第二四話 英霊を抱えて

「零、大丈夫か?」


 俺は倒れている零に駆け寄り、抱き起す。


「うう、大丈夫です、それより皆を……」


 零は立ち上がり、スモークが晴れるとpcを開く。


「たしか、緊急用のファイルが……いくら急な空襲でも、いくつかは避難させられているはず」

 

 そう言ってpc内部のWSのフォルダを漁る。

 カチッとクリックする音とビーと言うエラー音が響き、その音を数回繰り返すと零は。


「……あった!」


 歓喜に満ちた声で叫んだ。

 零が画面に表示して、キューブをボックスから取り出す、画面に表示されている文は三行、戦艦『扶桑』空母『瑞鶴』……。


「戦艦『三笠』!」


 前弩級戦艦『三笠』、かの日露戦争、日本海海戦で旗艦を務め、連合艦隊の栄光を築いた艦だ。

 まさかこの艦のWSも作っていたなんて……だが、正直戦力になれるのか心配だ。


「いったん大和に帰りましょう」


 零は俺の裾を引っ張り、言う。


「ああそうだな、状況の説明、これも渡さないと……」


 俺と零は研究所を後にした、帰りはゆっくりと歩いて戻った。


「そう言えば零、『鋼ノ翼』のステルスについて教えてくれないか?」


 『二式水戦』に乗り込んだ俺は、離水し上空へ上がった後、一定の高度まで上がり、操縦桿を水平に保ちながら零に聞く。


「『鋼ノ翼』には電波の周波を反射して、誤作動を起こさせる装甲金属を使っています、そこまではいいですね?」


 俺は頷く。

 それのおかげで『鋼ノ翼』はステルス性を持っていることは理解した。


「そして、味方に及ぼす影響なんですが、装甲の反射は表面を射光版のようにし、乱反射を引き起こします。それを利用してレーダーに移らないようにするんですけど、『鋼ノ翼』から反射された電波を周りの機体が受けると、通常の電波反射が行われず、周波数にズレが生じます、よって周囲の機体もレーダーの索敵から外れます。音響や目視索敵に引っかからなかったのは慢心のせいなのか、たまたま薄いところを抜いてきたのかわかりませんが……」


 ため息をついて、零が言う。


「ちなみに敵でも有効です、こっちの機体が『鋼ノ翼』の近くを飛行すれば、レーダーには映らなくなります」


 それを聞いて俺は目まいがする。


「何ちゅう機体を考えてくれてんだ中国は……いや、ソ連か?」


 俺はそんなことをぼやきながら大和に向かう、三人の英雄の記憶を大切に抱えて。





「持ち帰ったキューブは今、会議室で保管中だ、きちんと警備に兵を二人と、一様零に見張ってもらうことにした」


 艦橋に艦長の声が聞こえ、入り口に居る艦長に向かって全員が敬礼をする。




 現在、8月27日、13時03分、大和率いる連合艦隊は速力20ノットで南西へと航路をとり、広島県にある呉海軍軍港に向かっている。


 軍港はひどい有様で、人的被害はもちろん、研究所、滑走路、ドッグ、通信室など、ほとんどの設備が破壊され、到底艦隊を収容することなどできなくなっていた。


 その為横須賀の軍港に向かったが、『大和』や空母を格納できるほど大きなドッグがないとのことで、量産艦や輸送艦たちを預け、日本で一番大きな軍港がある呉に向かっている。


 呉は、『大和』をはじめとした、多くの連合艦隊の艦が作られた場所であり、今もその時の設備や技術を生かし、大規模な海軍工廠と港がある。

 だが、運用する際に瀬戸内海を抜けるのが面倒だということで、東京にも近い、横須賀に連合艦隊の本拠地を立てている最中だ。

 そこが完成したら、呉にはあまり行かなくなるかもしれないと思っていたが、どうやらそうゆう事ではないらしい。

 設備は整えるが、建造や改装を行うのはやはり呉の方が最適ということで、横須賀は司令本部と待機場、呉は建造と大規模ドッグの役割を果たすようになるらしい、詳しい話はまだ分からないが。


「ここからあと十時間ほどで呉だ、それまでは皆頑張ってくれ」


 そう言って艦長は自分の席へと着く。


「そうだ有馬、お前さん防空指揮所で警戒しといてくれねぇか? 中国の戦闘機が飛んで来たらすぐわかるように見張っておいて欲しいんだ」


 三浦長官がそう言うので、俺は艦橋内から通じる階段を上り、防空指揮所へと上がる。

 そこにはいつも通り、大和が座っていた。


「お前いつもここに居るな」


 そう言うと大和はこちらに気付き、微笑む。


「うん、だってここ見晴らしいいじゃん」


 そりゃあ『大和』で一番高いところだからな。


「そう言えば大和、よかったな」


 俺がそう言うと大和は首をかしげる。


「何が?」

「呉に行けることだよ、約束の中に入っていただろ? 呉に帰るって」


 大和は目を大きく見開き俺に飛びつく。


「うわ⁉ お、お前危ないだろ⁉」


 俺は落ちないように体を支え、大和を体から下ろす。


「よく覚えてくれてたね!」


 なんだ、そんなことに驚いていたのか。


「当たり前だろ、大切な相棒の約束事だ、忘れる訳ないじゃないか」


 そう言うと大和は、にこにこと上機嫌な口調で言う。


「それでも嬉しいの、覚えていてくれてありがとう、有馬」


 猫みたいに大和は頭をこちらに擦り付ける、俺はそんな大和の頭を優しく撫でていた、連絡管の栓が開いていることも気付かずに。




「いや~若いっていいねぇ」


 私はそんなことをぼやく、さっきから連絡管を通して聞こえてくる、カルピスの原液に、ガムシロップぶち込んだぐらい甘い会話に耳を傾けながら。


「ははは、良いじゃないですか、子を見守る親の感覚で、艦長には息子さんいるでしょう?」


 副艦長の浅間君が言う、私は確かに五十八で、息子は成人した立派な爺だが、青春の心はいつまでたっても色褪せないのだ。


「にしても、やはり姿が見えると言うのはどういうもんなんですかね?」


 凌空君が細い目をさらに細めて首をひねる、確かに私も気になっている。


「有馬が言うには皆それぞれのWSの記憶やイメージを人間にした姿をしてるちゅう話やな」


 航海長の三浦君までもが考えながら話す。


「私たちが考えても仕方ないことだろう、そこは本土の研究員に任せようではないか」


 そう言うと全員が納得し、それぞれの場所に戻る、呉に入港したらしばらく休息が取れるはずだ、そこで休んだら、また仕事だな。


「大和は一体どんな姿をしているのか、かわいい子だと良いんだがなぁ」

「奥さんに電話しましょうか?」

「それだけはやめてくれ」


 そのやり取りを副艦長とすると、艦橋にどっと笑いが起きたのだった。



千葉太平洋軍港空襲

被害状況 駐屯機

『零式艦上戦闘機二一、五二型』43機破損、12機健在

『一式陸上攻撃機一一型』14機破損、29機健在

『F―15Jイーグルジェット戦闘機』4機破損、2機健在

『F35Bステルス戦闘機』5機破損、9機健在

『Ⅽ―2輸送機』3機破損、0機健在 『Ⅽ―1輸送機』6機破損、2機健在

『E―767早期警戒機』0機破損、1機健在

『RQー4グローバルホーク』2機破損、0機健在

その他

航空滑走路1~4番中、1、2、3番破壊、離着陸不能、埋め立てによる修復可能。

警戒レーダー施設、1~10番中、2番以外全損、使用不能、復旧の見込み無し。

ドッグ、工廠、1~8番中、7、8番ドッグ破壊、復旧の見込み無し。

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