。


「どうしましたか?」

「今モニターに出します!」


 損害状況を示す画面が切り替わると、機関に関する警告が映る。


「メルト……ダウン? まさか、この艦の機関は……」


 明野さんの顔が真っ青になっていく。それもそうだろう、画面に映った文字列。水素配合率、中性子線強度、放射線量、メルトダウン確率。これらは全て、核反応の時に見る文字たちだ。


「核反応機関を搭載しているのか……?」


 としたら、この艦は非核三原則に反していることになる。ヨミは秘匿艦として、一般人には目にすることが無かった、しかし『やまと』は違う。『やまと』は日本を代表をする象徴としての艦だ、それが非核三原則に反するなど、どうする気なのだろうか。


「って、核分裂を使った機関なら、放射能汚染の可能性が!」


 あまり詳しいことは分からないが、2011年に起こった原子力発電所の事故のようなことが、この艦でも起こるのではないかと、俺は警戒した。

 メーターを見る限り、放射能の数値は緑色に光っているため、恐らく案全値ではあるのだろう。発電所の事故の時は、メルトダウンが発生し、炉心が溶けたことが問題の発端となったと記憶している。


 そのため、メルトダウン確率と書かれた数値を見るが、そこには0が並んでおり、危険を訴えている様子はなかった。


「……メルトダウンの可能性が、0?」


 俺の頭は混乱する。核分裂で発電していたのなら、たしか制御棒を入れて核分裂を抑止しないと、熱が溜まってメルトダウンを起こしてしまうんじゃなかったのか? だが、エンジンに被害を受けた今、そのような処置を一切せずとも、メルトダウンの危険性がないとコンピューターは言っている。


「予備電源に切り替わります!」


 そう考えている間に、艦の電力が切れ、いくつかのモニターや機器がシャットダウンする。


「速力、12ノットに低下! 自動射撃、電力不足により不可能!」


 機関部から電力を得られなくなってしまったため、一気に『やまと』は戦闘力を失っていく。


「手動射撃にて砲撃を続行してください!」


 戦況自体は順調に進んでいるが、この艦だけはなかなか危機的な状況にある。

 『S2』の妨害がなかったため、砲戦自体は順調に進み、23時21分。敵主力艦隊は海の藻屑と消えた。『ラハティ』も撃沈し、第二次硫黄島沖海戦に完全勝利することができた。

 しかし海戦が終わるころ、『やまと』の予備電源も尽き、ついに艦全ての機能が停止した。だが、一切放射能の被害、というより核の負の面が出てきていない。

 とりあえず硫黄島へ戻るため、『長門』と『アリゾナ』に牽引を頼んだ。なんかデジャブってんなぁ。


「……もしかして」


 牽引されている間、脱力していたCICの乗員たちだったが、機関員がボソッと呟く。


「何かありましたか?」


 その声に、明野さんが反応した。


「この艦の機関は、核分裂じゃないのかもしれません」


 機関員の言葉に、俺と明野さんは首を捻る。


「しかし、モニターに映っていたのは、核反応に関する文字だったと思いますが……」


 明野さんの言葉に、機関員は頷く。


「核反応機関ではあるのだと思います、ただ、分裂じゃないだけです」


 俺は、はっと顔を上げる。


「まさか……核融合炉!?」


 静かに機関員は頷く。


「はい、その可能性が高いです。機関にダメージが入ると同時に制御が出来るのではなく発電が停止、メルトダウンが起こらない。これだけで、かなり説得力があります」

「貴方はどうしてそんなことが分かるんです? 自分は、あまりその辺のことに詳しくないから、いまいちよく分からないんですけど……」

「自分は、アメリカの原子力空母で研修を積んだ経験があります。その際、核反応機関について、色々と学んだのです。その際、未だ開発は出来ていないが、本当は核融合炉を搭載した艦をつくりたい、という話を聞いていました」


 それじゃあ、少なくともこの人は俺より核反応について知識がある訳だ。


「核融合炉は、まだ世界のどこも開発出来ていなかったはずです。だと言うのに、この艦は積んでいる、と言うのが少し引っ掛かりますが……」


 そうだ、問題はそこだ。もしこれが核融合炉だとしたら、世紀の大発明を行ったことになる。それを隠しているとはどうゆう訳か?


「帰ったら、あの人に聞いてみるか」


 もうそれ以外、俺たちにできることは無い。


「硫黄島より連絡が入ったようです。大坂山奪還、橋頭保確保、補給物資の供与完了とのこと」

「どうやら、向こうも向こうでうまく行ったみたいだな」


 今この艦で電気を使って動くものは一切使えないので、『長門』からの発行信号でその情報が伝わった。


「終わったなら、使ってもいいか」


 俺は腕時計を起動し、無線を空へと繋げる。


「あーあー聞こえる?」

「ああ聞こえてる、少々音質は悪いけどな。硫黄島攻撃お疲れ様」

「まね、しっかり橋頭保は確保したから、輸送物資さえ届けば、硫黄島完全奪還のための総攻撃ができるよ」

「なら、そっちで本土へ電報送って、輸送隊を呼んじゃってくれ。お前の都合で、現場の奴らを率いて攻撃を始めていいぞ」

「あれ? 有馬が指揮するんじゃないの?」

「いや、そのつもりだったんだが……『やまと』がちょっとまずい状態でな、指揮できるような状態じゃないんだ。生憎ヘリを飛ばすための甲板も死んでる。明日の昼までは合流できないと思ってくれ」

「ん~分かった。それまでは適当に攻勢拠点を作っておくね」

「ああ、よろしく頼む」

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