第二四六話 硫黄島沖海戦

5月20日


 karと共に敵がわんさかいる二層を突破し、横穴から外へ出た私は、夜になるのをまって行動を開始、闇夜にまぎれて移動し、今日の朝方、海岸防衛線の連中と合流することが出来た。

 私が合流するころには、海岸防衛線も最終ラインまで迫っており、もうじき高砂台に撤退する予定だったらしい。そのため、一旦私は海岸防衛線の手伝いをし、撤退と同時に自分も退くことにした。


5月22日


 海岸防衛線部隊は防衛の限界を迎え、遂に撤退を開始した。私もそれに追従し、その途中で摺鉢山の連隊とも合流できた。高砂台で防衛線を築いていたのは、元『ファントム』の連中だった。しかし、その顔は非常に深刻そうであった。


「……どうゆうこと?」


 私の視線の先には、空っぽの空間が広がっている。ここは本来、砲弾や銃弾、食料などが保存され、この高砂台の防衛線で使うはずだった。しかし私の前には、砲弾どころか小銃の弾薬すら、僅かしか残っていない。


「本部から輸送してくるトラックが全部やられちまったんだと。そのせいでここ高砂台は深刻な弾不足、食糧不足が発生してる」


 明らかに機嫌が悪そうなウルフ1がそう説明してくれる。


「ヘリ中隊もあったのに、燃料が届かないから今じゃただのお飾りだ。戦車たちも、いざって時のために温存して、滅多に動かせない」

「まさか、補給用のトラックが全滅って……どうしてそんなことになるの……」


 理解できない。確かに、敵が補給物資を運んでいる所を発見したら攻撃してくるのは分かるが、全滅させられるまで手を入れないのはどうゆう訳か?


「本部周りには、飛行場防衛とかのための、『89式』とか『93式』いたよね? どうして護衛を付けなかったの? それに、数は少ないけど『F15』と『疾風』だって……」

「あの指揮官、出し惜しみしやがったんだよ。本部周りを守るのに全力を注ぎ、補給路は自力でなんとかしろって」


 つくづく無能で呆れる奴だ。


「それで、こんな状況にと……」


 これでは、摺鉢山隊と海岸防衛隊が補給するだけの量はない。高砂台隊だけでも足りないと言うのに、まさか奪う訳にはいかない。


「正直、あの指揮官が指揮を執っているうちは、硫黄島は絶対落ちる。とても軍略を理解している様には見えない」


 ウルフ1はそう悪態をつく。その言葉に、私も全面的に賛成だった。


「なんとか、海自が来てくれるまで凌ぐしかないね」

「そうだな」


 私とウルフ1は、そう二人で無理やり納得し、来る日も来る日も、弾薬不足にあえぎながら防衛を行った。




 5月27日


 それも遂に、今日、限界を迎えていた。

 あれから5日間、よく耐えた方だと思う。弾薬不足は、撤退してきた隊が持ってきたものである程度は凌げたが、食糧不足が深刻化していた。一日一食に減らしたが、三日目で米はなくなり、一日一食ブロック栄養剤と水のみという環境に置かれた。

 私のように小食な人間は、多少の空腹感を常に感じる程度で済んだが、若い男性たちはそうもいかない。常に腹を空かせ、食事もブロック食と味気ない。食べれるだけありがたいのは確かだが、それでも士気の低下は明白だった。

 それに、25日から休むことなく高砂台には艦砲、ロケット砲の射撃が続き、安心して眠ることすらできなくなっていた。


 ウルフ1が撤退許可を本部に求めると、『本日海自の艦隊が敵艦隊を撃滅に来るから、それに合わせて反撃にでよ』と言われたらしい。


「……本当にこんな部隊状況で、反転攻勢出来るの?」

「正直微妙なところだな。だけど、これで西海岸が奪取できれば、海上から直接補給物資を受け取れる。それをみんなに話して、頑張るしかないだろうな」


 確かに、海岸まで出れればそうなる。しかし、それは大前提で、海自の艦隊が硫黄島を襲っているWASの艦隊を完全に打ち負かす必要がある。


「負けた時のことは、想定しているのかな、あの指揮官」

「どうだろうな、流石に艦隊の当てが無くなれば、撤退して補給し直すよう指示を出すんじゃないか? ここで4000人近く餓死させたら、それこそ悪手だろ」


 そうだと信じたい。摺鉢山は物資貯蓄が少し多く、確かに失うのは痛い場所だったから死守を命じただけであり、高砂台はそうではない。むしろここは島の中で突出した平地なため守りにくい。ここを死守する戦略的価値も低い、それぐらいはあの政治家でも分かるだろう。


「とまあ、話している内に、おいでなすったぞ」


 戦車の上に立ち、双眼鏡で海岸をみるウルフ1。私もそれに倣って、戦車の上に立つ。


「お願い、なんとか勝って……」


 この海戦に全てが委ねられる。硫黄島の命運を分ける一戦と言える海戦、硫黄島沖海戦が幕を開けた。





「全艦艇、全力を持って敵艦を打ち払え!」


 『あめ』の艦長席から、私はそう強く言いきる。これまでの艦艇に加え、量産駆逐艦たちと、『陸奥』を連れ、再びここへ勝負を挑みに来た。

 前回は、『やまと』が敵潜水艦からの雷撃を受けたことから、形勢が逆転し、艦隊保全のために撤退したが、今回はそうもいかない。硫黄島の危機的状況から、軍事作戦本部はここに決戦を挑むことを決定した。


 よって、たとえ何隻沈もうと、私は敵艦隊を撃滅する必要がある。


「『やまと』を全面的に支援、ミサイルは重装甲艦を、主砲は小型艦を狙え!」


 全体の指示を出し、モニター先に映る敵艦隊を睨む。


「前回と艦隊陣容は変わらない……」


 普通にやっていれば負けることはないだろう。今回はWSの『陸奥』もおり、敵量産戦艦は『陸奥』に殲滅を頼んでいる。艦隊を横帯陣に敷き、WASの艦隊を硫黄島に押しつぶすようにして前進し続ける。


「『娘』より打電! 敵潜水艦部隊は殲滅完了」


 前回『やまと』へ雷撃を敢行した潜水艦たちは、『伊―403』たちが排除した、これで、魚雷による急襲は考えなくてよくなった。


「よしよし、順調……」


 ここまでは予定通りだ。このまま一方的に殲滅できれば良かったのだが、どうもうまくはいかないようだった。


「敵弾来ます!」


 向うの射程に入ると、『あめ』の艦体が揺さぶれる。


「被害知らせ!」

「艦前部に二発被弾! 戦闘続行に支障なし!」

「撃ち方そのまま!」


 先頭を行く『やまと』と『あめ』は多くの敵砲弾を受け止める。しかし、さすがイージス戦艦を名乗るだけあって、重巡程度の主砲では、そうそう致命打は入らない。


「多少の火の粉は被るつもりで進め! この艦を艦隊の盾とする!」


 数分戦っている内に、敵戦力は大きく削られていた。


「VLS、対艦ミサイル残弾0です!」


 しかし、こちらの打つ手も減りつつある。VLSが若干少ない『やまと』や『あめ』は、対艦ミサイルは既に撃ち切ってしまった。


「どうして撤退しない……?」

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