第二四七話 刺客
既に量産戦艦は全滅、『ピクシー』級1隻、『ユグドラシル級』1隻も撃沈、それ以外の名付き艦も甚大な被害を受けている。おそらくWASの中でも重要戦力級であるはずの『ラハティ級』ですら煙を上げ傾斜しながらも、陸上へ砲撃を続けている。
「まるで……何かを待っているような」
だが何を待つ? 海上なら『くろわし』『やまと』『あめ』のレーダーが周囲を見張り続け、応援が来ればすぐに対応できる。水中も『伊―403』がいるから同じだ。
第一、硫黄島周囲には敵がひそめるほどの島はない。
航空基地も、サイパン島まで戻らなければ大きなものは発見されていないが、そこも米海軍が破壊しつくして撤退したため、未だ復旧は間に合っていないはずだ。もし間に合っていれば、艦上機に加えて『Ⅴ33』の爆撃が日本本土、硫黄島を目指して飛んできているだろう。
「『Ⅴ33』よりも小さな滑走路で、硫黄島まで1155キロを往復できる機体……」
そんな機体、私は戦ったことがない。それに、その距離を余裕で往復できる対艦攻撃が可能なWASの機体は『V33』ぐらいしか思い浮かばない。
「短い滑走距離、長い飛行距離、対艦攻撃……」
自身の脳内のデータベースを隅から隅まで思い出し、WASの兵器たちを考える。こんな時、有馬さんなら一瞬で思い出してしまうのだろうなと、ふと考えてしまった。
「『くろわし』より緊急入電! 高高度より接近する機影発見!」
「機種は!?」
私の頭では思いつかなかったが、どうやら答えが自ら姿を現したようだ。
「現在、艦載機が確認中」
しばらくの沈黙の後、迎撃に向かった艦載機から電報が届いた。
「敵機、『S2ビショップ』12機! 及びその護衛機『トーネードーVX』12機!」
「『ビショップ』!? どうして、どうしてあの機体が!?」
私は、思わず席を立ってしまった。
『S2ビショップ』それは、WASとの全面戦争開戦初期に猛威を振るった、大型対艦攻撃機。『B1ランサー』を二回りほど小さくした機体で、搭載する物はただ一つ。『SSADクロウ投下型ミサイル』、国連は『艦隊殲滅ミサイル爆弾』と呼んでいる。
2028年に発生した大西洋大海戦にて初めて登場し、米艦隊に大打撃を与え、2029年に行われたオセアニア攻防戦では『ホーネット』旗艦の機動艦隊を潰滅させるに至った。その後も艦隊に大打撃を与え続けたが、2035年のホープ作戦から姿を見なくなっていた。
捕虜に尋ねると、『ビショップ』と『クロウ』は、機体とミサイルの作成が難しく、生産が需要に追い付かないため生産を停止したと言う発言を引き出していた。そのため、もう戦場に出てくることはないと思われていた。
「各艦へ通達! 対空戦闘用意! 『S2ビショップ』を最高脅威目標に設定!」
『ビショップ』はステルス機のため、かなり艦隊に接近しないと発見できない。『くろわし』の航空隊が迎撃しきれる保証はない。
『クロウ』がひとたび投下されれば、不規則に落下し、高度800を切ると再加速、甲板へと突き刺さる。重量物が落下するエネルギーとロケット推進が合わさり、質量ダメージとしても大きく、かつそのミサイルは通常の対艦ミサイルとは比にならないほど大きい。
ひとたび直撃すれば、通常の艦艇ではひとたまりもない。なんとか躱すことが出来たとしても、艦の近くで爆発すれば喫水線より下に甚大な被害が出る。
「『S2』、艦隊上空迫る!」
報告が上がる。
「全艦艇、対空戦闘始め! 主砲も敵機へ!」
「了解、全ての火器を敵機へ投射します!」
モニターに映る艦達も、敵艦から上空の『S2』へ標的を変える。
「敵機、直上! ミサイル投下! 本数7!」
「ミサイル迎撃開始! SM4発射!」
「SM4発射、ミサイルアウェイ」
「『やまと』『しなの』『まや』『ゆら』、同じくミサイルアウェイ、総数8」
一隻につき二本のミサイルを発射し、迎撃に当てる。ここで落とし切ればこれ幸いだが……。
「ダメです! 四本抜けてきます!」
クロウミサイルは、ミサイル自体にステルス塗料が塗られており、誘導ミサイルでの迎撃が難しい。
「あきらめないで! ミサイル迎撃第二弾、CLWS! 艦隊最大船速、取り舵一杯!」
「取り舵一杯! 最大船速!」
最後の抵抗として、二基のCLWSがうねりを上げる。少しでも命中率を下げるために、艦隊一斉回頭を始める。
「ミサイル着弾まで、3、2、1、来ます!」
「衝撃に備え!」
私がそう叫んだコンマ1秒、モニターの先に映る『ゆら』『しなの』の甲板へと、真っ黒な影が突き刺さった。刹那、爆発。『あめ』の艦体も大きく揺さぶられる。
「被害確認!」
「右舷喫水線下でミサイルが爆発! 三か所の亀裂が発生!」
クロウは『あめ』に直撃はしなかったものの、付近に落下し水中で爆発。喫水線下に打撃を与えた。
「亀裂より浸水! 機関室に影響あり、出しえる速力16ノット!」
「右舷火薬庫にも浸水! 右舷単装砲使用不能!」
「応急処置急いで!」
まだ海戦は終わっていない、正面にいるWASの艦達は、弱った今の我々を見て、勢いづいている。
「『ゆら』、通信途絶!」
「『しなの』、艦中央部に大穴! CIC、艦橋要員全滅!」
「『くろわし』より打電! 全艦艇の撤退を進言する。です!」
出来ることなら、私もそうしたい。しかし、向こうはやる気だ。それに、『あめ』は足をやられた、素早い撤収は不可能だ。
「全艦艇に通達、全艦この海域より離脱せよ」
「了解、各艦に撤退を通達します」
艦長席に座りながら、私は士官帽を脱いだ。
「……『あめ』は現海域に残り、殿をつとめます」
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