第二五話 呉に帰る
俺は防空指揮所でくだらない会話をしながら呉に着くのを待っていたのだが、予定より2時間早い22時に着いた。
理由は不明、航海長が言うには、気象的には偶然。
機関室の吹雪が言うには、調子が良かったらしい。
「うーん、久しぶり! 懐かしいなぁ」
現在、8月27日、22時08分、連合艦隊呉に到着。
俺たちは荷下ろしを始めていた。
「今日はいったん別れようか」
大和はキューブを外さない限り、本体から一定距離離れると姿を保っていられないらしいので、俺は大和に別れを告げて『大和』を降りた。
月明かりと工廠や倉庫から漏れる明かりで、辺りはそれなりに明るかった、そんな道をしばし進むと宿舎にたどり着いた。
かなり和風な感じで作られていて、宿舎と言うより旅館に近い。
「すごいなここ」
俺は用意された部屋に入る。
他の人は三人や二人で部屋に入るが、俺は長官扱いなので、少し広めな一人部屋をくれた。
……いや、かなり広いな。
「一人で寝るにはもったいないぐらいだろ」
俺が振り返るとそこには航大が、寝巻用の和服で立っていた。
支給された部屋着だ。
「だから私たちもお邪魔させてもらうよ」
航大の後ろから、空がひょっこりと顔を出す。
「ちょっと、私達も忘れないでよね」
さらに、その後ろに吹雪と圭もいる。
「なんだ? お前ら、そろいもそろって」
俺が聞くと、圭が部屋に上がり言う。
「全員でこれから集まることは少なくなるだろうからって、航大さんが」
俺が航大の方を向くと、航大はいたずらっぽく笑った。
「まあな、今日ぐらい、348部隊全員で寝るのもいいだろ? 班長」
「……はぁ……分かったよ、入るといいさ」
俺のその言葉を聞くと、一斉に部屋の中に飛び込んできた。
「ほんとに広いな、流石長官殿だぜ」
そう航大は、座布団に腰掛け呟く。
その隣で圭は、せっせとお茶の準備をしている、どうやらこの部屋には、湯沸かし器、湯飲み、茶葉、全て揃っていたみたいだ。
一方女子たちはテレビを陣取り、ゲラゲラと笑いながらバラエティー番組を見ている、艦の中にテレビは食堂以外ないから、ゆっくり見れるのが嬉しいんだろ。
「お茶できましたよ」
そう言って圭は、コトンと湯飲みを机に置き、座布団に座る。
「ありがとな」
そう言って俺は茶を啜る。
現在、22時40分、俺たちからするとまだまだ寝るには早い。
というか、今の海軍は基本時間に緩い、夜に作戦行動をする場合なども多々あるから夜眠くなる習慣が薄い、人によって眠くなるタイミングがバラバラなのだ。
「とりあえず二人も座れよ」
俺はそう言って、テレビの前に座る二人を座布団に座らせる、折角圭が入れてくれた茶が冷めてしまう。
「にしても、うちの部隊はどうしてこうも巻き込まれ体質なんだろうねぇ」
そう空が零す。
それを聞いた吹雪は笑いながら答える。
「私達、じゃなくて有馬が、巻き込まれ体質なんじゃないの?」
それに航大と圭がうなずく。
「そうだな、訓練の時も長野の時も練習艦に乗ってた時も、さらにWSの件も、始まりは勇儀の言動がきっかけだからな」
そんなことないと思うのだが……その場その場で、最適だと思う判断を下しているだけだ。
「ほんとですよ、長野の件に関しては、僕もう死ぬのかと思いましたよ?」
そう圭は苦笑する。
まあ実際、あの時の圭は14歳で、実弾訓練はしていなかったから怖がるのも無理はない、だが実際には心配無用でガンガン仕事してた気がするのだが……。
『ニュースのお時間です』
いつの間にか、テレビはバラエティーが終わり、ニュースになっていた。
『今日の朝九時ごろ、千葉県の軍港が、空襲を受けました。どうやら空襲を行った飛行機は中国製のものらしく、日本海側から侵入してきたと見られており、自衛隊の防衛姿勢に不備があったのではないかと、疑問がぶつけられました』
そんなニュースが流れた。
俺たちは一度黙り、そのニュースに耳を傾け、流れる映像を見つめた、あの後政府と防衛相が、記者会見で詳しく話したようだ。
『今回の領空侵入および空襲の件ですが、万が一市街地に爆弾が落とされていたら、どう責任を取るつもりだったのでしょうか? これは、自衛隊の防衛に不備があったという事で間違いないですか?』
記者はそう突きつけるように問いただすが、表情一つ変えずに防衛大臣の小堀さんは言う。
『自衛隊事態に、不備はございません、敵の機体が、初見のものだったため、対応が不可能だったのです、次回からは、同じ敵機が侵入することはございません』
その一言で、周りの記者たちがどよめき、画面越しの俺たちは苦笑い。
『どうゆう事ですか⁉ 自衛隊に責任はないと逃げるおつもりですか⁉』
そう記者が問いただす。
「まあ、ちょっと言い訳がきついな」
「ここで引くと、記者のいいように言われるからな、多少は抗っておかないと」
俺と航大はそうやって苦笑い。
今回空襲を防げなかった理由は主に二つある。
一つは鋼ノ翼によるステルス行為、そしてもう一つは、爆撃機たちの超高高度飛行。
レーダーには鋼ノ翼で何とかし、高度15000m近くを飛行することで目視などでも見にくくする、そういう飛び方で空襲を行ったのだ。
『いいですか! 自衛隊の防衛の不備で、民間人に死者が出たらどうするつもりなのかと聞いているのです⁉ 今回日本の市街地上空を、敵の飛行機が通ったのですよ⁉』
記者が苛立って怒鳴る、それを聞いて周りの記者も。
『空襲の避難訓練も、防衛できないと知っているから行わせているんじゃないですか?』
『民間人への補償は? 万一空襲を受けた場合どうするんですか?』
それを聞いて小堀さんは冷たく一言言い放った。
『ちょっと黙ってもらえるか』
その一言に、並々ならぬ覇気を感じ、記者たちが一斉に押し黙る。
『いいですか、私達は今戦争をしているんです、家が壊された、生活に困る、それなら最低限補償金を出すと言っているでしょう? それで我慢していただきたい、それ以上を国に求めるなら、防衛費を跳ね上げさせたほうが早いのですが?』
あーあ、ここまで来たら、明日はネットで防衛大臣叩かれるだろうな。
ちなみに、今の日本の防衛費はGDPの5%となっていて、これでもいまだに高すぎると批判が飛び交っている。
大きい声では言えないが、日本は2030年代から戦争特需で経済が緩やかに成長していたため、ほかの資金を大きく減らすことはなく、防衛費を5%まで上げることができた。
それでも、足りない物は足りないが。
『な、そんな投げやりに! それでも日本を守る立場の人間ですか⁉ それに防衛費を上げるなんて、やっぱり国は戦争をしたがっているんじゃないか! 敵機が上空に入ったのも、自衛官個人の力不足が原因なんだろ! 金の力に頼るな!』
そう記者が怒る、しかし大臣はその言葉に大臣は大きくため息をつく。
『ほらこれだよ、被害が出ないように防衛費を上げようと話をすると、戦争をしたがっていると言われ、上空を敵機が飛ぶと自衛隊の力不足を叫ばれる』
『そんな戯言に甘えるな! 言い訳が通用すると思ったら大間違いだぞ!』
そう別の記者が怒鳴るが、大臣もマイクをどかし、怒鳴りだした。
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