第二三八話 大損害

 無線機から事の流れは聞こえて来る。どうやら『一式陸攻』と『F3』の攻撃は成功し、タゲも上手く取れているようだ。今しがた数分前に『F35』が私たちの下を通過したから、魚雷の到達と、『F35』の攻撃地点への到着はドンピシャに重なる。まさに、時間に厳しい日本人らしい。


「お願い、上手くいって」


 レシプロ機の数は大きく減った、敵味方双方甚大な被害が出ている。これだけの命と資源を消費した以上、戦果を上げなくてはならない。


「敵艦隊、回避行動に移る!」


 尾田さんの声だ。


「ロンギヌス部隊、攻撃地点に到着、各機、槍を放て!」


 続いて、『F35』のリーダー機。

 乱戦の位置が敵艦隊によっていったため、ここからでも『F35』の姿を見ることが出来る。攻撃の第一波、『F35』が搭載する、子爆弾を振りまく巡行ミサイル。Joint Strike Missile、略称JSMが22本発射される。

 これで敵の防空兵器をひきつけ、良ければ破壊する。そして本命は……。


「第二弾攻撃、ロ号二九式対艦ミサイル、発射用意」


 『F35』のボムベイに搭載できる、小型高威力の空対艦ミサイル。それをぶち当てる。

 『F35』たちが再びボムベイを開いた瞬間、私たちが乱戦をしている空域に突っ込んでくる機体が現れる。


「早い! 吹雪、そっちに行った!」


 零の声に、頭を振って周囲を確認する。直後、真っ黒な影のような機体が、私の目の前を突き抜けて行った。


「あれは!」


 その機体は、真っすぐ『F35』へと向かっていく。


「ロンギヌス隊避けて!」


 私の声は一瞬遅かった。


「ロンギヌス2食らった!」

「攻撃中止! 攻撃中止! 散開!」


 しかし、限界まで速度を絞っていた『F35』たちは、すぐに高機動に移れない。


「ロンギヌス10被弾!」

「ロンギヌス4、食らった! ダメだ、機体が言うことを聞かない!」


 一瞬のうちに3機持っていかれた。


「敵はどこだ! レーダーには見えないぞ!」

「敵機は真下! 突き上げて来る!」


 私が慌てて位置関係を教えると、機体を捻り反転しようとする『F35』たち、しかし、一瞬の加速だけなら、あの機体はジェット機にすら勝る。


「ロンギヌス13応答しろ! 圭治!」

「ロンギヌス7が墜ちた!」


 ダメだ、味方の被害が止まらない。


「尾田さん! ロンギヌスたちが『鋼の翼』から攻撃を受けてる!」

「敵艦隊回避行動終了! クソ! 今度は俺たちの番か!」


 艦隊から離れて来る『M0』たち、しかしその機影の後ろには、ミサイルが追いかけてきている。おそらく艦隊から発射されたものだ。


「ロンギヌス1! ロンギヌス1が!」


 遂にロンギヌス隊のリーダーまでもが食われた。


「尾田さん! もう無理だよ! このままだと総崩れになる!」

「ここまで来て! 全機、全速力で離脱しろ! 撤退だ!」


 尾田さんはそう言いながら、鋼の翼へと接近し、ドッグファイトへ持ち込もうとする。尾田さんの『M0』には、欧州戦線でステルスレーダーが装備されている、『鋼の翼』の姿を追えるのだろう。


「早く行け! 殿は『M0』が務める!」


 味方はそれぞれの方法で敵機から逃れようと退いていく。しかし、それを敵機も見逃さない。一瞬でも編隊から落伍したり、機体操縦を誤れば、即座に食われる。


「最悪、最悪、最悪!」


 私は涙すら流していた。もう何もかも滅茶苦茶、こんなの、日本が最初に目指していた戦い方じゃなければ、理想としたものですらない。


「吹雪! 後ろから『Z4』!」


 零の悲鳴に近い叫び、はっと振り向くと、『M0』の追撃を振り切って肉薄してきた『Z4アネモイ』が、私に機首を向けている。


 ダメだ、死ぬ。


「整備長!」

 

 死を覚悟した瞬間、凄い勢いで影が迫る。直後、『Z4』と私の間に『M0』の機影が挟まった。パーソナルマークはマンボウ、三橋の機体だった。


「三橋!」


 『Z4』のバルカンがうねりを上げて機銃を発射し、その全てを『M0』が受け止めた。三橋の機体は、そのまま急反転し、『Z4』へと機銃を叩きこむ。


「三橋! 大丈夫なの!?」


 必死に呼びかける。三橋の機体は、エンジンから火が消え、翼から煙を吐き出している。


「よかった……生きてますね、整備長」

「生きてる! 三橋のおかげで生きてる! いいから早く高度を取って! そのままだと落ちちるよ!」


 無線機先で、ため息が聞こえる。


「もう推力がない、機体が持ち上がらない」

「ならベイルアウトを!」


 しかし、そう叫んで思い出した。今の三橋の機体は、ベイルアウトの機能が故障していることを。


「どうして、どうして出撃したの!?」

「へへ、整備長は危なっかしいですからね、こんな空じゃあ、護衛機も必要でしょう?」


 三橋の機体は、どんどん海面に近づいていく。


「心配しなくても、吹雪隊にはまだ増山がいる。レシプロなら他の奴らもエース級です。心配しなくて……いいです―――」

「三橋!」


 無線はそこで途切れた。


「……『M0』、ブリザード3、ロスト」


 近くを飛んでいた『F3』から、そう報告が上がる。

 私はもう、何も言うことが出来なかった。




 基地へ着いて、機数の確認が行われた。

 帰って来たのは、『一式陸攻』5機『F3』8機『F35』11機『零戦』21機『疾風』7機『M0』8機『F15』7機の計67機。

 出撃した機体の、半分にも満たなかった。

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