第二三話 初邂逅
「『二式水上戦闘機』発艦します!」
零がそう叫ぶと、機体の下で小規模な爆発が起こり、勢いよく『二式水戦』を射出する。
その力で一気に上昇し、飛行姿勢をとる。
「有馬さん、どこに降りるんですか?」
零の声が聞こえる。
「俺たちの確認する場所はWSの研究所だ。あそこはどんな兵器でも実験できるように、岩場から水流装置まで周りに在る、水上機が離着水できるぐらいの池はあるはずだ」
俺は爆撃で穴が開き、建物が崩れた基地を眺めながら研究所を探す、これを修復するのに、時間と金は一体いくらかかるのか……。
「と言うか、ここの防空設備ってこんなに弱かったかな?」
日本には自衛隊の二重レーダー警戒網と哨戒機が存在し、早期警戒機が回っている。
それらで不審機を発見した後、迎撃用に防空用の地対空ミサイルからスクランブル用のジェット機だって完備している、これを簡単に突破できるとは思えないのだがなぁ。
「そこで『鋼ノ翼』が護衛についたのでしょう」
俺の頭には「?」がたくさん浮かぶ。
「そういえば言ってませんでしたね」
零は着陸フラップを展開し着水の姿勢をとる。
「『鋼ノ翼』は周りに航空機がいると、フレーム反射で航空機を隠すこともできるんですよ」
その一声で足が水に着くと、柔らかい反動が返り水を切りながら陸に近づく。
陸ぎりぎりまで近づき機体が止まると、俺はコックピットの風防を開ける。
「その話、あとで詳しく教えてくれ」
俺と零は研究所に走る。
特に理由はないがどうも落ち着かない、急がないといけないような感覚があったのだ。
「ん? 見慣れない航空機が……ってあれは⁉」
零もその姿を見て言う。
「なんでここに『鋼ノ翼』が……」
近づこうとすると、その機体から二人の人が降りる。
とっさに俺たちは伏せて二人の様子を窺う、一人は研究所の中へ入り、一人は機体に残って飛び立って行った。
「追いかけるぞ」
零は頷き研究所に入る。
扉を開けると、崩れた研究所の内部が広がった。
「派手にやられたな」
俺と零は、互いに別れて探索することにした。
「零、これを」
俺は腰に入っている『9㎜拳銃』を渡す。
「なにかあったらそれで撃て、音が聞こえたらそっちに向かう」
零は渡された『9㎜拳銃』をデッコクする。
「有馬さんの方こそ大丈夫なんですか? 私は別に、この体にダメージが入っても死にませんけど、あなたは……」
零は心配そうに聞く。
「大丈夫だ、それは武器としてより、俺を呼ぶ信号弾だと思ってくれ」
零は少し考えたが頷き、走り出した。
「さて、俺も探索を始めよう」
研究所に入っていった人影と何が残っているのかを探すため、俺は探索を始めた。
「どこもかしこも滅茶苦茶だな」
爆撃で崩れたのであろう、瓦礫で研究所の内部は見る影もなくなっていた。
「お、拾っておくか」
俺は落ちていた誰かの『9㎜拳銃』を拾う。
「まだ使えるな」
マガジンを確認し、動作を確認する。
「問題無しと」
俺は銃をポーチにしまい、探索を続けること数分、一際大きい部屋に入った。
「ここは……」
その部屋は横に広く、大きな画面が正面についている、その画面には……。
「やられたか……」
そこには、赤文字で破損や破壊、黄色で消失と書かれた文字の羅列。
『金剛』破壊 『伊勢』破壊 『瑞鳳』破壊 『古鷹』破損 『最上』破壊…… 『時雨』健在 …………『九七式中戦車』健在 ……『五式中戦車』破損 ……
『長十二糎自走砲』破壊 ……『鍾馗』破壊 ……『烈風』健在 ………………
『疾風』破損 ……『彗星』破損 ……『紀伊』消失 『***』消失
最後の一隻は、名前がバグってしまい、読めなくなっている。
「ここまでやられたか……」
完成する前のWSがほとんど壊されてしまった、これで桜日国軍の戦力が大きく減ったことになる、それはもちろん痛手だが……。
「畜生……申し訳ない、本当に申し訳ない」
せっかく過去の大戦から目覚めたのに、復帰する前に壊されてしまった英霊たちに、俺は心から謝った。
俺は、他に何か残っていないか確認するため、一つだけ稼働していたpcを開こうとすると。
「だ~れだ」
俺の両目を黒い手袋が隠した。
「おっと、動いちゃダ~メ」
俺は反射的にポーチの銃を抜こうとすると、そっと金属の腕が俺の右手首を握り、動きを固定する。
……え? 金属の腕?
「あなた、その年で長官やってるのよね? なかなか筋がいいわぁ、是非とも私たちのほうで司令官をやってくれないかしら?」
俺は何とか振りほどこうともがくが、なかなかに強い力で振りほどけない。
「嫌かしら? こっちなら仕事さえしてくれればなんでも言うことを聞いてあげるわよ~? な、ん、で、も、ね?」
そう言って片方の手を目から、俺の体に滑らせる。
それと同時に、零が部屋に入って、俺の名を叫びながら銃を構える。
「有馬さんから離れなさい!」
それに反応して、俺を拘束した人物の力が抜ける、俺はその一瞬で拘束を解き銃を構える。
「あら怖い」
真っ黒い士官服で一部一部に銀色の装飾がされている、足はズボンではなくスカートの軍服ワンピーススタイルだ。
手には真っ黒い手袋、足には膝を超えるあたりまで伸ばした黒いタイツ、頭にはベレー帽に似た帽子で少し膨らんでいる、これもまた黒だ。
そして、胸元に着くのは、ボルトにネジが二本クロスした紋章、間違いなくWAS上級士官の証拠だ。
「お前、幹部か」
俺が聞くと、その士官は帽子を外す。
そうすると、帽子に隠れていた美しい金髪が露わになる。
癖がない金髪は腰まで延び、目の色はスカイブルー。
日本人ではないようだ。
「そうね、あなたの考えた通り私はWASの幹部よ、そして私はここのWSを奪いに来た」
そう言って、背中に着いた二本の義手を展開する。
片方には握られた小さな立方体、キューブが二つ点滅していた。
「それを返せ」
俺はそう言いながら引き金に手をかけ、じりじりと警戒しながら近づく、そうするとにやりとその女は笑い。
「欲しければ力ずくで、ね?」
そう言った。
俺はその言葉通り銃の引き金を引いたのだが。
「あははははは!」
機械の腕と自身の体を存分に使い、弾を笑いながら避け続ける。
こいつ、本当に人間か?
「くっそ」
俺は撃ちきった誰かの『9㎜拳銃』を捨て、腰に携帯しているナイフを抜く。
「あら、弾切れ?」
そいつは、俺の背後に一瞬にして回り込む、あまりにも滑らかな動きで、俺は反応できなかった。
「有馬さん!」
零が俺の背後めがけて拳銃を撃つ。
しかしそれを見事にかわし、女は零の背後に立つ。
「邪魔よ」
そう言って、零のことを機械の腕で薙ぎ払う。
「グハァ!」
零の呻き声が上がる。
「なぜ零に⁉」
WSである零は、普通の人には触れることも見ることもできないが、こいつは最初から零の声を聴き、見ることができていた。
それはpsのようなものをWASも作ったのかと思ったが、触れられるのは想定外だ。
「なぜって? う~ん……私もWSだからじゃないかしら?」
私もWS? 一体どういう事だ……。
そう考えていると、頭上から筒の形をしたグレネードが落ちて来る。
「時間切れね」
そう言って、その女は落ちたグレネードを蹴り飛ばす。
「待て!」
俺は、零が落とした『9㎜拳銃』を構えるが、視界を濃い煙が遮る。
「私の名前はヴェレッタ・アリア、またどこかで会いましょうね~若い司令官さん」
そう言って足音は遠ざかっていく。
俺は引き金を引けず、『9㎜拳銃』をポーチに戻した。
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