第二三七話 波状攻撃
11時23分
「敵艦隊をレーダーで捕捉、既に敵機は発艦している模様。『M0』『F3』、前へ出るぞ!」
尾田さんの声で、戦場は動き始めた。
『一式陸攻』は艦隊を押しつぶす波のように複縦陣を形成し、高度20メートル以下を突き進んでいく。その遥か後ろには、本命の攻撃隊である『F35』がゆっくりと艦隊までの距離を詰めていく。
『一式陸攻』の上空3000メートル地点には私たち『零戦』と『疾風』が構え、それを追い越して艦隊へと接近するのが、『M0』と『F3』。
「行くぞ! ジーク隊、エンゲージ」
「ウィザード隊、エンゲージ」
「ゴーレム、エンゲージ」
「アグレッサー、エンゲージ」
先行したジェット機たちが、交戦開始を叫ぶ。
正面の空域には、無数に飛び交う飛行機雲と火花が現れ始める。
「レシプロ機、向かう! 吹雪、頼んだ!」
「了解! 『零戦』『疾風』、ドロップ!」
私の号令で、一斉に増槽が海へと捨てられる。
「各個に迎撃始め! 『一式陸攻』に目を向けさせるな!」
今回のレシプロ戦闘機たちは、半数は人が乗っている。落ちる機体は見たくない。
「零! やるよ!」
「了解、本気で行くよ!」
二機の『零戦』、私と零がぐっと機首を上げ、向かってくる戦闘機たちへと立ち向かう。
敵機は『FAツインデーモン』欧州の空で確認された、『サタン級』空母の艦戦。それから『S型艦戦』機数は合計で70を超えているだろう。
大丈夫、十分やれる。
「まずは、1機!」
突っ込んでくる『FA』に対して、機体をねじ込むようにして回避。照準器に敵機の尾翼が映った一瞬に引き金を引く。すると、安定性を失った敵機はよろよろと機体がふらついた後、海面へと落ちて行った。
空域は大乱戦だ。今海面に落ちた機体が、敵機か味方機かも分からない。無線機からは絶えず援護を求める声が聞こえる。しかしもはやどの機体が援護を求めているのかすらわからない。
ただがむしゃらに、今この戦場を生き延びるために機体を捻り、機銃を撃ち込む。
「生き残れ! ただそれだけでいい! 何としても、生き残れ!」
私はことあるごとに無線機へそう叫び、味方機を鼓舞する。ここで私たちが踏ん張ることで、攻撃隊が肉薄でき、攻撃が成功に近づく。『リリス』だ、『リリス』さえ破壊できればいい。それだけできれば、この攻撃は辛勝と言える。
機体を捻る。まるで木の葉のように、風に煽られる葉っぱのように、機体を捻る。
「踏ん張れ! 踏ん張るんだ!」
ヘッドギアにガンの照準サークルが出る瞬間、躊躇いなく17ミリと20ミリ両方の引き金を引く。
「後方に敵機!」
「ウィザード2、ブレイク! ブレレイク!」
「ジーク4、敵機が後ろにいるぞ!」
「ゴーレム2、ミサイル!」
「誰か援護を! 後ろにいる奴をなんとかしてくれ!」
「ミサイルロック! fox2! fox2!」
「ダメだ! 尾翼が飛んだ! 落ちる!」
「ガンズガンズガンズ!」
無線機から聞こえる叫びは、俺の耳をいじめる。各機、自分の身を守ることで精一杯だ。既に3機落ちている。敵機は『Z4アネモイ』、名付きのジェットは伊達じゃない。
「ジーク1、尾田! 後方に敵機!」
俺の名前が呼ばれると同時、ミサイルロックの警報が聞こえる。
「当たるか!」
機体を大きく宙返りさせ、ミサイルの追尾を振り切ると、そのまま機首を落ち着かせ、羽下に付くミサイルを放つ。
「fox2!」
ミサイルは見事に敵機のエンジンへ突き刺さり、爆発する。
「クソ、結構落としたが、減った気がしねえ」
俺はレーダーの反応を見ながら、そう悪態をつく。
『M0』は機銃メインのため継戦能力が高いが、『F3』はそうではない。しかも、『F3』は攻撃隊の任も兼任させられているため、重い爆弾を抱えながら、少ない空対空ミサイルで戦っている。限界はそう遠くなく訪れる。
「ミサイル残弾0! クソ!」
ほら聞こえて来た。ついに『F3』たちの対空武装が機銃のみになってしまった。
「ゴーレム、ウィザード、無理するな。攻撃のタイミングまで生き残ってくれればいい!」
そう指示を出し、『F3』たちを追いかける敵機に狙いを定める。
「良い位置だ」
サークルが『Z4』のコックピットを捉えると、迷わず引き金を弾く。機首から細い火筒が、翼から太い火筒が撃ちだされ、『Z4』のコックピット周辺を無慈悲に貫く。一瞬のうちに、『Z4』は大きく爆発を起こした。
「『一式陸攻』、低空を通過!」
そうしている内にそんな報告が上がる。どうやら頃合いの用だ。
「ゴーレム、ウィザード! ようやく本番だ! 『一式陸攻』の雷撃に合わせろ!」
「ゴーレム了解、ここを頼むぞ!」
「ウィザード了解、良い報告を期待してろ!」
14機に減った『F3』たちが上手く『Z4』を切り抜け、この乱戦から抜け出す。それを追いかけようとする『Z4』には、20ミリが容赦なく突き刺さる。
「さあ! あとひと踏ん張りだ! 次は『F35』たちを待つぞ! 高橋さん! 頼みます!」
「「「「了解!」」」」
遂に敵機動艦隊が俺たちのことを発見した。超低空を進んだおかげで、どうやらこの距離まで本当に発見できなかったらしい。さっきまでジェットたちのいる方に向けられていた機銃や砲が、こちらを向き始めた。
艦隊陣容は、『リリス』『量産空母』『軽空母』『量産現代空母』を中心に置き。『ヘビー級戦艦』2隻、他巡洋艦、駆逐艦が数十隻、護衛艦も混じっている。巡洋艦の中には『ルビー級』も見える。
「今回はあくまで、敵に回避行動をとらせること、目を向けさせることが目的だからな……獲物を選ぶ余裕はない」
自分で確認するように、そう呟く。
「高橋さん! 頼みます!」
上空で乱戦を続ける戦闘機乗りの声が、無線機から聞こえて来る。
「ああ……若い奴を、死なせるわけにはいかないからなぁ!」
スロットルを全開、高度を15メートルまで下げる。ついに、手厚い対空弾幕の歓迎が始まった。通常の対空弾幕はまだ何とかなるが、護衛艦の撃つミサイルや速射砲、CLWSは的確に俺の僚機を墜としていく。
「まだ、まだダメだ」
目をかっぴらき正面から迫る機銃弾を睨む。俺に当たるな、味方にも当たるな。
じりじりと限界まで高度を下げる。ついに高度計は10メートルを切った。
1機、また1機と仲間が落ちていく。もう何機付いてきているかなんて、数えられない。
「クソったれの日本を救うためだ! 答えてくれ!」
敵艦隊との距離が800メートルを切った瞬間、魚雷の投下を行った。そのまま高度を上げず、尾翼のみで方向転換を始め、なんとか艦隊から離れようと努力する。その時、付いてきている僚機を見た。その数、12機。出撃時は30機いた僚機の、半数が没した。そしてその12機も、健全とは言い難い。
撤退する俺たちに、未だに攻撃を続ける敵艦隊、どうやら敵の意識は、十分逸らせたみたいだ。後は『F3』と『F35』が、やってくれる。
「やってくれ!」
俺の叫び声と同タイミングで、機体上部を爆音が潜り抜ける。かと思えば、敵艦隊へと、持ってきた爆弾を投げつけている。
俺たちに目がいっていた敵艦隊は、反応が僅かに遅れ、爆弾の投弾を許してしまった。いくつかの艦から、火柱が立ち上る。
「よし!」
艦隊の標的が『F3』へ移る。ここまで流れはほぼ完璧だ。
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