第三二話 次の戦場へ

「こちらドッグ、敵機視認、数四」


 そう俺は、二番機と通信室に通信を入れる。


「こちらキャット、こちらも敵機視認」

「オーナー了解、44号13ミリ機銃と、21号20ミリ機銃の射撃を許可する」


 そんな二つの声が聞こえ、通信室からの通信が切られる。


「キャット、右の二機を頼む、俺は左をやる」

「キャット了解、機体に傷をつけないようにな」

「分かってる、折角の最新機だ、丁重に扱わせてもらうよ」


 そう言って俺は操縦桿を左に倒し、正面のスイッチを押して機銃のロックを解除する。


「さて、『Ⅿ0』の初陣だ、盛大に行かせてもらおう」


 俺は誰が返すわけでもないが言葉を零し、速度を上げる。

 それに反応して、敵機はこちらに照準を合わせようと向かってくる、俺は目いっぱい操縦桿を引き寄せ、急上昇に入る。


「よし、乗って来たな」


 俺の動きに合わせ、敵も急上昇の姿勢を示す。

 今度は操縦桿を目いっぱい奥に倒し込み、同時にエンジンを急停止させ、勢いのまま尾が空をむいた瞬間、エンジンを全力起動する。


 意外な行動に驚いたのか敵機は翻し、急降下による離脱を図ろうとする。

 だが、それより一瞬早く俺は、13ミリ機銃のトリガーを引く。

 そうすると、小さな高速弾が敵機の羽に突き刺さり、ジュラルミンの破片と火花を飛ばす。

 それを確認した俺は、素早くもう一つのトリガーを引き、20ミリ弾の機銃を発射する。


「撃墜確認、さすが21号機銃、破壊力が段違いだ」


 敵は空中で機体を分解され、火の粉となって海に散らばっていった。


「おっと、そう言えばもう一機いたな」

 

 俺は、敵にロックされた警報を耳にして後方を振り返る、その瞬間、敵機の胴体下から細長い空対空ミサイルが発射された。


「そんなものが当たるとでも?」


 俺はエンジン質力を上げながらチャコフレアを展開する、高速で飛翔するミサイルは、照準を機体からフレアに移し、空中で爆発する。


「今度は機銃か、ミサイルが外れても、あきらめない姿勢は認めてやろう」


 後から飛翔する機銃弾を旋回で躱す。

 その後も、俺は後ろに食いついた敵機を振り切るため、旋回を繰り返す。


「『零戦』譲りの旋回性に、ついてこれるジェット機は存在しないのさ!」


 俺は左旋回をする途中で、機体を翻し降下。

 そして、機体を右に倒すことによって速度を減殺、そこを追い越した敵機に向かって、今度は上昇しながら機体を水平に戻し、背後に着いた。


「お疲れさん」


 そう言って俺は、13ミリと20ミリ両方の機銃を両翼、機首から発射した。

 撃ちだされた弾丸は逸れることなく正面を飛ぶ敵機に殺到し、一瞬で鉄屑に変えた。


「こちらドッグ、戦闘終了」

「こちらキャット、こちらも今終わった」


 どうやら相方も終わったらしい。


「状況終了、基地に帰投する」

 



「敵ジェット機、全滅……」


 俺は連絡管で下の艦橋に連絡した。

 それと同時に、二機の新型機は身を翻した、ジェット機の戦いは新型機の圧勝だった。


「分かった、そろそろ敵の攻撃部隊がこちらに着く、下に戻ってこい」


 そう艦長が言ったので、俺は艦橋につながる階段を降り、元居た場所に立つ。


「敵機、左60度、その数約20!」


 戦闘機の迎撃で半数以上減らせたが、いくらか逃したか……。


「主砲三式弾、砲撃始め!」


 その声で主砲塔が動き、ビーと警告音を鳴らすと、空中に散発する三式弾を打ち上げた。

 続いて、左弦の高角砲が砲撃を始める。


 この数ならすぐに片付けられるはずだが、今は艦隊で陣形を組んでいるため、下手に回避運動を行えない、できるだけ近づけないようにしなくては。


「艦攻接近!」


 言ってるそばから……。

 大きく膨らんだ胴体は、米軍の『TBFアベンジャー』を連想させるが、『TBF』とは違い、魚雷を格納せず腹に吊るしている。


「機銃群は雷撃機を集中砲火! 魚雷を投下させるな!」


 敵機のほとんどは『大和』の対空砲火で抑えているため、輸送船に被害がまだ出ていない。

 実際それに関してはありがたい限りだ、『大和』はまだ修復ができるが、輸送船の荷物が燃えては修復できない。


「艦攻撃退!」


 よし、これで魚雷の脅威は去った。

 俺は息を吐きだし一安心すると再び報告が上がる。


「敵機急降下!」


 一難去ってまた一難だな……。


「高角砲最大仰角!」


 そう指示すると、両弦の高角砲が一気に最大仰角まで上がり、急降下してくる敵機めがけて砲弾を何発も撃ち込むが躱され、敵機が機体を起こす。


「敵、爆弾投下!」


 その声と同時に、数発の爆弾が甲高い音を立てて落下してくる。

 四発落とされ、三発は大きな水柱を立てるが、一発が第一主砲塔に命中した。

 しかし、隣に立つ大和は余裕そうだ、それに第一砲塔の上には機銃がないので、人的被害もない、損害は0と言っていいだろう。


「味方護衛艦被弾!」


 後方を守る護衛艦の側面が焦げている。

 しかし動きが止まっていないところから、掠っただけの用だ、気にせず対空戦闘を続ける。


「どうもやる気のない攻撃だな」


 凌空長官がつぶやく、それに便乗して三浦長官も首をひねる。


「確かになぁ、輸送艦船を沈めるにしても、『大和』に被害を与えるにしても、さっきから命中弾はでとらん、艦攻も被弾したら、簡単に魚雷を投棄して逃げちょる、戦う気あるんか?」


 今の大和は手負いだ、ハワイ近くで受けた傷を完治していない、数本の魚雷が当たれば、それなりにダメージが入るというのに……。

 ちゃんと爆弾を投下したとしても狙いは甘く、ほとんどが当たらない、魚雷に関しては一本も当たっていない。


「敵機、離れていきます」


 レーダーで状況を見ていた電探室から、声が聞える。

 ……終わりか……本当に何だったんだ?


「敵は、ジェット機で攻撃するつもりだったのかもな」


 艦長がそう漏らす。


「レシプロ機は止め役で、ジェット機の対艦攻撃でダメージを与え、弱ったところを狙うつもりだった、しかしそのジェット機が全く艦隊にダメージを与えられずに先に落とされてしまったから、目的を見失ったのかもしれないな」


 確かに敵機は、空対空のミサイル以外に対艦ミサイルらしきものを積んでいた機体もいた。


「じゃあ、新型機を援護に送ってくれた自衛隊に感謝ですね」

「そうだな……しかしなぜ、自衛隊はわざわざ新型機を出したのだろうか?」


 言われてみれば疑問だ、スクランブルで急遽飛び立つというなら、いつも滑走路で待機している『F15』や『F35』かと思っていたが。


「新型機の演習かなにかと、タイミングが重なったのかもしれませんね」


 演習で使うから滑走路で準備をしていたら、スクランブル発進を行うことになった、だからそのまま滑走路に居た新型機を出撃させた、あり得なくもない話だ。

 

「ともかく、陣形を直して先へ進もう」 


 艦長がそう言ったのに対して、皆頷いた。

 艦隊の陣形を整え直し、俺達は再びパプア港へと航路を向けた。


 ―――次の戦場を目指して……。




現在、8月29日、18時12分。


 呉を出港した『大和』以下九隻は、豊後水道を抜ける。

 陣形を第三警戒序列(輪形陣)に変更、ジェット機率いる敵航空編隊と接敵するも自衛隊と協力し被害を回避、損害軽微で切り抜けることに成功。

 今後も、島の近くを航行し、万が一ジェットに狙われても、ジェット機の応援が来やすいよう移動することを決定。


 速力23ノット、陣形変更の予定はなし


 パプア軍港到着予定日時、9月3日07時08分。

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