間章 限界

 艦隊から爆音が聞こえた。明らかに、艦一隻が轟沈する時の爆音だ。

 それを証明するように、まだ数機残っていた敵機たちが身を翻していく。


「やったんだね、桜花。それに、加藤も高橋さんも……」


 無線機に呼びかけても、誰からも応答は得られない。


「ちゃんと……ちゃんと皆の意思は、継いでいくから。日本の未来に継いでいくから……」


 だから、どうか安らかに眠って。もう、目が覚めないように……。

 私はその場で一回転し、哀悼の意を示した後、空になりつつある燃料タンクを気にしながら基地へと帰った。



 17時09分。


「お帰り、零……」


 吹雪が、私の方へ向かって歩いて来る。


「ただいま、吹雪。艦隊は?」

「撤退してる。旗艦を失ったから、一度下がるんじゃないかな」

 

 どうやら、効果は間違いなかったようだ。


「ねえ零、他の皆は?」


 吹雪が、私の腕を掴んでそう尋ねる。


「皆、海へ還ったよ」


 何も隠すことも、躊躇うこともない。ただ私たち兵器の、なすべきことをしただけ。


「……ああ! うああああああ!」


 吹雪は、私の腕を掴んだままその場に崩れ落ちる。両目から大粒の涙をぼたぼたと零しながら、人目もはばからず。泣き声を上げる。


「吹雪、泣いちゃだめだよ。三人とも、自分のすべきことをしただけだもん」

「でも、でもぉ! それでも!」


 吹雪は泣き止んでくれない。私も膝をつき、吹雪の背中を摩る。


「よしよし……」


 吹雪は今日の出撃で、大切な部隊の仲間を失った。そこに立て続けであの三人を失ったのは、相当堪えたのかもしれない。


「やだぁ! 皆、死んじゃいやぁ!」

「ダメだよ吹雪、我がまま言っちゃ。これは戦争、戦争なんだよ……」


 吹雪だってまだ子供だ。この反応が、正常なのかもしれない。




 普天間基地は大きく戦力を失ったが、辛うじて基地機能は留めた。そのおかげで、本土防空の任は続けられている。しかし、肝心のパイロットたちの精神状態は日に日に悪化し、補給物資の搬入頻度も、どんどん悪くなってきた。


 もうそろそろ、ここも限界だ。そう感じていた5月28日のこと。硫黄島の空から、基地へ衛星電話がかかって来た。


 やけに凛々しい声で、空は受話器越しに言った。


「515を実行しよう、吹雪。私たちの指揮官を、取返しに行こう」

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